232話目 積極的な眼鏡女子と元前髪で顔が隠れている女子①
女子3人寄れば姦しいというけど、2人だけでも十分騒がしいとさっきの恋と剣と関わって思った。
昨日の夜からほとんど寝ていないことを思い出すと、急に眠気がきた。
ベッドに横向きで倒れる。
自然と目を閉じる。
もう少しで眠れそうな時に、喉が鳴る音とベッドが少し揺れた。
細目を開ける。
剣の顔が息のかかりそうなぐらい近い所にある。
何をしているのかと剣に聞こうとしたら、背中に柔らかいものを押し付けられる。
「狭いから音倉さんもっと端に寄ってほしい」
声で後ろに恋がいることが分かった。
「百合中君もっとこっちにきてください」
顔を逸らしながら両手を広げる剣。
否定するのも面倒で抱き着く。
石鹸のようないい匂いがしてきて……このまま……眠れそう……。
「今すぐ百合中君から離れて!」
ベッドが激しく揺れてから、恋の怒鳴り声が聞こえてくる。
「百合中君が寝ているので静かにしてください」
「そっちがその気なら」
剣に抱かれたまま、後ろに引っ張られる。
「早く百合中君から離れて!」
「このままだと百合中君も一緒に落ちますよ!」
「早く離れて! 早く!」
剣は体を起こしてベッドから下りて行き、すぐに恋が抱き着いてくる。
嗅いだことのない上品な匂い。
これはこれで癒されて眠たくなる。
「なんで影山さんが抱き着いているんですか⁉」
「音倉さんは十分百合中君に抱き着いたから、今度はあたしの番」
「そんなの関係ないです!」
剣は僕から恋を簡単に引き剥がす。
「邪魔をしないで」
「そっちこそ邪魔をしないでください」
2人が枕投げを始めた。
母の部屋に避難して鍵を閉めてから、ベッドに飛び込む。
★★★
目を覚ますと部屋が暗い。
愛と純が東京に行ったことを思い出して、何もする気をなくなる。
2人から電話やランイがきているかも。
自室に向かった。
「299勝299負、だから次に、枕を相手に当てた方が勝ち」
「はい。それで、いいですよ」
恋と剣は息切れをしながら、まだ枕投げをしていた。
毛布や机に置いていたものが床に落ちている。
後で片付ければいいな。
床に落ちているスマホ拾って、ホーム画面を開く。
愛と純から何もきてない。
「これで、わたしの、勝ちです」
「そんなの、当たらな、い」
僕の背中に剣の投げた枕が当たった。
2人は僕に視線を向けてから、部屋全体を見渡す。
「「ごめんなさい」」
深々と頭を下げてきた。
19時を過ぎているから晩飯を作ろう。
「片付けをしてくれたらいいよ。晩飯を今から作るから、片付けが終わったら下りてきて」
いつも日曜に買い物に行って1週間分の材料をまとめて買っているから、冷蔵庫の中はほとんど何もない。
冷凍うどんと卵があるから、かけうどんとだし巻きを作ろう。
数分で3人前の料理が完成しても、愛と剣は下りてこない。
呼びに行く。
布団に転がっている恋と剣。
「晩飯ができたよ」
2人は勢いよく立ち上がって部屋を出て行った。
「あたしの方が早かったです!」
「いいえ、わたしの方が早かったです!」
リビングに入ると、僕がいつも座っている隣の席の椅子を奪い合っている恋と剣。
キッチンに行き、茶碗に入れていたうどんの玉につゆを入れる。
うどんとだし巻きを、僕の対面の席2つに置く。
しぶしぶ恋と剣はそこに座って食べ始めて、すぐに目を輝かせる。
「うどんもだし巻きもすごく美味しい。優しい味で何杯でも食べたくなるよ」
「だし巻きもうどんも美味しいです。これならいくらでも食べられます」
同時に行った恋と剣は睨み合う。
「マネしないで!」
「そっちこそ真似しないでください!」
「おかわりがあるから言ってね」
僕がそう言った瞬間、恋と剣は食べるスピードが速くなって。
「「おかわり」」
同時に空になった茶碗を恋と剣は僕の方に向けてくる。
新しいうどんを入れて渡すと、1分もかからずに食べ終わって次のおかわりを頼んでくる。
わんこそばみたいに4杯を食べ終えた2人は、お腹が少し膨れて苦しそうに椅子に座っている。
洗いものを終えて風呂の順番を聞こうとしたけど、2人は動けそうにない。
僕が先に入ることにした。
「次どっちが風呂に入る?」
「あたしが入る!」
「わたしが入ります!」
風呂から出て恋と剣に聞くと、天高く手を上げながら答える。
2人はどっちが先に入るか喧嘩を始めると思ったけど、風呂場に向かって走っていく。
「あたしが先に百合中君の残り香を堪能するの!」
「百合中君がわたしに襲われるから見張りをすると言っていたのに、影山さんの方が変態じゃないですか!」
「変態じゃない。好きな人の残り香を堪能したいのは当たり前。音倉さんはしたくないならわたしの後に風呂に入れば、アンッ。胸触らないでよ。無理矢理入ろうとしないで! あたしが先にはいるの!」
騒がしくて何を言っているのか分からない声が聞きこえてくる。
ソファに座ってテレビを点けていると気づく。
今、家の風呂場で女子2人が一緒に風呂に入るという百合展開になっていると。
恋と剣の風呂を覗けば嫌われると頭に浮かび、少しだけ覗きたい気持ちもなくなった。
恋が先に風呂から上がってきた。
「いいお湯だった、ありがとう」
「リビングで寝るのでいい?」
「うん。それでいいよ」
ソファの前にある机をのけてから、引き出しから布団を取り出す。
「布団を敷くぐらい自分でやるよ」
「もう終わるから気にしなくていいよ」
2つの布団を敷き終わって立ち上がろうとすると、僕の隣に座った恋が僕の手を引っ張る。
突然のことだったから、踏ん張ることができずに恋のことを倒しながら四つん這いになる。
恋の少し濡れた髪から僕と同じシャンプーの匂いがしてきた。
変な感じがしたけど嫌ではない。
むしろ……。
「百合中君、風呂から上がりました。影山さん何をしているんですか?」
剣は髪から水滴を垂らしながら、頬をピクピクとさせている。
「まだ何もしてない」
「今からするつもりなんですね。そんなことさせません。今すぐ百合中君から離れてください」
僕は立ち上がって、剣の所に行き手を握る。
「もしかしてわたしを選んでくれるんですか?」
「髪を乾かすからこっちにきて」
剣が何を言っているのか分からなかったから話を流して、脱衣所に連れて行く。
手を離して流し台の引き出しにあるドライヤーを取り出す。
「熱かったら言ってね」
「……お願いします」
髪を軽く持ち上げて地肌にドライヤーの風を当てていく。
「リビングに剣が寝る用の布団を敷いたんだけどよかったかな?」
「……」
「凄く嫌そうな顔をするね。いつも通り母さんの部屋で寝るなら布団しまうけど、どうする?」
「百合中君の手間になるので、リビングで寝るので大丈夫ですよ」
会話をしながら乾かしていると、恋と一緒で剣からも僕が使っているシャンプーの匂いがしてきて……。
よく分からない気持ちが僕の中に芽生えている。
「百合中君」
「熱かった?」
「熱くないですよ。すごく気持ちいいです。心地よくて……このまま眠れそうです」
ふらつく剣の体を抱きしめる。
「か、か、か、鏡に百合中君に抱きしめられているわたしが映っている……」
顔を真っ赤にした剣はその場で座り込む。
「後はわたしでできるので、先に戻っていてください」
ドライヤーを剣に渡してから、リビングに行くと頬を膨らませている恋がいた。
「剣さんばっかりずるい。あたしも髪を乾かしてほしい」
恋の髪を触る。
「乾いているからしないほうがいいよ。ドライヤーし過ぎると髪が痛むから」
「知っているけど、音倉さんみたいにわたしもしてほしい」
「明日するから言って」
「ありがとう」
「……何で、僕の足に抱き着いているの?」
「…………一緒に…………寝よう」
「おやすみ。何か困ったことがあったらランイしてね」
別に恋と剣と並んで寝るのに抵抗はない。
でも、その抵抗がないのが問題だと思い断った。
自室に行き、2人が入ってこないように部屋に鍵をかけた。
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