229話目 幼馴染達が妹に

 自宅に戻って、ショックを隠せずにリビングのソファに呆然と座っている。


「こうちゃんどうしたの?」

「らぶちゃんとじゅんちゃんが遠くに行ってしまうから寂しい」


 僕の前に立っている愛と純を心配させたくないけど、本音が漏れる。


 愛はソファの上に立って僕の頭を撫でる。


「らぶ達がいない間、こうちゃんが寂しくならないように、今日は特別にらぶを妹のように甘やかしてもいいよ!」

「私も今日1日こうちゃんの妹になる」


 2人の言葉を聞いた瞬間、さっきまでの鬱気分が嘘みたいに晴れる。


 立ち上がってよっしゃー! と叫んでから、ソファに座り直して太腿をパンパンと叩く。


「らぶちゃんとじゅんちゃん、ここに座って」

「いいよ!」

「……おう」


 愛は勢いよく、純はおずおずと僕の太腿に座る。


 純は僕の頬に自分の頬を擦りつけてきた。


「らぶもするよ!」


 空いた頬に愛も頬を擦りつけてくる。


 2人のプニプニとした柔らかい感触に癒される。


 頭を撫でると、愛と純は気持ちよさそうに目を細めている。


 いつもの愛なら嫌がる。


 今日1日僕の妹になるって言ったから、嫌がらないのだろう。


 もっと幼馴染達を甘やかしたいけど、やりたいことがあり過ぎてしぼれない。


「らぶちゃんとじゅんちゃんは僕にしてほしいことはある?」

「らぶはこうちゃんといられるだけでいいよ!」

「私もらぶちゃんと一緒。こうちゃんといられるだけで幸せ」


 こんな所に直視できないほど可愛い天使達がいる!


 衣食住の全て、愛と純が体を動かさずに満たせるようにしたいと宣言する。


 愛と純は受け入れてくれた。


「らぶちゃんとじゅんちゃんは朝食を食べた?」

「まだだよ! いっぱい遊んだからお腹空いたよ」

「私もまだ」


 料理を作る前にやることがある。


 愛は甘いもの、純は辛いものの匂いを嗅ぐだけで気分が悪くなる。


 今日はとことん愛と純を甘やかすと決めたから、1ミリでも2人を不快にさせないための配慮をする。


 純に愛の朝食を作ることを伝え、純を抱きかかえて僕の部屋のベッドに座らせる。


 何かしてほしいことがあったら、スマホで呼ぶように言ってからリビングに戻る。


 米を洗い炊飯器にセットして早炊きボタンを押す。


 冷蔵庫にあった材料で豚キムチを手早く作った。


 ソファでテレビを見ている愛を抱きかかえて、4人掛けの机の椅子に座らせる。


 愛の前に豚キムチとご飯を並べる。


 いただきますと早口で言った愛は、口パンパンに豚キムチを入れて微笑んでいる。


 食べさせたい気持ちはあるけど、純の朝食を作らないといけないので我慢……できなかった。


「らぶちゃん、1口だけで食べさせていい?」

「らぶはお姉さ……いいよ! 今日はこうちゃんがらぶのお兄さんだからね!」


 豚キムチに夢中になった愛は妹の設定を忘れそうになっていたけど、思い出してくれて嬉しい。


 豚とキムチの量が均等になるように箸で摑んで、愛に差し出す。


 小さな口を大きく開いてパクッと食べる。


「こうお兄さん! 美味しいよ!」


 こうお兄さん! こうお兄さん! こうお兄さん!


 頭の中で愛の言葉を何度も無限リピートする。


 もう1口食べさせたい……もう1人の妹がお腹を空かしたら駄目なので我慢。


 愛にも何かあったら連絡するように言って、純の家に向かう。


 純の家のリビングに入ると恭弥さんがいた。


 キッチンを使う許可をもらって、時短のカップケーキを作る。


 味はバニラ、チョコ、抹茶。


 甘い匂いが漏れないように、皿に乗せたカップケーキにラップをして自宅に戻る。


 自室に行くと、純は僕の毛布に顔を埋めて鼻をスンスンと鳴らしている。


「こうちゃんの匂い好き~。この優しい匂いを嗅いでいると心の中がポカポカする~」

「僕もじゅんちゃんの匂い好きだよ! 爽やかな林檎の匂いがして、いつまでも嗅ぎたくなるよ」


 顔を上げた純の顔は蕩けた顔だった。


 すぐに引き攣った顔に変わる。


 ベッドに端に行き毛布を全身に被る純。


 机の上に皿を置いて純に近づく。


 純は顔を少し出して聞いてくる。


「……毛布を嗅がれるのは嫌?」

「全然嫌じゃないよ。じゅんちゃんなら大歓迎」

「……おう」


 恥ずかしそうに呟く純。


 少しして、クンクンと鼻を鳴らした純は、机の上にあるカップケーキを見る。


 皿を取りに行き、カップケーキを純の方に向ける。


 薄い唇が素早く開き、拳ぐらいの大きさのカップケーキを1口で食べる。


 喉を詰まらせそう。


 早足で純の家に行き温めのココアを作る。


 自室に戻ると、6個あったカップ―ケーキを全て純は食べていた。


 ココアを渡すと、喉が渇いていたのか一気に飲み干した。


 皿とコップは愛が帰ってから洗うとして、甘い匂いがついているから消臭スプレーを自分にかけて1階に下りる。


 リビングに入ると、愛はソファに仰向けで寝ている。


 お腹が少しポッコリと出ているのが可愛い。


 部屋の中のキムチの臭いを消すために、窓を全開にして消臭スプレーをこの部屋全体にかける。


 ある程度臭いがとれたな。


 愛が寒そうに震えている。


 急いで毛布を愛にかけて窓を閉める。


 2階から純を抱えて連れてきて愛の隣に座らせる。


 2人で毛布を被っている姿が尊い過ぎて泣きたくなっていると、愛が聞いてきた。


「こうちゃんはらぶ達にしてほしいことはないの?」

「2人を甘やかすことができているから、今のままで十分だよ」

「してもらうばっかりは嫌だから、他の願いはないの?」


 考えようとしていると、純が耳を真っ赤にしながら言ってくる。


「……らぶちゃんと少しならエッチなことをしてもいい」

「お願いします」


 気が付くと、口にしていた。


「じゅんちゃんもこうちゃんも……エッチなことは駄目だよ!」

「どうしてエッチなことは駄目?」

「……エッチなことしたら……エッチなことをしたら……赤ちゃんができちゃうよ……」


 顔を真っ赤にして純から視線を逸らしながら愛は呟く。


「赤ちゃんができないエッチなことをすればいい」

「そんなのないよ! 少し前に彼氏がいる子が言っていたよ! ……エッチなことしたら赤ちゃんができるから彼氏にはさせないって!」

「らぶちゃんは赤ちゃんができる方法を知っている?」

「……エッチなことをしたらできる……」

「具体的には?」

「……口と口のキスとか……じゅんちゃんとしたことあるよ!」


 愛が大きな目を見開いて自分のお腹に手を当てる。


「じゅんちゃんとの赤ちゃんがここにいるの⁉」

「らぶちゃん落ち着いて。キスでは赤ちゃんできないから」


 慌てていた愛は純に頭を撫でられて落ち着く。


「……キスで赤ちゃんができないなら、どうやったら赤ちゃんはできるの?」


 純は僕を一瞥してから、愛を連れて廊下に出て行く。


 数分して、顔を真っ赤にした2人が帰ってくる。


 その反応で、純が愛に子どもの作り方の具体的な方法を教えたんだと分かった。


 再びソファに座る2人は、さっきより少しだけ間を空けている。


「私達が東京に行っている間、こうちゃんが寂しくないように思い出作ってあげよう」

「……うん」


 視線を合わせずに言った純の言葉に、愛は小さく頷く。


 純は愛の体を軽く押してから覆い被さる。


 小さくて可愛い愛が身長高くて格好いい純を攻めるのが好きだけど、逆のパターンのこれはこれでそそられるものがある。


「こうちゃん、私はこれかららぶちゃんに何をすればいい?」


 幼馴染達が引かない程度で、できるだけ過激なことを必死に考えて口にする。


「じゅんちゃんがらぶちゃんの唇を猫みたいにペロペロと舐めてほしい」

「……おう」


 純は愛にゆっくりと近づき舌を出して……舐めた。


「じゅん、ちゃん、くすぐっ、たいよ」


 悶えながら微笑を浮かべる愛を、純は恍惚とした顔で舐め続けている。


 この光景を写真で撮りたい。


 いや、今僕の中で昂っている気持ちをぶつけるのは写真では物足りない。


 絵は自分の感情をぶつけるものだと、どこかで聞いたことを思い出す。


 下手なりに興奮したこの気持ちを、真白な紙に殴り描く。

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