226話目 プレゼント交換

 クリスマスイブが終わって今日はクリスマス。


 学校にきてから休み時間になる度に、鞄に入れている愛からもらったお玉を見ている。


 持ち手の所は淡いピンクでお椀型になっている所は赤色、愛のセンスがよ過ぎる。


 今日のプレゼント交換も楽しみだな。


 チャイムが鳴る。


 いつの間にかホームルームが終わっている。


 愛と純に話しかけようとしたけど、愛は純を連れてどこかに行ってしまう。


 教室で2人を待っていても戻ってこない。


 探しに行こうと教室を出ると、恋とぶつかりそうになり咄嗟に止まる。


 僕達は互いに謝る。


「らぶちゃんとじゅんちゃんを探しに行くから」

「らぶちゃんからの伝言で、小泉さんと2人で遊びに行くから勉強の時間になったら百合中君の家に行くって」


 大好きな幼馴染に除け者にされたことにショックを受けた。


 でも、すぐに僕と恋を2きりにするために、愛がしたことだと気づく。


「今からどこか遊びに行かないかな?」

「行こうか」


 僕達は外に出る。


 校門の所に剣がいて話しかけてきた。


「今から遊べますか?」

「いいよ。3人で遊ぼう」

「今からわたしと百合中君で遊べますか?」

「恋も一緒に遊びに行くよ」

「今からわたしと百合中君と1対1で遊べますか?」

「……」


 同じような言葉を繰り返す剣に少し怖さを感じる。


「恋さんは3人で遊ぶのでいいよね?」

「あたしと百合中君と2人で遊びたいかな」


 2人は耳が詰まっていて僕の話が聞けていない、と思うほど鈍感ではない。


 どちららかを選ぶことはできない。


 代案を口にする。


「1時間ずつ交代して、僕と2人で遊ぶのはどう?」


 恋と剣は見つめ合ってから頷く。


 2人はじゃんけんをして、先に恋と遊ぶことになった。


 恋に何をしたいのか聞くと、プレゼン交換をしたと言った。


 僕の町から学生が行ける範囲で大抵なものが揃う、隣町のモールに向かうことにした。


 駅で電車に乗り人波に流されるように壁際に行く。


 帰宅ラッシュなのか込んでいる。


 中年の男子が愛と剣の方を何度も一瞥していることに気づく。


 男子はゆっくりと汚い手を2人に伸ばそうとしている。


 恋と剣を囲むように壁に手をついて男子の方を睨む。


 ヒィーと情けない悲鳴を上げた男子は、人込みを掻き分けて逃げて行く。


 逃げていく男子の方を恋と剣は見ていた。


 男子がしようとしていたことに気づいていたのだろう。


 痴漢の被害にあった女子は一生もののトラウマになると、テレビで言っていた。


 未遂でも行為が向けられていると分かっただけで、恐怖の対象になる。


 その証拠に恋と剣は震えていた。


「僕が守るから恋さんと剣は安心して」


 2人の気持ちを和らげるための言葉をかけた。


「「……百合中……格好いい」」


 恋と剣の震えは止まり、蕩けた目で僕を見ながら呟く。


 僕に対して2人の好感度が上がったことが目に見える……恋愛感情を受け入れることはできないから、考えて行動しないといけない。




 モールに着く。


 僕達から剣が見えない場所に移動した。


 適当に歩いていると、恋が聞いてくる。


「百合中君は何かほしいものはある?」


 趣味は特にないし、服は今あるので十分。


 調理道具はお玉を買おうと思っていたけど、愛からもらったから必要ない。


「特にないかな」

「あたしもすぐに思いつかないから、適当に」


 雑貨屋の方に恋が視線を向ける。


「あの店に入っていいかな?」

「いいよ」


 2人で雑貨屋に入り商品を見て回っている途中で、重要なことを忘れていることに気づく。


 今日のプレゼント交換で、愛と純に渡すプレゼントを買ってない。


 死刑と言っても過言ではない罪に体を震わせる。


 急いで愛と純のプレゼントを買おう。


 店内を早足で回る。


 愛と純にあげたいものが多過ぎて悩む。


 バスケットボールぐらいの大きさの犬と猫のデフォルメされたぬいぐるみを手に取る。


 ふかふかしている触り心地。


 犬は愛、猫は純にどこか似ている。


 このぬいぐるみをソファに隣同士に座った愛と純が抱きしめている所を妄想する。


 兄的視点から見ると可愛いし、百合好き視点から見ると尊い。


 完璧だな。


 2つのぬいぐるみを持ってレジに向かおうとしていると、白黒で猫と犬のイラストが描かれているマグカップが目に入る。


 そのイラストの犬と猫も愛と純にどこか似ていて気になる。


 マグカップは少し地味で、手にしているぬいぐるみの方が愛と純は喜んでくれそう。


 ……本当にそうだろうか。


 僕が知っている範囲で愛と純がぬいぐるみを持っている所を見たことがない。


 それに、愛は子どもっぽいのを嫌う傾向があるし、純は可愛いものは自分には似合わないと思っている。


 マグカップだったら、多少可愛いイラストが入っていても2人は気にしない。


 それにお揃いのマグカップだったら、気づかずに2人が間接キスをする可能性がある。


 純が間違えて愛のマグカップに入っているものを飲んでしまう。


 それに気づいた純は照れて、愛がどうして照れているのか問い詰める姿が見られるかもしれない。


 ぬいぐるみを元の位置に戻して、マグカップ2つを手に取る。


「可愛いけど普段使いできそうなマグカップだね。百合中君はそれを買うの?」

「らぶちゃんとじゅんちゃんにプレゼント交換で渡すために買うのは決まっているけど、僕が買うのは考えている」

「百合中君が買うんだったらあたしも一緒なのを買っていい?」


 その言葉を聞いて、愛と純以外にこのマグカップを買うのは蛇足と気づく。


 愛と純だけがお揃いだからこそ、百合っぽさが引き立つ。


「やっぱり買わなくていいかな」

「……そっか」


 残念そうに呟いた恋は再び商品を見始める。


 愛と純のプレゼントを買った。


 恋に渡すプレゼントを探すけど、恋は何がほしいのか分からない。


 なんとなくハンドクリームを手に取る。


 檸檬さんが美容師はよく手荒れすると言っていた。


 恋も檸檬さんの美容院を手伝っているから使うだろう。


 ハンドクリームを買って恋を探す。


 すぐに見つけて、恋が凝視している方を見る。


 10万は最低する時計が並んでいた。


 こんな高いものをもらえない。


「時計はスマホがあれば十分だから、他のものがいいな」

「百合中君がそう言うなら、他のものにするね」

「そこにいる彼氏さんにプレゼントですか?」


 恋が移動しようとすると、女子の店員が僕を見ながら話しかけてきた。


「そうです。彼氏です」

「彼氏じゃないです」


 愛が僕より先に肯定して、後から僕が否定する。


「仲の良いカップルですね」


 上品な笑みを浮かべた店員は提案してくる。


「彼女さんが彼氏さんにプレゼントでよく売れているのが、パジャマや鞄や時計ですね。特にこの店の鞄は丈夫で壊れにくく、値段も安いのでお勧めです」


 専門学校に通い始めたら使う鞄を買いたいと思っていた。


 鞄を買ってもらうことにした。


 教材や筆記用具を入れるのに、丁度いい大きさの鞄があったから手に取る。


 値段もそこまで高くない。


 これがいいと恋に渡した。


「百合中君にメリークリスマス」


 先に店外に出ていると会計を済ませた恋がやってきて、鞄の入った袋を渡してきたので受け取る。


「ありがとう。僕からも恋さんにメリークリスマス」

「ありがとう! 開けていい?」

「いいよ」

「お客さんにシャンプーを何度もして、手が痛くて困っていたから大事に使うね。あたしのことよく見ていてくれていたんだね……嬉しい」


 頬を赤くした恋は1歩僕に近づく。


「目が痛くて何か入ったかもしれないから、見てもらっていいかな?」


 唇を窄めてゆっくりと……。


「1時間経ちました。交代です」


 僕達の間に入った剣はそう言った。


 恋は不満そうな顔をしながらスマホを見て、分かったと答えた。

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