211話目 脅される大きな幼馴染

 恭弥さんが作ってくれた昼食を食べて、僕達は学校に向かった。


 教室に入ると、弁当を食べているクラスメイトがいる。


 僕の右隣の席を見ると、愛はいなくて無性に寂しくなる。


 恋にランイを送って愛の様子を聞く。



『漫研部で漫研部員達と弁当を食べているから、心配しなくていいよ』



 すぐに返事がきた。


 ありがとうと送る。


 普段は学校にいる時はスマホを鞄の中に入れている。


 愛にもしものことがあったらすぐに分かるように、マナーモード(バイブ)にしてポケットに入れる。


「おはよう、親友! 寝坊でもしたか?」


 純に声をかけようとしていると、角刈り男子がやってきた。


「そんな感じだよ」

「親友と小泉は俺と違って頭がいいからな。少しぐらい学校をさぼっても大丈夫だな」


 肩を叩いてこようとしたから避ける。


「そういや、休み時間にここにきた時に、矢追たんが親友と小泉の席を見て寂しそうにしてた。学校に着いたこと矢追たんに知らせたのか?」

「授業が始まったら、らぶちゃんも教室に戻ってくるからその時に伝えるよ」

「いつもの親友だったら、学校に着いてすぐに矢追たんに会いにいくはずだろ。喧嘩でもしたのか?」

「君には関係ないだろ」

「親友のことだから、関係なくないだろ」


 角刈り男子を無視して、純と一緒に屋上に向かう。


 後ろから追いかけてくる角刈り男子。


 屋上に着いて何度も悩みがあるなら離してほしいと言われ、根負けして僕達の今の状況を話す。


「小泉が矢追たんにアイドルになることを認められたら、全て解決するってことだな。もちろん、俺も力を貸すけど、協力してくれる人は多い方がいいな。今から鳳凰院を呼んでくるから待っていろ」


 すぐに角刈り男子は鳳凰院を連れてきた。


 鳳凰院に事情を話すと、軽く手を叩いて含み笑いをしながら言う。


「そんな王子様の羞恥心をなくす方法を知っていますわ」

「どんな方法?」


 純の問われた鳳凰院は純の顔を凝視して涎を垂らす。


「麗華の口から涎が出ている」

「邪なことなんて何も考えてないですわ! 信じてほしいですの!」


 角刈り男子がハンカチで鳳凰院の涎を拭く。


 鳳凰院は目を丸くして、言い訳っぽいことを口にした。


「おう。よく分からんけど、鳳凰院のことは何があっても全て信じる」

「……強さん」

「……麗華」

「じゅんちゃんの羞恥心をなくす方法って何?」


 見つめ合った2人が、自分達の世界に入って行くのを邪魔する。


「そうでしたわ。実行する直前に話した方が効果あるので、放課後わたくしの家にきてもらっていいですの?」


 僕と純は特に用がないから頷く。


 放課後。


 鳳凰院は準備することがあるから、30分後に自分の家にきてほしいと言って帰った。


 教室で時間を潰して、鳳凰院の家に向かう。


 鳳凰院の家に着き、家政婦にリビングに通される。


 前に入っときは、真中に純用の椅子が置かれて、両端にソファがあった。


 今日は違う。


 椅子が置かれていた所がステージになっている。


 その前に30人ぐらいの女子が立っていた。


「王子様がきましたわ!」

「今日は王子様じゃなくて、アイドルですよ!」

「今までアイドルに興味がなかったけど、今日からアイドル好きになりそう!」


 女子達は純に向かって黄色い声援を送る。


 状況が掴めない。


 やってきた鳳凰院は純の手を摑み、ステージに上がる。


 鳳凰院が純にマイクを渡して、ステージから下りる。


 純が練習している曲が流れ始めた。


 大勢の視線を向けられた純は耳を赤くして棒立ち。


 女子達は純に向かって、「可愛い!」「抱きしめたい!」「ペットにしたい!」と叫ぶ。


 曲が終わる。


 少し安心したように純が表情を緩める。


 すぐに、同じ曲がかかり始める。


 純が視線で僕に助けを求めてきた。


 ステージに上ろうとすると、鳳凰院に手を摑まれる。


「純さんの頑張り所だと思うので、見守っていてほしいですの」

「これに何の意味があるの?」

「羞恥心に慣れるためですわ。純さんは器用なので、数をこなせば人前でも歌って踊れるようになりますわ」


 ……純のためだから、心を鬼にしよう。


 唇を噛みながら、涙目になっておどおどしている純を見守る。


 同じ曲が5回かかった後に音楽が止まる。


 これで純は地獄から解放される。


 鳳凰院は大事な所がぎりぎり隠れる布面積の水着を純に渡す。


「もっと恥ずかしい気持ちになれば、歌や踊ることが恥ずかしくならないのでこの水着を着てほしいですわ」


 純は怒った猫のよう髪を逆立てて、鳳凰院を威嚇する。


「この手は使いたくなかったですけど、純さんのためなら仕方がないですわ」


 鳳凰院はスマホを取り出して、画面を純に向ける。


 目力を強くした純は、鳳凰院のスマホを奪おうとするけど逃げられる。


「純さん、どうすればいいか分かりますの?」

「……おう。その水着を貸して」

「ありがとうございます。わたくしの部屋で着替えてほしいですわ」


 リビングを出て行った純は、おずおずと戻ってくる。


 ピチピチな水着を着ているから、ちょっとしたことで大きな胸が露わになりそう。


 この場に男子がいなくてよかった。


 それから、恥ずかしさの限界で自棄になったのか、純は大声で歌いながら踊りだした。


 純の大きな胸がブルンブルン揺れる。


 周りからポタポタと音が聞こえて、床を見ると血だまりができている。


 次々と鼻血を流した女子達は、満足そうな笑みを浮かべて倒れる。


 最後まで立っていた鳳凰院は、


「……尊過ぎます!」


 純の胸に向かって、拝みながら倒れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る