202話目 小さな幼馴染の筋肉痛

 朝、愛の家に入る。


 2階から、愛の悲鳴が聞こえてきた。


 急いで階段を上って、愛の部屋に入る。


「ママ、やめ、て、いた、い。いた、いから」

「痛みに悶えるらぶちゃんが可愛いいわ。ほら、つん、つん」

「やめ、て」


 涙目で体を捩っている愛を、ニヤニヤしながら突いている琴絵さん。


「らぶは、こんな痛みに、負けない」


 両手をベッドに着けて、必死に力を入れている愛の顔が赤くなっていく。


 琴絵さんは必死に頑張っている愛の脇腹を、人差し指でなぞる。


「あはは、ははは、くすぐっ、たいよ」


 爆笑しながら倒れた愛は再び痛がり始めた。


「琴絵さんでもらぶちゃんをいじめるのは許しませんよ」

「そう言えば、ご飯を作っている途中だったわ! 急いで作らないと!」


 琴絵さんを睨むと、逃げるように去って行く。


「大丈夫?」


 昨日、いつも以上に道場で体を動かしていたから、筋肉痛になったのだろう。


「これぐらいの痛み、お姉さんのらぶは、全然、平気、だよ」


 苦虫を噛み潰したような表情で愛が言った。


「大人になると筋肉痛は遅れてくるらしいよ。僕はその日に筋肉痛になるのに、やっぱりらぶはお姉さんだね」

「そうだ、よ。らぶは、お姉さん、だよ」

「お姉さんだったら、無理して自分の体を虐めたりせずに周りの人に頼るよね?」

「うん。らぶは、お姉さん、だから、無理しない」


 これで自分のことは自分でしないと気が済まない、愛の世話を堂々とできる。


 ハンガーにかかっている制服を手にしてベッドに腰かける。


「らぶちゃん服を脱がせるね。できるんだったらばんざいして」

「らぶは、1人で、着替えれるよ」


 僕が持っている制服をぷるぷると震えた手で摑む。


 愛にも思春期がきて、異性の僕に下着を見られるのが恥ずかしいのかもしれない。


 純に愛の着替えを手伝ってもらえばいいな。


 立ち上がって純を呼びに行こうとすると愛が言う。


「着替えさせてもらうのは、頼るんじゃなくて、赤ちゃん扱いだよ」

「大人だって病気になったら、着替えを手伝ってもらうよ」

「らぶは病気、じゃなくて、きんにく、つうだよ。だから、らぶ、1人で着替えるよ」

「勝負をしよう。じゃんけんで勝った方が負けた方に命令をできる。どう?」

「いいよ。らぶが、絶対に、勝つよ」


 これで、僕が勝って愛の着替えをさせてほしいと頼めばいい。


 愛がグーかパーしか出さないことを知っている。


 パーを出し続けて勝つことができた。


 予定通り考えていたことを口にする。


 愛はいいよと答えた。


 愛のパジャマのホックを下ろしていると、琴絵さんが部屋に入ってきて箱を渡してくる。


「高校生だからゴムはしっかりした方がいいわよ」

「なんで、ゴムが、いるの?」

「幸君がらぶちゃんの服を脱がしているってことは、今から2人はエッチなことをするんでしょ? エッチなことをしたら赤ちゃんができ、ふごごごご」


 愛に余計な知識を与えたくない。


 琴絵さんの口を塞ぐ。


「エッチ、なこと、なんて、いたたたたたたたたた」


 叫びながら立ち上がった愛は、悲鳴を上げる。


 琴絵さんがここにいたら邪魔になる。


 廊下に出して、部屋の鍵を閉める。


 ベッドに仰向けに倒れた愛がはぁはぁと言いながら上目遣いで、「こうちゃん、は、らぶに、エッチな、こと、するの?」と聞いてきた。


 今すぐここに純を連れてきたい。


「僕とらぶちゃんは家族みたいなものだからエッチなことをしたいとは思わないよ」


 家族と思っていても、愛と純がエッチなことをしている所は見たいけどと言いたくなるけど我慢。


「ほん、とう?」

「うん。本当だよ。だから、らぶちゃんの服を着替えさせてほしいな」

「いいよ」


 数分かけて座った愛に、制服を着替えさせる。



★★★


 

 1人で純の家に入ると、玄関で黒の透けている下着姿の純がいた。


「うぁあああああああああああああああああ!」


 視線が合うと純は悲鳴を上げて、2階へ逃げていく。


 恥ずかしがっていることは分かっている。


 純の気持ちが落ち着くように、少し待ってから純の部屋に入る。


 毛布を被っている純が部屋の端にいた。


 下着を見たことを謝ろうとしてやめる。


 わざわざ純の恥ずかしがっていることを、掘り返さない方がいい。


「らぶちゃんが筋肉痛だから、早めに学校に行くよ。らぶちゃんの家で待っているね」

「こうちゃん、待ってほしい」


 おずおずと純が、顔だけを毛布から出す。


「こうちゃん……見た?」


 下着のことだと思い素直に頷く。


「こうちゃんが見たのは麗華さんからもらった下着で、私が買った下着じゃない」

「そうなんだね」

「洗濯ものが溜まっていたから、麗華さんからもらった下着を穿いていた。普段はあんな大人っぽい下着は穿いていない」


 目力を強くしながら、早口で喋る純の頭を撫でる。


「汗臭くない?」

「全然臭くないよ」


 むしろ濡れた髪から林檎のフレッシュないい匂いがする。


「よかった。急いでシャワー浴びたから汗流せてないか心配だった」


 愛に抱き着かれた時に言ってほしい台詞だな。


 って、思っている場合ではない。


 涼しくなっているから、生乾きの髪を乾かさないと風邪を引くかも。


 脱衣所からっ櫛とドライヤーを取ってくる。


 ベッドに座った純の後ろに行き、ドライヤーの風を当てていく。


 純の前髪が伸びて目より下の所にあるから切りたいな。


 髪を1度も切ったことがない。


 檸檬さんに切り方を教えてもらったできそうだったら、純に髪を切らしてもらえるか頼もう。


 髪を乾かしてから、櫛で梳かしていく。


 滑らかな髪の感触が気持ちよくて時間を忘れそう。


 恭弥さんが学校に行く時間だと、知らせにきてくれた。


 僕達は急いで愛の家に走った。

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