199話目 漫画を描こう
放課後。
漫研部の部室に入ると、女子が4人座っていてその対面に僕達は座る。
「らぶは今度バトル漫画を描くんだけど、何を描いたらいいか分からないか案がある人は教えてほしいよ!」
この部屋にいる唯一の1年生女子が、おずおずと手を上げる。
「漫画をほとんど描けないわたしですけど、案を出してもいいですか?」
「もちろんいいよ! 真理!」
「ありがとうございます。部長はバトル漫画を描くのは初めてですよね?」
「そうだよ! こうちゃんとじゅんちゃんのことしか描いてないよ!」
「だったら、王道がいいと思います。弱い主人公が努力をしたり、仲間たちと切磋琢磨しながら強い敵に立ち向かっていく話はどうですか?」
「描いてみるよ!」
無我夢中でスケッチブックに描き始めた愛は、数分して机の真ん中にそれを置く。
「できたよ! 愛がめくっていくよ!」
全員が集中して愛の簡略的に描いた漫画を見た後、恋が口にする。
「百合中君と矢追さんの絵を描いていないのに、絵のクオリティは下がっていない。でも、内容が鬼殺の刀そのものだから、これは編集者に見せられないよ」
漫研部女子4人は遠慮するように小さく頷く。
「描き直すよ!」
それから、何個かプロットを愛が描いた。
全てが何かしらの既存の作品とそっくりだと、僕と純以外が言った。
助言をしたいけど、百合漫画以外読まないから何を言ったらいいか分からくて歯がゆい。
純も僕と同じ気持ちなのか、眉間に皺を寄せている。
鞄から小さ目な手帳を取り出した1年女子は、愛の横に行き話しかける。
「わたしはなりたい系の転生して無双する話が大好きで、自分でも考えたりします。あらすじだけですけど、聞いてくれますか?」
「……いいよ」
疲れ切った愛は覇気のない声でそう言った。
「タイトルは『ニートにならないといけなくなった僕はチートと能力を手にした。そんなのいらないから働かせろ』。ワーカホリックの主人公は過労死をして異世界に転生します。そして、神様から主人公はチート能力をもらって強い敵を簡単に倒します」
目を見開いた愛は、勢いよく立ち上がる。
「いいよ! 凄くいい! それを漫画にしていい?」
「いいですけど、具体的なことをどう決めればいいか分からずに悩んでいます」
1年女子の手を摑んだ愛はキラキラと目を輝かせる。
「たくさん質問したいことがあるから聞いていい⁉」
「……はい」
愛の勢いに押されて、1年女子は1歩後ろに下がる。
「主人公は学生? それとも大人?」
「ワーカホリックって仕事に依存している人のことなので、社会人の方がいいですかね? ……学生がバイトのやり過ぎのパターンもありですね……えっと、どっちの方が面白いと思いますか? 部長が質問しているのに質問で返してごめんなさい」
「真理はこの作品を誰に、どんな風に、読んでほしい?」
「……わたしと同じぐらいの年齢の人が、思わず笑ってしまうような感じにしたいです……なので、感情移入しやすいように主人公を高校生にして、コメディ感強めにしたいです」
「高校生の主人公は男と女どっち?」
「今まで読んできた小説が男の1人称が多いので、男にしたいです」
愛はスケッチブックの1番後ろのページを破って、その紙に『ジャンル、転生コメディ。主人公、男子高校生』と箇条書きした。
「主人公はどうしてニートにならないといけないの? 主人公がもらったチート能力は何?」
「ニートにならないといけない理由はまだ思いついてないです。能力の方は考えていて、口にしたことを何でも叶えることができます」
「何でも叶える能力があるのに、どうしてなりたくないニートにならないといけないの?」
「……確かにそうですね……。……お金を稼ぐために能力を使おうとしたり、行動をするだけで眠ってしまうのはどうですか? 働くことが大好きな主人公がだから惰眠をむさぼるのは大嫌いなことにして……」
「面白いよ! 凄く面白いよ!」
机をバンバンと叩きながら興奮する愛。
自信なさげに言った1年女子は、ほっと溜息をした。
それからも小説の細かい設定について、2人は話し合う。
2時間後、1年女子は愛にお礼を言って、部室から出て行く。
「真理はこれから小説を書くんだって! すごく楽しそうでいいね!」
「らぶちゃんのバトル漫画はどうなったの?」
「らぶはこうちゃんとじゅんちゃんのことを描くのが……1番楽しいって……それ以外はしたくないって……思ったから……バトル漫画は………かかな……い………………」
限界がきたのか、愛は机の上にゆっくりと頭を乗せて寝息を立てた。
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