189話目 エピローグ 恋愛相談
昼休みになって廊下の方を見ると、予想通りの女子が僕の方を見ている。
気づかない振りをして弁当を食べたい。
名前を呼ばれたから、しぶしぶそっちに向かう。
行かないと愛と純に他人を無視する嫌な人と思われるかもしれないから。
「ここにきたら恋の悩みを解決してくれると聞いてきました。相談にのってください」
僕の所に学年、性別問わずに恋愛相談をしてくる生徒が1日に1回はくるようになった。
原因は鳳凰院と角刈り男子が僕のおかげで付き合えたと、周りに言ったから。
角刈り男子は人望がないからほとんど影響はない。
問題なのは、100人以上いる純のファンクラブをまとめている鳳凰院の方。
鳳凰院の所為で学校での自由時間がほとんどない。
文句を言いたいけど、鳳凰院は純の友達だから何も言えない。
「誰に聞いたか知らないけど、僕は恋愛相談を受けてないよ」
「そうなんですか? でも、百合中さんは恋愛に対して百戦錬磨だから、頼りになると聞きました」
「僕は恋愛をしたことないし、男女の恋愛に興味ない。興味があるのは大好きな幼馴染達が百合カップルになるかどうかだけだよ」
「面白い冗談ですね。緊張をしているわたしを笑わせてくれるなんて、さすが百合中さんです」
相談にきた全員に同じ文言で断っているけど、今と同じ様な反応をされるのがだいたい。
鳳凰院の恋の応援をしたのは純に頼まれたから仕方なくした。
そうでなかったら、他人の恋愛なんてどうでもいい。
適当に頑張ってと言って去ろうとすると、手を摑まれる。
「お願いします! 綾崎先輩のことが本気で好きなんです! 相談にのってください!」
断っても今までの経験でどこまでも追ってくることが分かっている。
仕方なく話を聞くことにした。
相談者は1年。
同じ図書委員の3年の男子に高い場所の本を取ってもらって好きになった。
それ以外に関わりがなくて、どうしたらいいかと聞かれた。
「挨拶をすればいいよ」
「それだけでいいんですか?」
「いいよ。まずは相手に自分の存在を知ってもらわないと。知らない人から好きって言われても怖いよね?」
「はい」
「挨拶は知らない相手と繋がるための簡単で有効な方法だよ。ネットで検索していることを言っているだけだけどね」
相手が男子だったら、ググレカスって言っているな。
「挨拶をした後はどうしたらいいですか?」
「挨拶ができてから考えたらいいよ。たくさんのことをしようとしたら緊張で挨拶すらできなくなるかもしれないから」
鳳凰院もすぐに緊張で駄目になっていた。
そのことを活かしてアドバイスする。
「百合中さんに相談してよかったです。挨拶が成功したらまたきますね」
深々と頭を下げてから女子は去って行った。
教室に戻る。
僕の席の前で、鳳凰院が角刈り男子にあーんと言いながら弁当を食べさせていた。
最近、僕、愛、純、角刈り男子、鳳凰院の5人で弁当を食べるのが当たり前になっている。
鳳凰院と角刈り男子にカップルなんだから2人で食べたらと提案したけど、恥ずかしいからと嫌だと言われた。
幼馴染達だけと食事をしたいな。
今日も苛々しながら机の上を見る。
見覚えのない重箱があった。
自分達の世界から帰ってきた鳳凰院が話しかけてきた。
「わたくしと岩波さんの……初めての共同作業で作ったので、わたくし達の初めてを百合中さんに食べてほしいですわ」
「男が作ったものは食べたくないから遠慮するよ」
「そんなこと言うなよ、親友! ぜってぇー、うめーから、食ってくれよ親友!」
「親友って言うな。寒気がする」
角刈り男子は鳳凰院と付き合うようになって丸くなった。
ウザさが倍増していつ手を出してもおかしくない。
断り続けていると、角刈り男子が全部食べると言い出した。
2段にびっしり詰まったおにぎりとおかずを数分で食べきる。
お腹をさすりながら満足そうにしている角刈り男子が腹立つ。
「麗華が作った肉団子は世界1美味しいな! 毎日食べられる!」
「いいえ、強さんが作っただしまきの方が世界1、宇宙1美味しいですわ!」
今まで笑みを浮かべていた2人は睨み合う。
相手の料理の素晴らしさを熱く語り出した。
「喧嘩しているのに仲よしだよ! 付き合うって凄いよ!」
愛は目を輝かせながら2人を見ている。
今がチャンスだと思い口を開く。
「じゅんちゃんと付き合ってみたら?」
「じゅんちゃんは妹みたいなものだから付き合えないよ!」
「おう。私もらぶちゃんのことは姉妹のように思っている」
儚い夢が一瞬で消えて弁当をやけ食いする。
「らぶもいつか誰かと付き合うのかな?」
独り言のように呟いた愛の言葉に箸を止める。
……愛が純以外の誰かと付き合う。
絶対に受け入れることができない。
本気で愛が好きな人を連れてきて反対したら、愛に嫌われるだろう。
その時がきたら、認めるしかないだろうなと絶望する。
「すまん。2人の料理が世界1だから、喧嘩なんてする必要なかった。本当にすまん」
「わたくしの方こそ怒ってごめんなさい」
手を繋ぎながら見つめ合っている鳳凰院と角刈り男子はいつの間にか仲直りしていた。
当たり前な光景になりかけているそんな光景を、愛と純は微笑ましそうに見ている。
恋愛相談をされるようになり面倒事が増えたけど、大好きな幼馴染は笑顔ならまあいいか。
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