187話目 目力の強い女子の幼馴染

 少しでも財前に意識してもらうために、鳳凰院はおしゃれをすることにした。


 鳳凰院の家に寄って着替える。


 淡い青色のワンピースを着て家から出てきた。


 集合場所の駅前に行くと。見覚えのある女子がいた。


 その女子は僕達を見比べて、わざとらしく溜め息をする。


「2人がデートするなら、私いらないですよね?」

「デートじゃないですわ。百合中さんとは友達ですの」

「本当ですか? 最近、麗華は百合中さんと一緒にいる所をよく見ますよ」

「相談に乗ってもらっていただけですわ。百合中さんこちらがわたくしの友達の財前唯ですわ」

「よろしくお願いします。百合中さん」


 財前のお辞儀に釣られて頭を下げる。


「いつもなら10分前には全員が集まっているのに珍しいですね」


 スマホを見ながら財前が鳳凰院に聞く。


「今日はわたくし達3人で遊ぶので、他の人は来ないですの」

「やっぱり2人でデートをするが緊張するから、私を呼んだんですよね?」

「違いますわ」


 鳳凰院さんはそう言って、駅の中に向かって歩いて行った。


「本当に2人は付き合ってないんですか?」

「付き合ってないよ」

「麗華が2人で男の人と一緒にいるのを始めて見たので疑ってしまいました。しつこくてすいません」


 少し笑みを浮かべた財前と鳳凰院の後を追う。


 電車の中は混んでいて……近距離にいる中年の男が臭過ぎて殺意が抑えられないほど湧いてくる。


 今の状況を我慢するぐらいなら、いっそ本気で中年の男を……。


 愛と純の顔を思い浮かべる……荒んでいた気持ちが落ち着く。


 犯罪者になったら、大好きな幼馴染達が悲しむから今の状況をどうにかしないと。


 移動することができないから……無心になることにした。


 いつの間にかモールの中にいた。


 事前にそうするようにと僕が言っていた通りに、鳳凰院は財前の手を握る。


「人が多いからはぐれないために繋ぎましたわ」

「本当に人が多いですね。休みの日に遠出することなんてないから珍しいです。子どもの頃とは変わらずに麗華の手は温かいですね」

「そうですの? 自分では分からないですわ」

「はい。小学校の時に女子同士で手を繋ぐのが流行っていたことを思い出しました」

「懐かしいですわね。最後は輪になって、そのまま教室を出て行こうとして詰まっていましたわ」

「その詰まっていた人は麗華で、泣きながら『出られないですの。助けてくださいの』って、プフッ」


 吹き出すように笑う財前を鳳凰院は睨む。


「ごめん。ごめんなさい。もう言わないので許してください」


 財前が頭を少し下げると、「許しますわ」と笑みを浮かべながら鳳凰院が答えた。


 服屋に入り鳳凰院が個室で試着している。


「しつこいのは重々承知していますけど、本当に2人は付き合ってないですか? もしくは、百合中さんが麗華に恋していますか?」


 幼馴染達に似合いそうな服を探していると、財前が話しかけてきた。


「付き合ってもいないし、僕が鳳凰院さんに恋もしていないよ」

「それにしては2人が一緒にいる時間が長いと思いますよ」

「鳳凰院さんも言っていたけど、僕が鳳凰院さんの相談に乗っていただけだよ」

「その相談ってなんですか?」


 鳳凰院が角刈り男子のことを話していないなら、僕からする話ではない。


 適当に誤魔化すことにした。


「じゅんちゃんのことが好き過ぎるからどうしたらいいかと聞かれたから、僕の秘蔵じゅんちゃんコレクションを見せてあげたよ」

「……ごくり」


 生唾を飲む財前は財布を取り出し、黒いカードを僕に向けてくる。


「これで好きなだけ買い物をしていいので、私にも見せて、ほしいです」

「対価がなくても見せてあげるよ」


 スマホを取り出して、部屋で寝ている純の画像を見せる。


「あなたは神様です! ありがとうございます!」


 財前は僕を拝みながら純の画像を凝視した。


 服屋を後にした僕達は喫茶店に入る。


 鳳凰院は財前に料理をあーんと言いながら食べさした。


 2人の仲がいいことは分かる。


 でも、恋人になりそうな距離感と言われたら違う。


 キスでもしたら互いに意識するかもしれないけど、鳳凰院に否定されるだろうな。


 念の為に聞いてみる。


 無理ですとはっきりと断られた。


 財前のリクエストでゲームセンターに行く。


「クラスのほとんどの人がプリクラを撮ったことあるのに私はないです。みんなで撮らないですか?」


 財前の視線の先のプリクラの筐体を見る。


 頬にキスをしたプリクラが貼られていた。


 これなら幼馴染達の頬キスが何度も合法的に見れる!


 僕の欲求を満たす前に鳳凰院のことを考えないと。


 いや、この方法を使えるな。


 僕と鳳凰院が頷くと、財前はプリクラの筐体に中に入る。


 ついて行こうとする鳳凰院。


「鳳凰院さんにしてほしいことがあるんだけどいい?」

「何をすればいいですの?」

「プリクラを撮る時に財前の頬にキスをしてほしい」

「わたくしが百合になるために必要なことですの?」

「そうだよ」

「分かりましたわ」


 プリクラの筐体の中に鳳凰院は入って数分後、2人は出てくる。


「いきなり頬にキスをされたのはびっくりしましたけど楽しかったです」

「そうですわね」


 わいわいと話す財前と鳳凰院。


 脈があるなら、頬にキスをされたら照れるはず。


 そんな様子が財前には全くない。


 鳳凰院と財前を恋人にするのは長い道のりになりそう。


「楽しかったですわね。また3人で遊びませんの?」


 駅で財前と別れた帰り道に鳳凰院が言った。


「鳳凰院さんは百合に向いてないよ」

「……どうしてですの?」

「意識している相手なら頬にでもキスをすることは躊躇うと思うよ」

「わたくしもそう思いますわ。でも、なら、どうしたら岩波さんのことを忘れることができるんですの? 唯と百合中さんと楽しく遊んでいるはずなのに、岩波さんのことばかり頭に浮かんで胸が苦しいですわ!」


 鳳凰院は地団太を踏みながら涙を流して僕を睨む。


「強先輩の腕いつ抱きしめても太くて硬くて大好きです!」

「歩き辛いから放れろ」

「嫌です! 好きな時に腕を組んでいいって強先輩が言ったので放れないです!」


 最悪なタイミングで角刈り男子と柔道部のマネージャーは通り過ぎていった。


 少し離れていて周りが暗いから、向こうは僕達のことに気づいていない。


 隣を見ると鳳凰院はいなくて、周りを見てもいなかった。


 鳳凰院の家に向かって全力疾走したけど、追いつくことはできなかった。

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