186話目 百合になりたいですわ!
スマホの着信で目を覚ます。
手探りでスマホを探して電話に出る。
『百合になりたいですわ! 教えてほしいですの!』
幼馴染達の声ではなかったから電話を切る。
目を瞑っていると、着信音がまた鳴る。
最近鳳凰院のことに付きっ切りで幼馴染成分が足りなくて疲れが溜まっている。
もう少し寝たいから無視。
鳴りやまない音に我慢できずに、スマホの画面を見てから電話に出る。
『百合になりたいですわ! 教えてほしいですの!』
「じゅんちゃんにはらぶちゃんがいるから駄目だよ!」
『王子様には憧れの気持ちだけで、恋愛感情はないので安心してほしいですわ』
「失恋の辛さで変になった?」
『すごく失礼ですわね。でも、否定できないですわ』
鼻をすする音が聞こえてくる。
『失恋をしたので、新しい恋をします。……でも、岩波さん以外の男の方を好きになれる気がしないので、女子を恋愛対象にしますわ』
「鳳凰院さんは女子とキスやそれ以上のことをしてみたいと思う?」
『全く思わないので、百合中さんに相談しましたの。百合好きな百合中さんならわたくしを百合にすることなんて簡単ですわよね?』
百合好きだからと言って、女子を百合にできるわけではない。
そんな力があったら、愛と純を百合にして恋人にしている。
「できるかどうか分からないけど協力するよ。でも、その前に確認させて。本当に角刈り男子のことを諦めるの?」
『……諦めるしかないですの』
「角刈り男子とマネジャーは恋人じゃなくて試しに付き合っているだけだから、諦めなくてもいいと思うよ」
『……岩波さんが好きな人がいると言った時の表情を見てわたくしは岩波さんのことを諦めようと、諦めるしかないと思いましたの。あんなに素敵な笑顔を向ける相手に……勝てないですわ』
「角刈り男子の好きな人は鳳凰院だよ」
証拠はないけど、断言する。
男女の恋愛に興味がない僕でも、角刈り男子が鳳凰院に恋をしているように見えたから。
『……その言葉を、信じたいですけど信じられないですの。わたくしは岩波さんのことを諦めますわ』
鳳凰院ははっきりとそう答えた。
『今から百合中さんの家に行っていいですの? 百合のことについて勉強したいですわ』
「別にいいけど、今からくるの?」
『……駄目ですの?』
鳳凰院の弱々しい声にいいよと答えて、電話を切った。
数分後にきた鳳凰院の隣の椅子に座る。
スマホの漫画アプリで百合漫画を表示して渡す。
「僕が好きな百合漫画だよ。読んでみて」
「分かりましたの。いきなりキスをしていますわ!」
音色が描く百合漫画は新しい漫画になるにつれて、エロくなっている。
最初の漫画はゆるふわな感じで、女子達の日常を描いていた。
次の作品は女子校で女子達がヒロインを誘惑する話だった。
ヒロインに胸を触らす女子や、ヒロインのお尻に頬擦りする女子もいたけど服を着ていたからぎりぎりセーフ。
でも、3作品目は……。
「読みましたわ。女子同士の恋愛って凄いんですわね。刺激が強過ぎてわたくしには無理な気がしましたわ」
2作品目でそれなら、3作品目は見ない方がいいな。
「少しずつ慣れていけばいいよ。鳳凰院の友達で1番仲のいい人は誰?」
「みなさん大事ですので、順番をつけられませんわ」
鳳凰院が特定の誰かと2人で一緒にいるのを見たことがない。
みんなで楽しく話をしたいタイプの鳳凰院には、百合になるのは向いてない気がする。
「鳳凰院さんが百合になるってことは、大切な友達の中から特別な1人を選ばないといけないよ」
「漫画の中では大人数で付き合っている人がいましたわ」
「角刈り男子とマネジャーと3人で付き合うことは鳳凰院さんにできる?」
「……できないですの」
「好きな相手には、その人の1番になりたいよね?」
小さく頷く鳳凰院。
「女子同士の恋もそれは変わらないと思うよ」
「……百合のことを甘く考えていましたわ。それでも、岩波さんのことを忘れるためなら、わたくしは百合になりたいですわ」
僕では角刈り男子のことを諦めさせないようにするのは無理だな。
それから、鳳凰院と話し合って小学校の頃から今も仲のいい財前唯と仲を深めることにした。
鳳凰院は財前と今から遊ぶ約束を電話でして、僕達は外に出た。
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