185話目 目力の強い女子の失恋?

 廊下で鳳凰院と話をしていた純が帰ってきた。


「じゅんちゃん! お昼だよ! お弁当食べるよ!」

「……おう」


 少し落ち込みながら愛に返事している純を見て、鳳凰院が約束を守ってくれたことが分かった。


「じゅんちゃん、元気ないよ! さっきいた麗華と一緒で!」

「ソンナコト」


 純は喋っている途中で自分の口を塞ぐ。


 愛は純の手を握る。


「今から麗華の所に行くよ!」


 返事を聞かずに愛は純を引っ張って教室を出て行く。


 後を追って鳳凰院のクラスに入る。


 机に座って黒板を眺めながら溜息を吐く鳳凰院がいた。


「麗華! 一緒に弁当食べよう!」

「……」

「元気がない時はご飯をたくさん食べるといいよ!」

「……」

「おーい! 麗華!」

「……」


 呆けている鳳凰院の顔の前で愛は手を振るけど反応がない。


「鳳凰院さん大丈夫?」


 純が話しかけると、鳳凰院はこちらを向く。


「……大丈夫です」

「大丈夫そうに見えないから、お姉さんに相談していいよ!」

「王子様も矢追さんありがとうございます。でも、今誰かに甘えてしまったら立ち直れる自信がないので1人にしてほしいですの」


 部屋を出て行く鳳凰院を追いかけようとした愛の手を摑む純。


「悲しそうな顔をしている人をほっとけないよ! じゅんちゃんも麗華のこと心配だよね?」

「心配している。でも、今は鳳凰院さんの好きなようにさせてあげたい」

「分かったよ! でも、次に会った時に麗華が悲しそうな顔していたら、話し聞きに行くからね!」

「おう」


 3人で教室に戻る途中、純が呟く。


「……友達なのに、何もできないのは悔しい」


 その言葉が、その表情が僕の胸を苦しくさせる。


「じゅんちゃん、トイレに行くから先にらぶちゃんと弁当食べてて」


 全力で廊下を走って空き教室に行く。


 鳳凰院はいない。


 1人にしてほしいと鳳凰院は言っていたから、人気がない所にいる可能性が高い。


 頭に浮かんだのは屋上だった。


 そこに向かうと、出入口の前で鳳凰院がドアの隙間から屋上を覗いていた。


「何しているの?」

「静かにしてほしいですの」


 びくっと体を跳ねさせた鳳凰院に小声で注意された。


 鳳凰院と同じように屋上を覗く。


 角刈り男子と柔道部のマネージャが対面に立っている。


「強先輩と一緒にいる時間が増えても、強先輩のことがもっと好きになりました。わたしと付き合ってください」

「ごめん。俺は好きな人がいるから」


 角刈り男子は前に柔道部のマネージャーの告白を断った時のように、愛を好きだとは言わなかった。


「彼女はいないんですよね?」

「いない」

「だったらわたしと試しに付き合うのではどうですか?」

「そんな不誠実なことはできない」

「わたしは不誠実じゃないと思いますよ。距離を近づけてから芽生える恋だってあります」

「……俺は桃子のことは後輩として好きだけど、異性としては好きじゃない」

「それでもかまいません」


 この流れはよくない。


 2人の所へ飛び出したいけど、鳳凰院が僕の両手を摑んで身動きできないようにする。


「俺が好きな人は、俺以外の好きな奴がいる。それでも、俺は諦めることができない。こんな女々しい男でもいいのか?」

「わたしがその辛い気持ちを側にいて和らげたいです。それに、強先輩は全然女々しくなくて男らしいです。わたしが保証します」

「何でそこまで俺のことを好きなんだ?」

「……本当のことを言っても、引かないですか?」

「絶対に引かない」


 恥じらう顔をした柔道部のマネージャーは口元を隠す。


「……強先輩の筋肉がわたしの理想で大好きです」

「自主トレをして鍛えているからな。引く所か努力していることを褒められて、普通に嬉しい」

「……そういう所も大好きです」

「好きって言われることがないから、なんかむず痒いな。試しに付き合ってみるか?」

「……はい。ありがとうございます」


 柔道部のマネージャーが角刈り男子に抱き着いたその瞬間、鳳凰院は膝から崩れ落ちた。


「恋人になったのでキスをしてもいいですよね?」


 柔道部のマネージャーは唇を尖らして、角刈り男子に近づくが避けられる。


「そういうことをするのは、本当に付き合うようになってからだ」

「……分かりました」

「そんなにがっかりするなよ。キス以外でしてほしいことはないか?」

「筋肉を触らしてほしいです」

「そんなことでいいならいくらでも触っていい」


 角刈り男子が腕捲りをして肘を曲げると力こぶができる。


「素晴らしい上腕二頭筋ですね。形もいいし、かなり引き締まっていて堅いです」


 涎を垂らしながら触っている柔道部のマネージャーの気持ちが、全く理解できない。


 男の腕なんて汗臭いだけなのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る