181話目 リア充の助言

 放課後に鳳凰院のクラスを覗く。


 鳳凰院がやってきた。


「わたくしの家でいいですの?」

「いいよ。じゅんちゃんは今日僕の家にいるから、いつもより早く帰るね」

「はい。分かりましたわ」


 鳳凰院は席に戻り鞄を持って僕の方に向かおうとしていると、女子Aに肩を摑まれる。


「あそこにいるのは鳳凰院さんの彼氏?」


 女子Aが僕の方を指差しながら、鳳凰院に聞く。


「違いますわ。わたくしと百合中さんは友達ですの」

「なら、どうして最近2人はよく一緒にいるの?」

「……それは内緒ですの」

「顔を赤くした鳳凰院さん始めて見た。可愛い。やっぱり2人は付き合っているんだね」

「わたくし帰りますわね」

「教えてくれないなら、本人に聞くよ」


 女子Aが僕の所に走ってくる。


「鳳凰院さんと付き合っているの?」

「付き合ってないよ。鳳凰院さんは僕じゃない人が好きだよ。君は誰かと付き合っている?」

「もしかって口説かれている?」

「口説いてないから質問に答えて」

「今までできたことないよ」


 恋人がいるなら、デートのコツを聞こうと思った。


 そう上手くはいかないな。


 鳳凰院と並んで帰ろうとしていると、手を摑まれる。


「質問の意味はなんだったの?」

「君に彼氏がいるなら、鳳凰院さんに助言してほしいことがあっただけだよ」

「力になるよ」

「経験がないなら力になれないと思うよ」

「侮るなよ。友達に彼氏持ちの人がいるから、そいつから教えてもらったらいいよ。だから、わたしも恋バナに参加させて」


 鳳凰院の方に視線を向けると頷いた。


 彼氏持ちの友達を紹介してもらうことにした。


 女子Aは腕を組んでその上に頭を乗せて寝ている女子Bの所に行き背中を揺する。


「ココア、起きて! 授業終わったよ!」

「……おはよう。マー君。チュー」

「わたしはマー君じゃなくて、来夢だよ」

「……何で、来夢がココアの部屋にいるの?」

「寝ぼけてないで、こっちにきて。ココアに用事があるんだって」


 僕達の方を指差す女子Aに女子Bは顔を横に振る。


「ココアはマー君がいるから、他の男子の誘いは受けない」

「モテる女子気取りでムカつくな、こいつ。用事があるのは鳳凰院さんの方だよ」

「女子の誘いも断っているよ。ココアはマー君1筋だから」

「1度でいいから思いっ切りデコピンさせてもらっていい?」


 女子Aに任せていたら話が終わりそうにない。


 2人の所に行き、女子Bに話しかける。


「鳳凰院さんが今度好きな男子と映画を見に行くんだけど、緊張し過ぎてどうしたらいいか分からないんだって。緊張をほぐすコツとかある?」

「好きな人と遊ぶんだから緊張して当たり前だよ。一緒に同じ時間を積み重ねればいつの間にか緊張していた時間が安心に変わるよ。マー君が待っているから行くね」

「……いいな」


 女子Aはおぼつかない足取りで部屋を出て行く。


 その後ろ姿に向かって鳳凰院は呟いた。


「鳳凰院さんは誰のことが好きなの?」

「……」

「教えてよ! 凄く気になる!」

「……」

「教えてくれるまで帰さないよ!」

「……岩波さんですの」


 女子Aのしつこさに負けた鳳凰院は顔を赤くして口に出した。


「鳳凰院さんはイケメンが好きだと思っていた」

「岩波さんも格好いいですわ!」

「鳳凰院さんが怒るのは珍しいね。馬鹿にしたわけではないよ。ただ、鳳凰院さんの好きな王子様と岩波君が違い過ぎるのが気になったから。岩波君のどこを好きになったの?」

「好きになった所はたくさんありますけど、今それを口にすると岩波さんのことを今以上に意識し過ぎて爆発しますの」

「うわー! リア充爆発しろ!」


 女子Aはそう叫んでから、教室から出て行く。


 入れ替わるように女子Bが教室に入ってきて、自分の席に座って机に頭を乗せる。


「どうしたんですの?」


 鳳凰院が声をかけるとだるそうに鳳凰院に視線を向ける女子B。


「図書室でマー君とたくさんキスをしたら、司書さんに出て行くように言われた」

「公共の場所なので、破廉恥な行為は控えた方がいいですわ」

「恋人で愛を確かめるのは破廉恥な行為じゃなくて当たり前な行為。鳳凰院さんも好きな人と付き合ったら絶対にキスをしたくなるよ」

「ココアさんに聞きたいことがあるのでいいですの?」

「いいよ」

「デートをする時の服装はどうしたらいいですの? ファッション雑誌に載っている流行の服を着た方がいいですの?」

「ココアはファッション雑誌を見たことがないよ。ファッション雑誌って大勢の人向けに書かれたものだから、ココアには意味がない。ココアはマー君にだけ可愛いって思われたいから、マー君に直接好きな服装を聞いたり一緒に服を買いに行ったりしているよ」


 鳳凰院は女子Bの意見に納得したのか、うんうんと何度も頷いている。


「ただいま、ココア。迎えにきたよ」

「おかえり、マー君」


 男子が廊下から顔を出す。


 女子Bは目を大きく開いて、早足で男子の所に行き腕に掴まって笑む。


 2人は楽しそうに雑談をしながら去って行った。


「……羨ましいですの」

「鳳凰院も岩波に告白すればああなれるよ」

「…………そうですわね。でも、その前に映画……デートを成功させますわ。そのためには、岩波さんに好みの服装を聞かないといけないですけど……聞ける自信がないですの」

「角刈り男子はらぶちゃんのことが好きだから、らぶちゃんの服装を真似したらいいんじゃないの?」

「百合中さんは天才ですわ! そうしますわ!」


 愛の私服が写っている画像を何枚か鳳凰院に見せる。


 淡い青色のワンピースをデート当日に着ると鳳凰院が言った。

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