176話目 目力の強い女子の寝不足①
鳳凰院の家の近くを通っていると、鳳凰院がよろめきながら歩いているのが見えた。
「麗華! おはよう!」
「おはようございます! 愛ちゃんは今日も元気ですわね!」
愛は鳳凰院の所まで走って、片手を挙げながら元気よく話しかけた。
鳳凰院は愛以上に大きな声を出した。
純と一緒に2人の所に行く。
鳳凰院は虚ろな目をしていた。
純は心配そうな顔をする。
「大丈夫?」
「全然、大丈夫ですわよ! 純ちゃんは優しいですわね! ありがとうございます! でも心配しなくても大丈夫ですわ! いつもより体調がいいのですから!」
満面の笑みを浮かべた鳳凰院は純に抱き着いて頬擦りをした。
数分後、純から離れた鳳凰院は今にも躓きそうな足取りで、学校の方に向かっていく。
「今日、学校休みな」
「優しい純ちゃん大好き!」
純は鳳凰院に近づきそう口にする。
話を聞かずにまた抱き着いて頬擦りをする鳳凰院。
純が引き剥がそうとしても、腰に回された鳳凰院の腕はびくともしない。
視線で助けを求めてくる純が可愛いな。
お嬢様に攻められているクール系幼馴染、控えめに言って最高!
「らぶもじゅんちゃんにぎゅっするよ! ぎゅっー!」
クール系幼馴染がお嬢様とロリ系幼馴染にサンドイッチにされている……今死んでも、文句ない。
「麗華に負けないぐらいすりすりするよ! すりすり!」
「わたくしも負けませんわ! すりすり!」
「…………こうちゃん、助けて」
女子達の柔肌が交わっている。
目を最大まで開いてこの一瞬を見逃さないようにしたい。
でも、純に可愛くお願いされたら助けるしかない。
鳳凰院の腰に手を回して引き剥がそうとする。
……びくともしない。
昨日の男子を軽々と投げた時もそうだったけど、下手すると純より鳳凰院の方が力が強いのかも。
力技が聞かないなら。
「角刈り男子があそこにいるよ」
「どこですの⁉ 岩波さんどこですの⁉」
純から離れた鳳凰院は左右に大きく顔を動かしながら周りを見る。
予想していた反応と違った。
離れたからまあいいだろう。
「やったー! らぶがの勝ち!」
純から離れた愛は僕達に向かってVサインをした。
前を歩いている鳳凰院が電柱に当たって笑っている。
体調より頭の方が心配になるな。
鳳凰院の額に手を当てる。
熱はなさそう。
こうなっている原因が分からない。
「岩波さんと遊園地に行きたいですわ。岩波さんとテニスを一緒にしたいですわ。岩波さんを抱きしめたいですわ。岩波さんとキスをしたいですわ」
鳳凰院が呪文のように呟き始めた……本当に頭大丈夫だろうか?
視線が合うと、へへへと不気味に笑う鳳凰院。
普段冷静な利一さんが寝ずに2日仕事をして、テンションが高かったことを思い出す。
「岩波さん……強君がいますわ!」
片手を挙げながら大声を出して走り出す鳳凰院。
追いかける。
角刈り男子に向かってダイブする鳳凰院。
「おはようございます。くんくん。いい匂いですわー。少し汗の臭いがしますけど、嫌じゃないですわー。えへへ」
「うわー⁉」
目を丸くした角刈り男子は叫びながら、鳳凰院を突き飛ばして後ろに下がる。
「お尻を打って痛いですの。なでなでしてほしいですわ」
鳳凰院は尻を突き出しながら、潤んだ瞳で角刈り男子のことを見る。
「……そんなことできるわけがないだろ」
角刈り男子は顔を真っ赤にして顔を逸らす。
「照れている強君可愛いですわね。近くで見せてほしいですの。抱き着いたら近くで見られるので抱き着きますわね。ぎゅっ~」
鳳凰院にされるがまま抱き着かれた角刈り男子は顰め面で固まっている。
「たぶん鳳凰院さんは寝不足で素直になっていると思うよ」
このまま勢いで押せば2人は恋人になれると思い口にした。
「素直になっているとはどういう意味だ?」
僕に向けようとした角刈り男子の顔を、鳳凰院は自分の方に向ける。
「よそ見しないでわたくしだけを見てほしいですの!」
「今は百合中と話しているから少し待ってくれ」
「嫌ですわ。強君はわたくしだけを見てほしいですわ!」
「……分かった」
「ありがとうございます。えへへ。強君は優しいですの。わたくし、強君としたいことがたくさんありますわ。ゲームをしたいですし、食事をも一緒にしたいですわ」
「分かったから、とりあえず離れてくれ」
鳳凰院は気にせずに頬擦りをする。
「今すぐ離れろ!」
「わたくしはもっと強君のぬくもりを感じたいですわ……駄目ですの?」
「駄目では……」
「麗華と強はとっても仲よしだね! 仲よしはいいことだよ!」
愛は2人のことを交互に見ながら満面の笑みを浮かべる。
「矢追たんこれは違うんだ! 鳳凰院、今すぐ俺から離れろ!」
「嫌ですわ! もっと抱き着きたいですわ!」
「ぐはっ! 力が強すぎて痛いから! 弱めてくれ!」
「絶対離れないですわ!」
「今すぐ離れないともう遊ばない!」
「嫌ですわ!」
「嫌なら離れろ!」
「……分かりましたの」
角刈り男子から一歩下がる鳳凰院。
「らぶちゃん、学校まで走るのを勝負しよう?」
「じゅんちゃん、いいよ! よーい! どん!」
純はここに愛がいたら、角刈り男子と鳳凰院の関係が発展しないと思ってそう言ったのだろう。
愛と純が見えなくなってから、鳳凰院達に視線を向ける。
鳳凰院が角刈り男子の手を握っていた。
「強君の手、ごつごつして温かいですの。ずっと触っていたくなりますの」
「恥ずかしいから離してくれ」
握っている手を振りながら鳳凰院は歩き出し、角刈り男子は引き摺られていた。
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