173話目 部活勧誘勝負

 朝の柔道部が部員勧誘をしているは見飽きたな。


 校門を通り過ぎようとすると、電柱に隠れている鳳凰院と視線が合う。


「誰も入ってくれないから、勧誘するのをやめないか?」

「俺がやる気が出るようにしてやる。勧誘できたら俺が頭を撫でてやるはどうだ?」

「岩波に撫でられても嬉しくねーよ」

「俺もその意見には賛成だな」


 角刈り男子達は和気藹々と雑談をしていた。


「わたしは強先輩に撫でられたいので、今よりももっと頑張ります」


 柔道部のマネージャーは角刈り男子にそう言ってから、僕の隣にいる愛の所にきた。


「矢追先輩に負けません!」


 力強く発言した柔道部のマネージャーは近くを通る男子に話しかける。


「何の勝負か分からないけど頑張るよ! おー!」


 元気よく片手を挙げる愛。


「こうちゃんとじゅんちゃんも勝負する?」

「おう」


 愛に返事をした純は鳳凰院の方を一瞥する。


 鳳凰院の手伝いをするために参加するんだな。


「おれが誰よりも先に勧誘することができたら、矢追たんに頭を撫でてもらうことってできる?」


 角刈り男子と一緒にいた男子が僕達の所にきて聞いてくる。


「いいよ! 勝負に勝った人はお姉さんのらぶがたくさんいい子、いい子してあげるよ!」


 角刈り男子達は散って必死な顔で勧誘を始めた。


 鳳凰院の応援をする以外に、負けられない理由ができた。


 純が鳳凰院の所に行って何かを話しているのを横目に見ながら、目の前にいる男子に話しかける。


「柔道部に入らない?」

「柔道に少し興味あるけど、ここの柔道部は真面目にしないって有名だから入らないです」


 自由に休める部活だから否定できないな。


「昨日は遅くまで活動していたよ」

「それは女子のマネージャーがいたからじゃないですか?」


 男子は柔道部のマネージャーの方を見ながら口にして、去って行った。


 それから、勧誘を続けるけど全員が同じような理由で拒否される。


「すごい! ありがとうな!」


 角刈り男子のうるさい声が聞こえた。


 そっちを見ると、柔道部のマネージャーが角刈り男子に頭を撫でられていた。


「みんな集まってくれ! 柔道部に見学にきてくれる1年を桃子が見つけてくれた!」


 勧誘していた全員が校門前にいる角刈り男子の所に集まる。


 角刈り男子のこと頭から足先まで見ている体格が細い男子がいた。


「柔道に興味があるので、今日の放課後に見学させてもらいます」

「今日は俺以外の部員は用事があるから、俺しかいないけどいいか?」

「……いいですよ」

「どこでしているか分かるか?」

「体育館ですよね」

「そうだ。よろしく」


 手を差し出す角刈り男子の手を無視して、男子は去って行く。


「あいつ、何か気に食わない」

「先輩のありがたさを教えた方がいいかもしれないな」


 手の骨をならしながら柔道部員達が言った。


「入ってくれるかもしれない部員をいじめるなよ」

「「「「お前には言われたくないわ」」」」


 角刈り男子に柔道部員が全員でツッコまれる。


「強先輩、もう1回頭撫でてもらっていいですか?」


 柔道部のマネージャーは愛の方を見ながら、甘えた声を出す。


「いいよ。ほら」

「できれば、いい子いい子って言ってほしいです」

「それは恥ずかしいから言いたくないな」


 愛が柔道部のマネージャーの所に行き背伸びをして頭を撫でる。


「らぶが代わりに言ってあげるよ! いい子! いい子!」

「……矢追先輩。いい人過ぎます。意地悪なことをしてごめんなさい」

「意地悪なことなんてされてないけど、素直に謝れるのはえらいね!」


 愛の偉大さを知って、柔道部のマネージャーは角刈り男子のことを諦める流れかも。


「わたしもっと努力して、強先輩に好かれるように努力します」


 柔道部のマネージャーのその宣言を聞いて、僕の考えが甘いことを知った。



★★★



 1時間目の休み時間にトイレに行こうとしていると、鳳凰院に呼び止められる。


 空き教室にきてほしいと言われてついていく。


「わたくしも岩波さんに頭を撫でられたいですわ!」


 空き教室に入ると、鳳凰院は不満が爆発したように大きな声を出した。


「言えばいいよ」

「無理ですわ。そんなエッチな女子みたいなことを言えないですの」


 愛と同じようなことを言い出した。


「気にし過ぎだよ」

「体に触られるなんて絶対に変な声が出てしまいますわ。考えただけで体が熱く……なりますの」


 艶っぽい顔をして身じろぎをする。


「鳳凰院がエッチなことを考えているからそう思うだけだよ」

「エッチじゃないですわ! エッチって言った方がエッチなんですわ!」


 目を丸くした鳳凰院が子ども小学生みたいなことを口にする。


「本当にわたくしはエッチじゃないですわ! 百合中君がエッチなんでわ!」


 鳳凰院は顔を真っ赤に睨んでくる。


「それでいいよ」

「よくないですの! 絶対に心の中でわたくしのことを変態だと思っていますわよね!」

「それ以上面倒なことを言うと教室に戻るよ」

「ごめんなさい」


 急にテンションが下げた鳳凰院は項垂れる。


「らぶちゃんやじゅんちゃんの手を触れている僕がエッチだと思う?」

「手はエッチじゃないと……思いますの……」

「角刈り男子と手を繋ぐ所から始めて、慣れてきたら頭を撫でてもらうように言ったら」

「無理ですわ! エッチじゃないですけど、心臓が持たないですの」

「……教室に戻っていい?」

「そんな可哀想な人を見るような目で見ないでほしいですわ。わたくしが面倒だと理解していますので」

「今日の放課後に鳳凰院さんが角刈り男子を遊びに誘えなかったら、その時点で鳳凰院さんの気持ちを角刈り男子に言うね」


 純が鳳凰院の恋を応援しているから、これ以上長引かせたくない。


「2人で遊んだ時に、手を繋ぐことと、頭を撫でてもらうことをしてもらって。肯定以外の返事をしたら、今から角刈り男子の所に行って」

「……分かりましたわ。百合中さんの言う通りにしますの」


 そう言った鳳凰院は窓の外を見ながらため息をした。

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