170話目 大きな幼馴染の画像は最強

 放課後ゲームをするために、鳳凰院の家に鳳凰院と向かっている。


「家にゲームあるの?」

「ないので、小野田さんにランイでお願いしていますわ」

「今思ったけど、ゲームの練習とか必要? 分からない所は角刈り男子に聞けば、距離感も縮まっていいと思うけど」

「無理です。そんな高難度のことわたくしにはできませんわ」

「角刈り男子に意識してもらうためには、鳳凰院が大胆になった方がいいよ」

「わたくし気になることがあるんですけど、どうして百合中さんは岩波さんのこと名前で呼ばないんですの?」

「男子のことを名前で呼ぶと負けた気がするからだよ。らぶちゃんとじゅんちゃんの父親だけは例外だけど」

「百合中さんは前から少し変わっていると思っていましたが、本当に変わっていますわ」


 鳳凰院の家に着き、玄関に入ると家政婦がゲーム本体とカセットを持って立っている。


「お嬢様こちらで間違いないですか?」

「はい。大丈夫です。ありがとうございます」


 頭を上げた家政婦は足音を立てずに、早足で階段を上って行った。


 2人で鳳凰院の部屋に入る。


 黒板ぐらいの大きさのテレビがあって、ゲーム機がセットされている。


「わたくしが得意な方のレースゲームからしたいですわ」

「いいけど、レースゲームで教えられることはないよ」

「いいですわ。集中してゲームしたいので、喋らずにしましょう」

「1人でできるなら僕がここにいる理由ないよね。帰っていい?」


 手を握ってくる鳳凰院。


「駄目ですわ。わたくしが上手くできているか見ていてほしいですわ」

「帰らないから手を離して」


 鳳凰院が手を離すと、手の跡が赤くはっきりと残っている。


 黙々とゲームをしていると、鳳凰院の使っているキャラが動きを止める。


「喋らずにって言いましたけど、話しかけていいですの?」

「いいよ。鳳凰院の使っているキャラがCPに抜かれているよ」

「本当ですわね」


 再び動き出す鳳凰院が使っているキャラ。


「今から言うことは愚痴になるんですけど、聞いてくれますか?」

「いいよ」

「ありがとうございます。高1の時から岩波さんは矢追さんのことを好きで、長い時間片想いをできるなんてわたくしが勝てる気が全くしないですわ! そこまで岩波さんに想ってもらえる矢追さんが羨ましいですわ」


 コントローラーから手を離して俯く鳳凰院。


「柿木さんのように行動を起こしてもいないのに、わたくしは矢追さんに嫉妬をしていますの。そんな、自分が大嫌いですわ!」


 鳳凰院は爪が食い込むほど拳を握りしめる。


「らぶちゃんと角刈り男子を引っ付けないためにも、全力で鳳凰院を応援するよ」

「岩波さんにはわたくしより柿木さんの方が」

「鳳凰院さんは角刈り男子の前に出ると緊張するから、喋られなくなるんだよね?」


 弱気なことを言い出そうとする鳳凰院の言葉を遮る。


「……はい」

「癒される画像をいつでも見れるようにしといて、緊張した時に見たらいいよ」


 漫画で緊張している主人公が動物の写真を見て、心を落ち着かせるシーンがあったことを思い出してそう言った。


「試してみますわ」


 鳳凰院はスマホの画面を凝視する。


 横から覗くと、純が執事服を着ている画像。


 右手を胸の前に左手を後ろにしているポーズだから、前に鳳凰院からもらった画像と違う。


「毎日寝る前に、王子様の画像を見て眠ると寝つきがよくて目覚めもいいですわ」

「僕も明日から、そうするよ。その画像送ってほしい」

「百合中さんにはたくさんお世話になっていますからあげますわ。この王子様も最高ですの」


 猫の着ぐるみパジャマを着ている純が、大勢のパジャマ姿の女子に抱き着かれて耳を赤くしている。


 見慣れているパジャマでも、新鮮な可愛さがあるな。


 僕の知らない純の画像が増えて満足しながら、笑顔の鳳凰院に言う。


「明日角刈り男子を遊びに誘おう」

「無理で……」


 鳳凰院は純の画像を見る。


「……分かりましたわ」


 大きく頷きながら鳳凰院は言った。


 家に帰るまで、遊びの誘い方、会話に困った時の対処方法を話し合った。

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