169話目 柔道部のマネージャーの告白
3階の空き教室に入ると、鳳凰院が先にきていた。
「朝から呼び出してごめんなさい」
「気にしなくていいよ。相談したいことって何?」
「わたくしは嫌われてないですの? 岩波さんに嫌われてないですの?」
「嫌われてないよ。むしろ、好かれていると思うよ」
「そんなことはありませんわ。前の週の火曜に岩波さんの家に伺ってから、今まで以上に心臓が動悸して岩波さんを避けてしまいますの。優しく話しかける岩波さんを無視するなんて、わたくし最低ですわ」
「今日も角刈り男子は話しかけてくれた?」
「……はい。挨拶をしてくれましたわ。また、無視をしてしまいましたの」
「今日が月曜だから、火、水、木、金、月の5日間も無視して話しかけてくるってことは嫌われてないよ」
「岩波さんが優しいから、わたくしを無視しないじゃないんですの?」
その言葉に思わず鼻で笑ってしまう。
鳳凰院に睨まれる。
「百合中さんでも岩波さんを馬鹿にしたら許しませんわ!」
「馬鹿に……してないよ。ただ、角刈り男子は本能に忠実だから、嫌いな相手には優しくしないと思うよ」
角刈り男子に興味がないから確信はないけど、という本音は鳳凰院を不安にさせるだけなので言わない。
「鳳凰院は角刈り男子と仲よくなりたい?」
「……なりたいですの」
「なら、今日の放課後角刈り男子を遊びに誘おう。今回は1対1で遊ぶように」
「無理ですわ! 絶対に無理ですわ! 話しかけるのは緊張しているのに無理ですわ!」
「そんなことないよ。2人は楽しそうにゲームしていたから、僕がいなくても大丈夫だよ」
「……何を話せばいいか分からないですの」
「共通の話題とかはないの?」
「……岩波さんのことはゲームが好きなことと……矢追さんが好きってことしか知らないです」
苦悶表情を浮かべる鳳凰院。
「共通の話題があれば話せる?」
「……はい」
「僕が角刈り男子の情報を集めてくるよ」
「お願いします」
角刈り男子と話すのが面倒だと思いながら提案すると、鳳凰院は深々と頭を下げた。
★★★
弁当を急いで食べて、角刈り男子のクラスに向かう。
貴重な幼馴染達と休み時間を減るのが辛過ぎる。
角刈り男子のクラスには角刈り男子はいなかった。
本人と話さなくても、周りから情報を集めたらいいな。
周りにいた生徒に角刈り男子のことを聞く。
まとめると、乱暴もので声が無駄に大きい。
調べなくても分かる情報しか手に入れることができなかった。
角刈り男子と仲よさそうな柔道部員達を探すことにした。
どこを探せばいいのか全く見当もつかないから、校内を適当に歩き回る。
そう言えば、柔道部員の顔を1人も分からない。
食堂に入ってそれに気づいた。
柔道部員達を探すのを諦めて教室に戻ろうとしていると、椅子に座っている角刈り男子を見つける。
角刈り男子に近づく。
「君のことを教えてほしい」
うどんを食べている手を止めて、角刈り男子は僕の方に視線を向けてくる。
「百合中って俺のこと嫌いだよな?」
「嫌いだよ」
「何で、嫌いな相手のことを聞くんだ。何か裏でもあるのか?」
余計なことを言って、鳳凰院と角刈り男子の仲がややこしくなるのは避けたい。
当たり障りのないことを言おう。
「角刈り男子とほんの少し仲よくなりたいと思ったから、君のことを教えてほしい?」
うわー、僕の発言気持ち悪っ。鳥肌立っているのが分かる。
「いきなり何言ってんだ? 変なものでも食べたか?」
馬鹿にした笑みを浮かべた角刈り男子が腹立つ。
今すぐこいつを消したい。
「鳳凰院と遊ばしてくれたから特別に教えてやる」
角刈り男子が肩を摑んでこようとしたから避ける。
「何で避けるんだよ」
「汚いから」
「お前本当に俺と仲よくなるつもりあるのか? まあ、それはいい。最近、鳳凰院の様子が変なんだけど、理由を知らないか?」
お前に恋して、意識し過ぎて恥ずかしくて避けている。
そう言えば、鳳凰院と角刈り男子は恋人になるかも。
でも、角刈り男子が鳳凰院を振る可能性もある。
角刈り男子は鳳凰院に好意があるように見えるけど、それは愛以上かと言われたら分からない。
「なんでだろうね」
適当に誤魔化す。
それから、角刈り男子のことを色々聞いた。
空き教室に戻ると、鳳凰院が目の前にいた。
「角刈り男子が食堂にいたから、聞いてきたよ。好きなものは」
得た情報を話そうとしていると、口を手で塞がれる。
「……わたくしのことを岩波さんに話してないですわよね?」
頷くと安心したように深く息を吐き、僕から手を離す鳳凰院。
好きなものは格闘技、ゲーム。
食べ物は肉なら何でも大好きで、嫌いなものはない。
付き合ったことは今までに1度もない。
そのことを伝える。
鳳凰院は満足そうな笑みを浮かべる。
「岩波さんのことが知れて嬉しいですわ。ありがとうございます」
「何か角刈り男子と共通の話題はありそう?」
「岩波さんとゲームをしてから、ゲームのことに興味を持つようになりましたわ」
聞いてきた情報を使わないのなら、角刈り男子に馬鹿にした笑顔を向けられた意味は何だったんだろう。
角刈り男子の顔面を無性に殴りたくなる。
「今日、百合中さんは暇ですの?」
昼休みも終わるから教室を出ようとしていると、鳳凰院が話しかけてきた。
「暇だけど、ゲームするなら角刈り男子を誘いなよ」
「もう少しゲームが上手になってから、岩波さんを誘いますわ。わたくしのゲームの練習につきあってもらっていいですの?」
「じゅんちゃんとはお茶会しないの?」
「王子様ファンクラブの人達と一緒にカラオケに行くと言っていましたわ」
「晩飯を作らないといけないから、それまでならいいよ」
ふと窓から外を見ると、角刈り男子と柔道部のマネージャーが校舎裏に行くのが見えた。
鳳凰院もそのことに気づいたのか、窓に顔を近づけて2人を目で追っている。
校舎裏は告白のスポットだと、クラスの女子達が言っていた気がする。
教室から走って出て行く鳳凰院を追いかける。
校舎裏の近くの壁に隠れながら校舎裏を覗き込む鳳凰院がいた。
「昼休みに呼び出してごめんなさい」
「飯食い終わっているから気にしなくていい。俺に話ってなんだ?」
「わたしは強先輩のことが好きです。付き合ってください」
鳳凰院は唇を震わせながら呆然とその光景を見ている。
このままでは純との約束を破ることになる。
「わたくしも好きって言いながら出ていこう」
「無理ですわ。それに、百合中さんの声大きいですわ。小さい声で喋らないと2人にわたくしたちがここにいるのが分かりますの」
「分かられもいいよ。今から、鳳凰院が告白をしに行くんだから」
「今告白なんてしたら死んでしまいますわ。お願いだから静かにしてほしいですわ」
無理矢理鳳凰院を角刈り男子の前に連れて行っても、固まって何も喋ることができない。
「すまん。俺は矢追たんのことが好きだから、桃子と付き合うことはできない」
愛はお前のことを恋愛対象としてみてないけどな。
「わたしは強先輩が矢追先輩のことを好きでもいいです。だから、付き合ってください」
「矢追たん一筋だから無理だ」
「わたしが矢追先輩のようになれば付き合ってくれますか?」
「桃子はどうして俺のことがそこまで好きなんだ?」
「きんに……この学校の入試の時に緊張して動けないわたしに元気よく挨拶してくれたからです」
「その気持ちすごく分かる。俺も矢追たんに初めて元気よく挨拶された時に一目惚れしたからな。あの時の、笑顔が本当に可愛かった」
「手強い相手ですけど、わたしは強先輩のことを諦めません。好きになってもらうために頑張ります」
「これは困ったな」
柔道部のマネージャーの言葉に、嬉しそうに頭を掻きながら照れている角刈り男子が気持ち悪い。
チャイムが鳴る。
角刈り男子と柔道部のマネージャーは学校の中に走って入って行く。
鳳凰院は呆然としていて、動こうとしない。
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