163話目 目力の強い女子は自分の気持ちを確かめたい

「百合中さん、今お時間よろしいですの?」


 学校の校門から出ると、鳳凰院が話しかけてきた。


「いいよ。どうしたの?」

「わたくし暇なので、一緒に遊びに行きませんの?」

「別にいいけど、じゅんちゃんとは遊ばないの?」

「王子様はわたくしと別の人達とお茶会をしています」

「別の人って女子だよね?」

「もちろんですわ。王子様ファンクラブに入っている人と遊んでいますの」


 その言葉に安心はしたけど、疑問も浮かぶ。


 純と王子様ファンクラブの女子達が遊んでいるのに、鳳凰院はどうして一緒に遊んでいないのかと。


「鳳凰院さんはじゅんちゃんと喧嘩した?」

「してないですわ。わたくしが王子様と喧嘩をするなんてありえないですわ」

「なら、どうしてじゅんちゃん達の方に行かないの?」

「百合中さんと一緒に遊びたいから、わたくしだけ別行動ですわ」

「……」


 鳳凰院って、角刈り男子のことが好きだったよな。


「僕と2人で遊んだら、鳳凰院さんが恋している角刈り男子に勘違いされるよ」

「ななななななな何をいいいいいい言ってるんですの⁉」


 目を白黒させながら、上擦った声で叫ぶ鳳凰院。


「鳳凰院さんは角刈り男子のこと好きなんだよね?」

「…………」


 顔を真っ赤にして頭を押さえて座り込む鳳凰院は漫画で出てくる恋をする乙女そのもの。


 おずおずと立ち上がった鳳凰院は睨んでくる。


「いきなり訳の分からないことを言わないでほしいですわ!」

「訳の分からないことじゃなくて、単純なことだよ。鳳凰院さんは角刈り男子のことを恋愛的な意味で好きかどうかを聞いているだけだよ」

「好きじゃ…………」


 鳳凰院は口を開けたまま固まる。


「角刈り男子のこと嫌い?」

「嫌いじゃないですの。あんなに格好よくて、わたくしが困っている時に助けてくれる岩波さんのことを嫌いになるわけないじゃないですわ!」


 熱く語っている鳳凰院に全く同意でない。


 突っ込みたいけど我慢する。


「僕と角刈り男子だったらどっちと遊びたい?」

「……岩波さんです」

「なら、今から角刈り男子の所に行って遊びに誘おう」

「…………わたくしは、たぶん、岩波さんのことが…………好きだと思いますの。でも、その気持ちに自信がないですわ。だから、男の人と2人で遊んで岩波さんに抱いている気持ちが……特別なものなのか確かめたいですわ」


 純と仲のいい鳳凰院だから協力することにした。


 それに、鳳凰院と角刈り男子が恋人になれば、角刈り男子が恋にちょっかいを出すことがなくなる。


「遊ぶのはいいけど、鳳凰院は何をしたいの?」

「何をすれば、岩波さんに対してドキドキしているこの気持ちを確かめることができますの?」

「ドキドキするなら、鳳凰院は角刈り男子のことが好きなんじゃないの?」

「分からないですわ! わたくしは今までに恋をしたことがないので分からないですわ!」

「……」

「面倒臭そうな顔で見ないでほしいですわ。わたくしも自覚していますけど、傷つきますわ」


 やる気をなくしているのは確かだけど、頑張る目的があるから鳳凰院が角刈り男子を好きと自覚させる方法を考える。


 百合漫画に鈍感なキャラがいて、クレープで間接キスをしてから相手のことを意識するようになった。


 そのことを話すと、鳳凰院は頷いた。


 歩きながら純のことで話が盛り上がっていると、いつの間にクレープ屋に着いていた。


 店のディスプレイに鳳凰院の顔ぐらいはある苺のクレープがあった。


 その下には恋人限定ラブラブクレープと書かれていた。


「これにしますの?」


 鳳凰院はラブラブクレープを指差しながら言った。


「普通のサイズでいいよ」

「でも、こっちの方がわたくしの気持ちを確かめられる気がしますわ」

「僕はそんなにお腹空いてないから、鳳凰院さんが食べられるならそれでいいよ」

「はい。全部食べられますわ」


 ラブラブクレープを買って、クレープ屋の近くにあるベンチに座る。


 隣に座っている鳳凰院は重たそうにラブラブクレープを持っている。


「先にどっちが食べますの?」

「1口だけでいいから先に食べていい?」

「いいですわ。1口と言わずに何口でも食べてくださいの」

「晩飯前だから1口でいいよ」


 端の方をかぶりつくと、苺アイスの甘酸っぱさと生クリームの濃厚な甘さが口の中に広がる。


「わたくしもいただきますわ。とても美味しいですわ!」


 鳳凰院は口に生クリームを全くつけずに上品に食べていく。


「隣にいるのが僕じゃなくて角刈り男子だったら食べることできた?」

「……できてないです」

「それは鳳凰院が角刈り男子を好きだからだと思うよ」

「……分からないです。王子様と仲のいい百合中さんだから、気を許しているだけかもしれないです」


 食べるスピードを速めた鳳凰院は数分後に顔を青白くしながらも完食した。


「クレープ1つぐらいだったら太らないから気にしなくてもいいよ」

「太るもん! 絶対に太るもん!」

「俺が半分食べるから買おう」

「たっちゃんありがとう! 大好き!」


 近くの自動販売機で紅茶を買ってベンチに座っている剣に渡していると、近くからカップルの会話が聞こえてきた。


 鳳凰院は僕から受け取ったペットボトルを落とす。


「わたくし太っていますの?」

「太ってないよ」

「絶対に嘘ですわ! 大きいクレープを食べて太らないわけがないですわ! 今から走るので付き合ってほしいですわ!」


 走り出した鳳凰院の横に並ぶ。


「岩波さんの好きなもの、嫌いなもの、休日何をしているか教えてほしいですの」

「そんなこと知らないよ。知りたいとも思わない」

「何で知らないんですの?」

「男子が嫌いな僕が角刈り男子のことを知っているわけないよ」

「岩波さんについて知っていることは何もないですの?」

「角刈り男子は愛が好き」


 急に立ち止まった鳳凰院は胸を押さえる。


「……知っていますわ。でも、他の人から聞くと、どうして胸が張り裂けそうになるのか分からないですの」

「たぶんそれは鳳凰院さんが愛に嫉妬しているからそうなるんだよ」

「……嫉妬。しっくりきますの。わたくしは岩波さんが好きなんですの」


 自分に確認するように呟いた鳳凰院は夕陽に向かって走り出した。

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