162話目 幼馴染達と一緒なら体育も楽しい
学校の授業で体育が1番嫌い。
むさ苦しい男子と一緒に着替えないといけないから。
男子の下着姿なんて本気で見たくなくて、トイレで着替えていた。
今の僕はそんなことがどうでもいいぐらい幸せだから、3階の空き教室で男子達と一緒に着替えている。
体育の時間も幼馴染達と一緒にいられるって最高だな。
今日の4時間目の体育だけじゃなくて、1年間全ての授業が一緒。
幸せ過ぎて明日死ぬかもしれない。
「百合中がここにいるって珍しいな。1、2年の時に同じクラスだったけど、一緒の場所で着替えた記憶ないよ」
「そうかな」
隣で着替えていた、男子Aが話しかけてきたから適当に返事する。
「そうだよ。それにしてもこのクラスってあたりだよな。なんたって思わず守ってあげたくなる小動物的な可愛さをもつ矢追さんがいるからね」
男子が愛を褒めることは反吐が出る。
今日の僕は機嫌がいいので何も言わない。
「俺は矢追さんより、小泉さんの好きだな。あの鋭い目で睨まれてみたい」
後ろで着替えている男子Bが僕の方を振り返って言った。
「小泉さんより矢追さんの方がいい! 矢追さんは誰でも分け隔てなく笑顔で話しかけて、存在するだけで癒しになっている!」
「いや、違うね! 小泉さんはどんなに強そうな不良にも1度も負けたことがない! そんな強い純さんに守られてみたいだろ!」
「お前はMなのか、どうなのか分からないな」
「睨まれたり罵倒されるのは興奮するけど、殴られるのは痛いから嫌だ!」
「中途半端な性癖を持っている奴は黙れ!」
「どんな性癖を持っていても自由だろうが!」
2人は睨みあってから、こっちを見てくる。
「「矢追さんと小泉さんどっちの方がいいと思う?」」
「男子の分際で、らぶちゃんとじゅんちゃんに順番をつけるな!」
苛立ちが我慢できずに、本音が出てしまった。
絡んできたら面倒だなと思っていると、2人はうんうんと頷く。
「確かに百合中の言う通りだよな。矢追さんも小泉さんも自分には手の届かない存在だから比べるなんておこがましいよな」
「そうだよな。俺達が間違っていた。ごめん」
男子Bが謝ると、男子Aが頭を下げる。
「どうやったら矢追さんと仲よくなれるかな?」
「どうやれば小泉さんと仲よくなれるんだ?」
「らぶちゃんにはじゅんちゃんが、じゅんちゃんにはらぶちゃんがいるから、男子の入る隙間なんて全くないよ」
僕はそう言い切って部屋から出た。
「おーい! こうちゃん! こっちだよ! こっち!」
運動場の真中で愛が僕に手を振っている。
手を振り返しながら近づく。
愛が走ってこっちに向かっている途中、何もない所でこけそうになる。
全力疾走して間に合わない。
近くにいた純が抱きしめる。
体操服で抱き合っている2人を見ると、新たな百合シチュエーションを期待して息切れ以上にはぁはぁしてしまう。
汗だくになった愛と純は下着が透ける。
それを純が恥ずかしがっている所に、愛が後ろから胸を揉みくちゃにする。
思わず妄想してしまった。
「じゅんちゃん! ありがとう! お礼になでなでしてあげる! ほら! なでなで!」
「……おう。ありがとう」
抱きしめられたまま愛は純の頭を撫でて、純の耳は赤くなる。
「こうちゃんとじゅんちゃんと一緒の体育は初めてだよ! すっごく、楽しいよ! やったー、こうちゃんといっしょ、やったー、じゅんちゃんといっしょ」
愛は純と僕の手を摑み、運動場を走りながら大声で歌う。
歌い終わった愛はふらふらしていた。
運動場の端の日陰になっている所に移動して3人で地面に腰を下ろす。
春と言っても昼は少し熱い。
愛と純が熱中症にならないように気をつけないと。
少しして、女子の体育の先生がきて全員集合するように言う。
愛はそこに向かって走って行く。
僕と純は後を追っていく。
「今日は男子の方の先生が休みなので、男女合同でします。準備体操をするから男女好きに2組を作って」
先生の言葉にテンションを上がる。
愛と純に声をかけようとしてやめる。
僕達が所属している3年2組の人数は28人。
2人組を作れば仲間外れになることがない。
つまり、僕、愛、純で3人組を作ることができない。
鼻の下を伸ばしている男子達が愛に近づいていることに気づく。
準備体操は体に触れることが多い。
絶対に愛と男子を組ませるわけにはいかない。
女子達に囲まれている純の手を摑んで、愛の前に連れて行く。
「らぶちゃんとじゅんちゃんは一緒に準備体操をしたら?」
「いいよ! じゅんちゃん! らぶが背中押すから座って!」
「おう」
愛と純が準備体操を始めると、周りにいた生徒が離れていく。
これで一安心だな。
僕が組む相手を探す。
男子と組みたくないから女子がいいな。
女子は全員2組になっていた。
中性的な顔の男子だけがぽつんと1人でいる。
むさ苦しい男子よりましだな。
声をかけて、一緒に組む。
体が細くて男子特有の汗臭さが嫌悪感を抱くことがそれほどない。
でも、男子と会話をすることがあまりないから、何て話かけたらいいか分からない。
向こうからも何も言ってこない。
困ってないから、このままでいいな。
「じゅんちゃん、これ楽しいよ! 空が青くて気持ちいいよ!」
準備体操をしながら、愛、純の方に視線を向ける。
純の背中に愛が後ろ向きに乗って、足をバタバタしながらはしゃいでいる。
純の腕で支えられていると分かっていても、少し心配になる。
「次は、じゅんちゃんがらぶに乗って!」
「……おう」
愛のその言葉に純は戸惑いながら返事して、僕の方に視線を向けてくる。
小さい愛の体では純の体を受け止められないから、助けを求めている。
純の所に行き、耳元に口を近づける。
「少しだけでも体重をかければ、らぶちゃんは満足するよ」
「おう。ありがとう」
愛の背中にゆっくりと背中を乗せる純。
「じゅんちゃん軽いよ! らぶは力持ちだよ! もう1回らぶを持ち上げて!」
「おう。持ち上げる」
準備体操が終わると、サッカーをするから4チームに分かれるようにと先生が言った。
僕達のチームは愛と純がいて、残りは女子達で構成された。
男子が入ってこようとしたから、僕と純で睨みを利かせて阻止した。
最初の対戦相手は女子だけのチーム。
純に夢中になった女子は動けずに、僕と純がゴールをして点差を大きく広げて勝った。
敵所か味方も純に見惚れて動けてなかった。
目を輝かせて心から体を動かすことを楽しんでいる純には、誰もが魅了されてしまうから仕方ない。
すぐに次の試合。
サッカーコートの中に男子達が入ってきた。
「絶対に負けないよ!」
闘争心を燃やす愛に顔を少し赤くした男子が口を開く。
「こっちが勝ったらぼくと、どこか一緒に遊びに行ってほしい」
「いいよ! お姉さんのらぶが遊びにつれて行ってあげるよ!」
「ずるいぞ! 俺もいいかな?」
「いいよ!」
「「「「おれも、おれも」」」」
「もちろんいいよ!」
僕が否定する前に、愛はそう元気よく答えた。
男子達は軽くスキップをしながら持ち場につく。
愛は言ったことを必ず実行する。
僕達のチームが負けたら愛は男子と一緒に……僕の顔が青ざめるのを感じた。
試合が始まってすぐに、僕の考えが杞憂だと知る。
敵チームがボールを持っていても、すぐに純は奪いゴールする。
味方がボールを持っていたら、純はそこに近づきパスをもらいゴールする。
必死に追いかける男子を簡単に引き離して、純は無双している。
10点差がついた時に、男子達は集まって何かを話し始めた。
試合再開してすぐに、ボールを蹴る男子以外の6人が純の周りを囲む。
女子達がそのことを卑怯と言ったけど、男子達は無視した。
男子は女子がいる方ばかりに向かっていきゴールを決めた。
ゴールを決めた男子はテンションを上げて、自分のチームとハイタッチをしていたけど、
「今日の授業は終わり。サッカーボールは片付けてね」
先生の言葉を聞いて男子達は項垂れる。
勝手なことばかりした敵チームは女子の逆鱗に触れ、勝負に負けた罰として次の授業が始まるまで運動場を走らされた。
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