156話目 幼馴染達以外何もないのが嬉しい

 3人で登校していると、愛に男子2人組が挨拶をしてきた。


 幼馴染達とクラスが一緒になってから苛立つことはない。


「矢追さんのことが好きです!」

「お前いきなり何告白しているんだよ! 俺も矢追さんのことが好きだ!」

「先にぼくが告白していたんだから、邪魔しないでほしい!」

「告白に順番なんてない!」


 2人が睨みながら喧嘩を始めた。


「「付き合ってください!」」


 男子2人は同時に愛に向かって手を差し出した。


 話をするだけならスルーできるけど、男子が愛に告白するなんて絶対に許せない。


 告白の邪魔をしようとしていると、愛が男子2人の手を握る。


「いいよ! どこにいっしょに行けばいい?」


 愛の天然な回答に男子2人は項垂れる。


 すぐに顔を上げて愛の手を引っ張り、学校と逆方向に走る男子2人。


 急いで1人の男子の手を叩き落とす。


 もう片方の男子の手を純が叩き落としていた。


「「邪魔をするな!」」


 男子達が僕に近づきながらそう言った。


 純が僕の前に立つ。


「こうちゃんに何かする?」

「「……」」

「こうちゃんに何かする?」

「「……」」


 男子達は何も答えずに、学校の方に向かって逃げる。


「キャー! 王子様がまた困っている人を助けているわよ!」

「さすがみんなの王子様ですね! 私も少し前に助けてもらいました!」

「いいなー! わたしも王子様に助けられたい!」


 周りにいた女子生徒から黄色い声が上がる。


 愛と男子が付き合うことは絶対に許せない。


 純と女子が付き合うのはありかも。


 いや、純には愛がいるから、2人の間に入る隙間なんてない。


「おはよう。百合中君、らぶちゃん、小泉さん」


 少しパーマがかかった髪で黒縁眼鏡をしている女子こと、影山恋が話しかけてきた。


「おはよう! れんちゃん! 今日もなんかいい匂いするよ! クンクン」

「らぶちゃん、首に息がかかって、擽ったいからやめて」


 愛は恋に抱きついて、恋の首に鼻を当ててクンクンと嗅ぎ始めた。


 恋は身を捩っている。


 1、 2年の時は恋と同じクラスだったけど、3年になって違うクラスになった。


 鞄に入れている作ったクッキーを恋に差し出す。


「朝時間があって作ったからよかったら食べて」

「ありがとう! 本当にありがとう!」


 恋は両手でクッキーを受け取り、学校に向かってスキップをする。


「じゅんちゃんの分のクッキーもあるよ。らぶちゃんにはせんべいを作っているからね。昼休みに渡すね」

「こうちゃん、ありがとう! 楽しみだな! こうちゃんが作ったせんべい!」

「おう。ありが」

「……王子様と、違う、クラスになって、悲しいで、す」


 泣きながら現れた鳳凰院に純の言葉が遮られる。


 純の友達じゃなかったら、デコピンぐらいしていた。



★★★



 大好きな幼馴染達と同じクラスになっただけでも幸運なのに、2人の席が両隣にある。


 真面目な表情で授業を受けているけど、数分後に寝てしまう愛。


 退屈そうに先生の話を聞いているけど、ノートきちんと取っている純。


 愛と純が近くにいるだけで、英語の授業が楽しい。


 気がつくと昼休みを知らす、チャイムが鳴っていた。


「こうちゃん! じゅんちゃん! 天気がいいから外で食べるよ!」


 寝ていた愛が目を覚ましてそう言った。


 僕達は弁当を持って教室を出た。


 屋上に着き、フェンスの近くに座って弁当を広げる。


 いつもより豪華な僕が作った弁当を純は1言も喋ることなく、夢中で食べている。


「こうちゃんの弁当おいしそうだよ!」


 愛が涎を垂らしながら、純の弁当に入った豚の角煮を見ている。


「よかったら食べる?」


 豚の角煮は純のために甘めにしている。


 大好物の肉なら、甘くても食べれると思いそう提案した。


「こうちゃん、ありがとう! ぱく! もぐもぐもぐもぐ……」


 愛は勢いよく豚の角煮を口に入れた後、笑顔になったり苦虫を噛むような顔になったり百面相している。


「ごくん。ありがとう」


 覇気のない声を出す愛。


 気に入らなかったのだろう。


「こうちゃん、今日鳳凰院の家で晩飯食べるから」


 弁当を空にした純がそう言ってきた。

 僕と愛以外に関わろうとしなかった純が友達と仲がいいのは嬉しい。


 でも、少し寂しい気持ちにもなる。


 子どもが巣立っていく感覚だな。


 純がいないとしたら1人で食事をしないといけない。


 上がっていたテンションが少し落ち着く。


 座ったままフェンスの方に顔を向けると、桜の木が見えた。


 ここで桜を見るのも最後だと思うと、しみじみとしてしまう。


「こうちゃんは部活入らないの?」


 愛が僕の膝の上に手を乗せて聞いてきた。


「3年生だから入ってもすぐにやめるから入らないよ」


 愛、純との時間が減るから入らないが本音。


 部活をしている愛に嫌味として聞こえるかもしれないから本音を隠す。


「そっか! じゅんちゃんは部活に入らないの?」

「鳳凰院さん達とお茶会をするのが楽しいから入らない」

「いいね! お茶会楽しそう! らぶも行きたい!」

「おう。鳳凰院さんに伝えておく」


 おやつを食べた2人は春の陽気とお腹が膨れたこともあり、僕に凭れながら寝ている。


 家庭科部をやめてから、放課後が暇になることが増えた。


 何かすることを見つけたい。


 部活みたいに時間の融通が利かないものではなく、愛と純を優先にできるものがいいな。


 家庭科部に入る前は1人でいる時に何をしていたか考える。


 家事をするか、テレビを見るぐらいしかしてない。


 幼馴染以外何もないことを改めて実感して嬉しくなった。

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