155話目 幼馴染達と同じクラス

 ……眠れないな。


 2時。


 23時過ぎにベッドに横になった。


 3時間も寝てない。


 だるさや眠たさが全くない。


 それ所か、叫びながら走り回りたい気分。


 両隣に住んでいる幼馴染達に迷惑がかかるからしないけど。


 こんなにテンションが高いのには理由がある。


 それは。


 それは!


 高3になって、初めて大好きな幼馴染達と同じクラスになれました‼


 ドヤ!


 ドヤドヤ!


 立ち上がって、ドヤ顔をしながら小躍りをする。


 中1の時に純と1度だけ、同じクラスになった。


 愛とは小学生から高2まで1度も、同じクラスになったことがない。


 確率で言えばそんなことあるのかと愚痴り、神様を呪っていた。


 やっと、やっと、高3になって3人一緒のクラスになれた。


 3年の新学期が始まって1週間以上は経った。


 でも、歓喜の気持ちが消えずに落ち着くことができない。


 制服に着がえて、1階に下りる。


 愛を迎えに行くまで、時間は結構ある。


 いつも以上に、手間のかかる料理を作ろう。


 キッチンに行き、冷蔵庫の中を覗く。


 これなら、豚の角煮、煮卵、ポテトサラダ、トマトパスタが作れるな。


 料理に取りかかる。


 豚を煮こんでいる間に、他の作業をする。


 1時間ぐらいで全ての料理が完成。


 食欲はあまりないけど、健康のために食パンを口に含みそれを青汁で流した。


 まだ時間はある。


 そう言えば、家庭科部をやめてからあまりお菓子を作っていないな。


 ホットケーキミックスがあるから、クッキーを作ろう。


 甘いのが苦手な愛には、米を使って七味せんべいを作ろう。


 無心でクッキーを作ったら、思った以上に多くできた。


 知り合いに配ればいいな。



★★★



 僕の右隣の家の扉を開けると、愛が抱き着いてきた。


 誰でも魅了してしまいそうな大きな瞳に、低身長にあったショートボブという幼い髪型。


 そんな可愛さの権化と言っても過言ではない愛にぎゅっと抱きしめられたら、幸せになるしかない。


「こうちゃん! おはよう! 今日もこうちゃんはいい笑顔だよ!」

「らぶちゃんとじゅんちゃんと同じクラスになれたから、嬉しくて笑顔になっているよ!」


 愛を抱きしめたまま回る。


「あははは! ははははははは! こうちゃん、面白い! もっと! もっとやって!」

「いいよ! いくらでも回るよ!」


 1分本気で回り続けて、ゆっくりと下ろす。


「こうちゃん! すっごく楽しかったよ! もう1回して!」


 体力の限界と目が回って気持ち悪い。


 愛に満面の笑みを向けられて、お願いされたら断ることができない。


 幸せの絶頂である僕にできないことはない。


「朝から騒がしいわね。どうしたの?」


 愛を抱きかかえようとしていると、リビングから愛とそっくりな顔を出した女性が話しかけてきた。


 その人は、愛の母親こと矢追琴絵さん。


 愛を産んでいるとは思えないほど若々しい。


 年齢は僕の母と変わらないはずなのに不思議だな。


「幸君、今ママの年齢のことを考えていたかしら?」


 こっちに向かってきているだけなのに威圧感がある。


「考えてないですよ」

「それならいいわ」


 口角は上がっているけど、目が笑っていない琴絵さん。


「ママ! らぶはこうちゃんと同じになったよ!」

「ママに内緒でいつの間に婚姻届けを出して、幸君と同じ苗字になったの⁉」

「こうゆいとどけって何?」

「愛ちゃんと幸君が夫婦になったってことは、幸君はママの子どもになったのね! おはようのキスをしましよう!」


 唇を尖らした琴絵さんが近づいてくる。


「ママ、キスはエッチだから駄目だよ!」


 愛が琴絵さんの手を引っ張るけどびくともしない。


 後少しで琴絵さんとキスをしそうになって。


「ママに話したいことがあるからこっちにきて」


 細身で切れ長の目をした男性こと矢追利一さんが、琴絵さんの両肩を摑みながらそう言った。


 琴絵さんの返事を聞かずに、利一さんはそのままリビングに連れて行く。


「あんっ、パパ、急に、激しい、キス。だいす、きよ」


 リビングから喘ぎ声が聞こえてきて、顔を真っ赤にする愛。


「ぼく以外とキスをしないと約束してほしい」

「分かったわ。だから、もっと激しくキスをして!」

「今晩寝られないほどするから、いい子で待っていて」

「パパ大好き!」


 利一さんが出てきて、「朝から騒々しくてごめんね」と言って家を出て行く。


 僕の家の左隣にある純の家に、学校に行く準備が整った愛と一緒に向かった。


 玄関の扉を開くと、純が廊下にいた。


 女子が思わず振り返ってしまう強さを秘めたツリ目、高身長でショットカット。


 困っている人をさりげなく助けて、そのことを1言も口にしない。


 見た目も性格も格好よ過ぎる。


 愛より早く靴を脱いで、純に抱き着く。


「じゅんちゃん! おはよう!」

「……おはよう」


 耳を少し赤くして照れている純が可愛い。


 少し遅れて、愛が純に抱き着く。


「じゅんちゃん! おはよう! 今日もこうちゃんに負けたよ! 明日は絶対に負けないよ!」

「……おはよう」

「おはよう! じゅんちゃん今日起きるのが早いね!」

「おう」

「それに、どこか楽しそうだよ!」

「おう。学校で2人と一緒にいられるのが嬉しい」

「らぶもだよ! らぶもこうちゃんとじゅんちゃんと一緒に勉強できて嬉しいよ!」


1歩後ろに下がって、愛が純を抱きしめている姿を凝視する。


「……父さんが作ってくれた朝食を食べてくる」


 耳を赤くしながら恥ずかしがっている純が可愛くて頭を撫でる。


「らぶもじゅんちゃんを撫でるよ!」


 僕と愛が頭を撫で続けていると、純は真っ赤にした耳を手で押さる。


 いくらでも純の頭を撫でたい。


 でも、純の朝食を食べる時間が減るから我慢。


 3人でリビングに入る。


 机の上にご飯、みそ汁、お新香が置かれていた。


 純はその前に足を組んで座り、純の隣に愛は女の子座りする。


 2人分のコップを持っている純の父親こと小泉恭弥さんが、キッチンからこっちに向かってきた。


 恭弥さんは三白眼で筋肉質な体をしているけど、物心つく頃から優しくしてくれていので怖くない。


「お前たちも食うか?」

「食べるよ!」


 涎をダラダラと垂らしている愛は即答。


「幸はどうする?」

「朝ご飯食べたので、僕の分はいらないです」

「おう」


 恭弥さんは愛の分の朝食を準備して、純の対面に座る。


 愛、純、恭弥さんは食べ始めた。


 純がおかずを食べてないことに気づく。


 塩辛いものが多いから、食べないのだろう。


 恭弥さんが立ち上がって、数分して戻ってくる。


 純の前に卵焼きを置く。


 おずおずと食べた純は頬を緩める。


 その姿を見た恭弥さんは少し笑った。

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