142話目 どうやって友達を作ればいいですか?

 剣の様子が心配だったから、幼馴染達に剣と昼休み一緒に弁当を食べていいか聞く。


 愛は笑顔で頷き、純は少しだけ眉間に皺をよせながら「おう」と答えた。


 3年の教室に行っても、剣はいない。


 近くにいた女子に剣が今どこにいるか聞く。


 こっちが聞きたいと言われた。


 いないならしょうがない。


 屋上に向かおうとしていると、愛が剣を探したいと言う。


 手分けして剣を探すことにした。


 剣は調理実習室で弁当を食べることが多い。


 調理実習室にいると思い向かった。


 鍵は開いていたけど剣はいなかった。


 剣がいつも座っている席にも、鞄や弁当が置かれていない。


 ここにはきてないな。


 それから、剣が行きそうな人気のない屋上、校舎裏、空き教室を見て回ったがいない。


 早く見つけないと、弁当を食べる時間が終わる。


 このままでは、愛と純がお腹を空かせたまま授業を受けることになる。


 もう1度、調理実習室を覗いて剣がいなかったら、愛、純を探そう。


 調理実習室のドアを開ける。


 剣はいない。


 机の上に食べかけの弁当が置かれていた。


 不思議に思い机に近づく。


 どんと鈍い音が机の下から聞こえてきた。


 机の下を覗く。


 体を丸めている剣がいた。


「僕達と一緒にご飯を食べよう」


 声をかけると剣は顔を上げて、引きつっていた顔を和らげる。


「はい。食べます」

「らぶちゃんとじゅんちゃんを呼んでくるよ」

「分かりました。待っています」


 愛、純を見つけて、調理実習室に戻り4人で食事をする。


「剣はどうして髪を切ったの?」


 剣とスバルは誰もが見間違えるほど似ている。


 そのことを、スバルと家族の剣が知らないわけがない。


 騒ぎになるのは予想できたはずなのに、どうして髪を切ったのか少し気になって質問した。


「……人見知りを治すために髪を切りました」

「苦手なことに、もぐもぐ、頑張ろうとする、もぐもぐ、剣はいい子、もぐもぐ、だね!」

「らぶちゃん、口に食べものが入っている時は喋らないようにね」

「もぐもぐ、ごくん。こうちゃん、わかったよ! 口の中入ってないよ」


 急いで口を動かして飲み込んだ愛は僕に口の中を見せる。


「らぶは頑張る剣を応援するよ!」

「ありがとうございます」

「まずはね、グ~~~~~~~~~~~~~。お弁当を食べてからするよ!」


 お腹の鳴った愛は食事に戻った。


 全員の食事が終わって、剣の人見知りを治す作戦会議をする。


「友達をたくさん作れば、人見知りすることはないよ!」

「……どうやって友達を作ればいいですか?」

「『友達になろう!』と言えば、友達になれるよ!」

「…………わたしには難しいので、他の方法はないですか?」

「友達になりたい人に何でもいいから話しかけたら友達になれるよ!」

「…………」

「今から言いにいくよ!」


 沈黙したことを肯定と受け取った愛は剣を引っ張る。


 剣は踏ん張って抵抗している。


「友達を作る練習を僕達ですればいいよ」


 見かねてそう提案すると、剣は大きく何度も頷く。


「はい! はい! らぶが剣の友達を作る練習を手伝う!」


 愛は剣の方に体を向ける。


「剣が友達を作る練習だから、剣かららぶちゃんに話しかけるようにしよう」

「分かった!」


 僕の言葉に元気よく返事した愛は剣を凝視する。


「…………」

「…………」


 1分が経っても剣は愛に喋りかける所か、愛の顔を見ることもできてない。


 髪を切ってからの剣は誰とも視線を合わせてない気がするな。


 まずは人の目を見て話せるようにしたい。


 でも、そのことを言ったら尚更緊張するだろう。


 自然と剣が相手の目を見る方法はないか考えて浮かぶ。


「まだ昼休みが終わるまで時間があるから、にらめっこをしようか?」

「にらめっこって何?」


 愛が聞いてくる。


「向き合った2人がわらべ歌ってから面白い顔をして、笑った人が負けの遊びだよ」


 にらめっこのわらべ歌を試しに歌ってみる。


「やりたい! 剣やろう!」

「…………」


 満面の笑みの愛に話しかけられた剣は凄く嫌そうな顔をする。


「勝った人は負けた人に好きな服を着させるってどう?」

「やります! やらせてください!」


 剣は瞳を輝かせながら大声を出した。


「らぶは負けないよ!」

「私も負けません」


 愛と剣は見つめ合って、わらべ歌を一緒に歌い始める。


 あっぷっぷと言い終わると、愛は口を膨らませて、剣は目を細めて唇を窄めた。


「あははははははあははははははははは! 剣、おも、しろい、よ! ははははははは!」


 愛は腹を抱えながら大爆笑。


 落ち着きを取り戻した愛は剣が作った服を着ることになった。


 着替えている間は外に出る。


「入っていいよ!」


 愛の声が聞こえて部屋に入ると、白のゴスロリの服を着ている天使がいた。


 部屋から飛び出してスマホを取ってきて、既に愛をスマホで撮っている剣の隣で撮る。


「小さくて可愛い矢追さんが、可愛い服代表のゴスロリを着たら可愛過ぎます!」

「当たり前だよ! らぶちゃんは世界一可愛いから、どんな服だって着こなすよ!」


 剣の言葉に相槌を打ちながら、シャッターを何度も押す。


 僕と剣のスマホのアルバムが、愛の写真で潤った。


 スマホを机に置いた剣はどこからともなく取り出した黒のゴスロリを、純の方に向けてにやにやする。


 純が可愛い服を着た所を想像してにやにやする気持ちは分かる。


 でも、眉間に皺を寄せて本気で嫌がっている純には着せられない。


「次は僕としようか?」

「いいですよ!」


 剣は黒のゴスロリを僕の体に当てるとぴったり。


 ……純用ではなくて、僕用だった。


 絶対に負けられないな。


 剣の方に顔を向けると、剣は顔を逸らす。


「こっちを見てくれないとゲームが始められないよ」

「……見ます。少しだけ、待ってください」

「らぶが手伝うよ! じゅんちゃん抱っこして、剣の所につれてって!」

「おう」


 純は愛を抱えて剣の後ろに立つ。


 俯いている剣の顔を愛は両手で挟み僕の方に向けた。


 みるみる剣の顔が赤くなって、勝負が始まってもないのに「……負けました」と呟いた。



★★★



「部活休んで剣の友達がたくさんできるように協力するの!」

「今日は部活にきてもらうよ。言い訳は聞きません」


 授業が終わって教室を出ると、暴れている愛を恋が抱えている。


 愛は漫画を描くことを何よりも真剣にしている。


 放課後に剣の人見知りを治す手伝いより、部活に行った方がいいな。


 ここは見なかったことにして、純のクラスに行く。


「今日わたくしの家でティラミスを作るので、食べにきませんの?」

「おう! 行く!」


 甘いもので頭がいっぱいで、調理実習室に集まることを忘れているな。


 純の幸せな時間を邪魔したくないから、調理実習室1人で向かう。


 部屋に入り、机の下を覗くと剣がいた。


「ここにスバルが入って行くのを見たってやつがいるんだけど、本当にいるのか?」


 剣が机から出ようとしていると、男子が荒々しくドアを開けて部屋に入ってきたので引っ込む。


「いないよ」

「スバルが帰ってくるまで、待ってるよ」


 男子は出入口から近い席に座って、スマホを触り始めた。


「遅い! もう待てねえ!」


 適当に教科書を出して読もうとしていると、急に切れだす男子。


「お前、スバルと同じ家庭科部だろ! 今すぐここにこいってスバルに連絡しろ!」

「スバルって生徒は家庭科部にいないよ。だから、この部屋から出て行って」

「生意気なこと言いやがって! 少し痛み目をみないと分からないようだな!」


 男子が蹴ろうとしたけど、遅すぎて簡単に避ける。


「ふざけんなよ! 家庭科部なんてなくなってしまえ!」


 喚き散らした男子は去る。


 部屋の鍵を閉める。


 同じようなのがまたきたら精神的にきついから。


「鍵を閉めてからもう大丈夫だよ」

「……ごめんなさい」


 おずおずと机から出てきた愛は俯きながら謝ってきた。


「気にしなくていいよ。完全に自分のことしか考えられていない男子が悪いから」


 軽い感じで言っても、剣は何度も謝ってくる。


「久しぶりに剣が作ったホットケーキを食べたいな。剣の料理スキルも上がったから、熊の形をしたものを作るのはどう?」


 空気を変えるために提案する。


「作ってみたいです! 可愛過ぎて食べられないクマを頑張って作ります!」


 剣はやる気が満ちた目をしてキッチンの前に立つ。


「……卵が……上手く割ることが……殻まで入りました……牛乳入れ過ぎました……全然固まらないです……」


 初めて料理を作った時みたい失敗する剣。


「……わたし、全く成長していません」


 剣は部屋の隅に行って膝を抱えて落ち込む。


「アドバイスするから、もう1度作ろう」

「……分かりました。頑張ります」。


 数分して、黒焦げのホットケーキができあがった。


 絶望した顔で剣はそれを見ている。


 剣は髪を切って人見知りが前よりも酷くなっている。


 僕が近くにいるから緊張して失敗したのかも。


「もう1回ホットケーキを作ろうか?」

「……作れる自信がありません」

「それなら、自信がつくまで作ればいいよ。下校時間までつきあうよ」

「……迷惑じゃないですか?」

「迷惑じゃないよ。僕は自分のしたいことしかしないから、剣は気にしなくていいよ」


 そう言うと、剣の頬が少しだけ赤くなった気がした。


「少し力が入っているから深呼吸をしてから始めようか」

「はい。スーハー、スーハー、なんだかできそうな気がします」


 3度目の正直で取り組んだホットケーキ作りは、キツネ色に焼けていて美味しそう。


 最後にチョコクリームで顔を描いて完成。


「……百合中君さえよければもらってください」


 後片付けも終わり帰ろうとしていると、剣が狐、犬、猫のストラップを差し出してきた。


 犬、猫がどことなく愛、純に似ていて可愛い。


「ありがとう。凄く嬉しいよ」


 受け取ろうとすると、剣は手を閉じた。


「……やっぱり狐だけはわたしが持っていていいですか?」

「いいよ。犬と猫をもらえて凄く満足しているから。本当にありがとう。一生大切にするよ」

「喜んでもらえて嬉しいです。百合中君のために作ったスカートもあるのでそれもよかったらもらってください」

「いらない」


 はっきりと断って、教室を出る。


 少ししてもこないから教室の中を覗くと、狐のストラップを優しく両手で包む剣がいた。

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