135話目 幼馴染達とおばけ探し①
放課後、僕、愛、純、鳳凰院、角刈り男子で、1年教室に向かう。
1年生からおばけの情報を集める。
おばけを怖がって震えている愛がずっと純に抱き着いている姿が尊い。
下校時間になって、生活指導の先生から帰るように言われた。
「一昨日より昨日の方がおばけの目撃者が増えているのはおかしい」
靴箱に向かっていると、隣を歩いている純が呟いた。
確かにそう。
昨日の放課後、ほとんどの時間僕と恋は1年の教室の前にいた。
離れたのは飲みものを買いに行く時だけ。
それなのに、昨日のおばけの目撃者は1年生の7割が見ている。
僕と恋がおばけを見てないのに、目撃者が増えるのはおかしい。
いや、下校時間を過ぎてから恋だけがおばけを見た。
おばけを追いかけて見失った場所は靴箱。
そう言えば、一昨日と昨日のおばけの目撃場所が違ったな。
一昨日は1年の教室とその近くの廊下で、昨日は靴箱の近く。
答えが出ないまま校門に着く。
高級そうな車が止まっている。
運転席からスーツを着た女性が出てきて、後部座席のドアを開く。
「王子様達も乗って行きますの?」
「言葉に甘えて乗せてもらおう」
鳳凰院の言葉に僕がそう言うと、純は頷く。
後部座席に鳳凰院と純が乗る。
僕の背中で寝ている愛を純の隣に座らせて、ドアを閉めた。
「前の席へどうぞ」
僕の方に視線を向けながら、女性が言った。
助手席の所に向かっていると、学校の中に入って行く角刈り男子が薄っすらと見えた。
暗闇の中で見たから、見回りをしている先生と見間違えたのかもしれないけど気になる。
愛と純には先に帰ってもらい、角刈り男子? の後を追う。
すぐに1年の教室の前の廊下の壁際で座っている角刈り男子を見つける。
「何しにきたんだよ?」
「そっちこそ、何してる?」
「俺は早くおばけを捕まえて、矢追たんに安心してほしいから戻ってきた」
「それだけじゃないよね。おばけを捕まえることでらぶちゃんに褒められたり、好かれたりしたいんだよね?」
「そんなこと思ってない! 頭を撫で慣れながら褒められたいなんて全く思ってない! 俺1人で大丈夫だからお前は帰れ!」
立ち上がった角刈り男子は大声を出しながら、胸倉を掴んでくる。
「おい! そこに誰かいるのか?」
男性の声が聞こえてきた。
たぶん先生だろう。
見つかったら怒られるから、近くのトイレに隠れる。
後から、角刈り男子も入ってくる。
真っ暗な場所に間近で筋肉質の角刈り男子がいることに発狂しそう。
足音が近くから聞こえてくるから、必死に声を出すことを我慢。
しばらくして足音が遠のく。
廊下に出る。
「矢追たんのために、おばけを見つけるまで協力しないか?」
「……分かった。いいよ」
何より優先することは愛が安心して学校生活が送れること……嫌々頷く。
「1年達が見たっていうおばけは夜に出るのか?」
「下校時間を過ぎてから見たって言う人はほとんどいなかった。放課後になってすぐに現れるって言う人が大半だよ」
「遅い時間じゃなくて、早い時間に現れるおばけか。なんかおばけっぽくないな。おばけを見つける方法はないのか?」
「あったら、おばけを見つけてるよ」
「そうだよな。お腹空いたから早くおばけ出てこいよ」
角刈り男子がそう口にした瞬間、廊下の電気が消えた。
「おい、なんで電気が消えたんだ! 停電か! 真っ暗で何にも見えない!」
うるさい声が聞こえてくる。
不愉快になりつつ、スマホのライトアプリを使う。
「なんだ、なんだ! 人魂か!」
「先生が僕達に気づく。次に大声を出したら腹パンするよ」
「……」
数分も経たずに角刈り男子は口を開く。
「おばけを見つけることができたら、矢追たんが俺のこと好きになって付き合ったりできるか?」
「できないよ!」
当たり前なことを聞いてくるな。
「何でできないと言い切れるんだよ」
「らぶちゃんはじゅんちゃんと結婚するから、他の人と付き合うなんて絶対にない」
「お前に女子同士が日本では結婚できないとか言っても、意味がないから言わないことにする」
「そうだね。日本で結婚することができなくても、海外ですればいいだけだから」
「そんなに簡単なことではないだろ。まあ、それは今いいとして矢追たんに小泉と結婚したいのか聞いたのか?」
「聞いてないよ」
「だったら、俺にもチャンスがあるだろ」
すぐ近くで、ものが落ちるような音がした。
角刈り男子の口を手で塞いで、スマホをポケットに入れる。
もごもごと角刈り男子が喋っていて気持ち悪いけど我慢。
足音が大きくなって、僕達の方に向かっていることが分かる。
「……やっと見つけましたわ」
涙声の鳳凰院が話しかけてきた。
「抜け駆け、ずるい、ですわ。わたくしも、おばけの、正体を、暴いて、王子様に、褒められたいですの」
しゃくりあげる鳳凰院。
泣き続けられると先生に見つかるけど、無理矢理女子の口を塞ぐこともできない。
「怖くて泣くなら家に帰れ!」
「帰らないですわ!」
角刈り男子にきつい言葉をかけられた鳳凰院は涙を拭って言い返す。
「おばけを捕まえるのは俺だから、お前がここにいても意味がないから帰れ!」
「嫌ですわ! わたくしがおばけの正体を暴きますわ!」
2人の言い合いが苛烈さを増して、声を音量が上がっていき廊下に響く。
「こらー‼ そこにいるのは誰だー‼ 今からそっちに行くから動くなよ‼」
男性の怒号が聞こえてきた。
角刈り男子と鳳凰院は言い合いをやめて、声がしてきた靴箱の方を見る。
靴箱とは逆方向に向かって走ろうとしていると、鳳凰院が尻餅をついた。
「早くしないと先生がくる。早く立て」
「……動けない、ですの」
「しょうがねえな」
角刈り男子は鳳凰院をお姫様抱っこする。
「今すぐ下ろしてほしいですわ!」
「暴れるな! 落としてしまう!」
「落としていいですから、下ろしてほしいですわ!」
「泣いている女をほっとくことなんてできるか! 喋っていると舌噛むから黙ってろ!」
勢いよく走り出す角刈り男子の後ろをついて行く。
窓から出て誰にも見つかることなく校門までこられた。
「早く下りろ」
「……」
真っ赤な顔を左右に振る鳳凰院。
「しょうがねえな。お前の家はどっちだ?」
「……あっちですわ」
鳳凰院が指を差した方に向かって角刈り男子は歩き出す。
帰る方向は一緒だから、後ろをついて行く。
鳳凰院の家に着き、角刈り男子は鳳凰院を下ろす。
「……ありがとうございますの」
「当たり前のことをしただけだから、感謝はいらん。それじゃあな」
「少し待ってほしいですわ」
「どうかしたのか?」
「……何でもないですが……」
「言いたいことがあるならはっきりと言え。俺はお腹が空いたから早く家に帰って飯を食べたいんだ」
「…………」
恋する乙女みたいに顔を真っ赤にして俯く鳳凰院。
みたいっていうか、完全に鳳凰院が角刈り男子に恋をしているように見える。
2人を恋人にすれば、角刈り男子が恋にちょっかいを出すことがなくなる。
そうとなれば行動しよう。
「僕もお腹が空いたよ。鳳凰院さんさえよければ、鳳凰院さんの家で晩飯を食べさせてもらっていい?」
「……いいですの」
鳳凰院から角刈り男子に視線を向ける。
「角刈り男子も一緒に食べて帰ろう」
「俺は母ちゃんのご飯が家にあるから家に帰る」
帰ろうとする角刈り男子の手を嫌々握る。
「早く帰らないと母ちゃんに怒られるー!」
「母親のことをかあちゃんって言うのは可愛いですわ」
角刈り男子の叫び声と熱っぽい鳳凰院の呟きが聞こえてきた。
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