114話目 幼馴染達が久しぶりの再会

 久しぶりに愛に料理が作れる!


 気合いを入れて作るぞ!


 愛の大好きな激辛カレーと豚キムチを作る材料は冷蔵庫の中にあるな。


 朝食にしては重いけど、愛なら余裕で食べれる。


 切った野菜を鍋に入れながら、玉ねぎを薄切りにしている坊主男子に話しかける。


「坊主男子がらぶちゃんのこと好きでも、らぶちゃんはじゅんちゃんと結婚するから諦めなよ」

「らぶのこと好きじゃない!」

「本当に?」

「……おれはらぶのことが好きだ!」


 開き直ったのか坊主男子は大声で叫ぶ。


「声が大きい。らぶちゃんが起きたらどうする」

「お前のせいで声が大きくなったんだろ。お前はらぶとじゅんさんが結婚するって言ったけど、女と女は結婚できないぞ」

「日本ではできないけど、海外ではできる国がある。それに、形式上でできなくてもらぶちゃんとじゅんちゃんが一生そばにいれば僕の中では2人が結婚したのと同じだから」

「何を言ってるのか分からない」

「分からなくていいよ。らぶちゃんに手を出したら僕が怒るってことだけは覚えていて」

「お前の家に泊まらしてもらっているときは絶対に手を出さない」

「夏休みが終わっても、愛には手を出させないから」


 本気で睨むけど坊主男子は怯まず、僕の目を真っ直ぐと見る。


「お前が許さなくても、らぶちゃんがおれのことを好きになればいいんだよ!」

「らぶちゃんが坊主男子のことを好きになることなんて絶対にないね」

「なんでお前にそんなことが言えるんだよ」

「僕が邪魔をするからだよ」


 ドヤ顔をして坊主男子を煽る。


「うるさい! お前が邪魔をしてもおれは」

「2人とも喧嘩は駄目だよ!」


 やってきた愛が言った。


「こうちゃんも強も謝って!」


 僕達は謝ってから、途中だった料理を急いで完成させる。


 3人前のカレーと豚キムチを数分で食べた愛は船を漕ぐ。


 愛をソファで寝かして毛布をかけた。


 洗いものをしながら、洗い終わった食器を布巾で拭く坊主男子に話しかける。


「坊主男子は学校で好きな人とかいないのか?」

「……おれはらぶが好きだって言っただろ」


 愛がいる方向を一瞥して坊主男子は小さな声で言う。


 坊主男子の意識を愛から別の女子に逸らすために、したくもない恋バナをしているが無理そうだな。


 いや、もう少しだけ頑張ってみよう。


「告白されたことはある?」

「あるけど、らぶより……可愛いやつはいない」

「分かる! らぶちゃんより可愛い女子なんてこの世にいない! いや、じゅんちゃんもらぶちゃんに負けないぐらい可愛いから、らぶちゃんとじゅんちゃんより可愛い女子なんてこの世にいない!」

「お前ってらぶとじゅんさん、どっちが1番好きなんだ?」

「らぶちゃんもじゅんちゃんも、1番好きに決まっている!」


 そう言い切った後すぐに、バタンと扉が閉まる音。


 ゆっくりと扉が開き、耳を真っ赤にした純が部屋に入ってくる。


「2人と付き合うのはよくないだろ」


 愛と純のことを恋愛対象としてではなく家族として見ていると言おうとしてやめる。


 坊主男子と恋愛話をするのが面倒になったから。


 洗い物を終え、椅子に座っている純の所に行く。


「アイスココアは入れようか?」

「おう」

「じゅんさんはブラックコーヒー飲んでそうだけど、ココア飲むんだな」

「じゅんちゃんが何を飲もうとじゅんちゃんの自由だよ」


 キッチンに向かってココアを作っていると、坊主男子が隣にきて僕をじっと見てる。


 ココアの粉を適量入れて、牛乳を少量入れてよくかき混ぜてから残りの牛乳を入れる。


 完成したアイスココアを純に渡すとごくごくと飲んで満足そうに顔を綻ばせた。


「おかわりはいる?」

「おう」


 純からコップを受け取りキッチンに戻る。


「ココアって家でも作れるんだな。おれも作っていいか?」

「いいよ。コップは棚にあるのを適当に使って」

「わかった。うまいのを作る」


 坊主男子はコップに粉を入れて、牛乳を入れようとして止まる。


「じゅんちゃんのココア作りたいから、早く牛乳を入れて」

「お前は何で牛乳を少しずつ入れたんだ?」

「ココアの粉を混ぜやすくするためだよ」

「そんなので混ぜやすくなるのか?」

「信じなくていいから、牛乳を貸して」

「やってみるからちょっと待って」


 僕に言われた通りに、坊主男子はココアを作って1口飲む。


「うまい! こんなにうまいココア飲んだことない!」

「何しているの?」


 坊主男子がピョンピョンとその場で跳ねていると、愛がやってきた。


 愛の眠りを邪魔した坊主男子に制裁を与えたい。


 そんなことをしたら愛に怒られるのでしないけど。


「らぶ! めちゃくちゃうまいココアの作り方を教えてもらった! らぶにも作ろうか?」


 坊主男子がそう言った瞬間、キッチンテーブルに置かれているココアの袋を上置きの食器棚に急いで隠す。


「……お願いするよ。……らぶは甘いものは苦手じゃないから、ココアを飲めるよ」


 眉間に皺を寄せた愛は凄く嫌そう。


 坊主男子は机の上を見てから、僕に視線を向ける。


「ココアの袋がないんだけど、どこに持っていった?」

「坊主男子が飲んだので最後だったよ」

「そんなわけないだろ。まだたくさ」


 嫌々ながら、坊主男子が喋っている途中で口を塞ぐ。


 吐息が当たって気持ち悪いけど我慢。


 坊主男子の耳元に顔を近づける。


「それ以上喋ったら、らぶちゃんにあのことを話すよ。分かったなら頷いて」


 大きく頷いた坊主男子の口から手を離す。


「らぶちゃん、ごめんね。ココア全部使ってしまったから、代わりに青汁でいい?」

「うん! いいよ! 青汁なら飲めるよ!」


 本音を隠せていない愛が可愛過ぎる。


 青汁を作って愛に渡すとそれを一気に飲む。


「うまい! もう1杯!」


 やっぱり愛には屈託のない笑顔が似合う。


 青汁のおかわりを3杯してから、コップを流しに置く。


「こうちゃん! 美味しかったよ!」


 僕に抱き着く愛。


「おれも飲んでみていい?」

「らぶが作ってあげるよ!」


 愛は青汁を作って坊主男子に渡す。


「らぶ、ありがとう。いただきます。……」


 坊主男子は1口飲み、顔を引きつらせる。


「強! 美味しいでしょ! らぶも青汁が大好きなんだよ!」

「……うん。うまいぞ! おれも青汁が大好きだ! 本当に青汁が大好きだ!」


 10分ぐらいかけて坊主男子は青汁を飲みきった。


 ドアが開く音がする。


「じゅんちゃんにまだただいま言ってないよ! 今すぐに言わないと!」


 愛は出入口の方に向かって走る。


 久しぶりの愛と純の触れ合いを見ないと。


 全力疾走で愛を追いかける。


「じゅんちゃん! ただいま! 久しぶりだよ!」

「おかえり、らぶちゃん」


 勢いよく飛び込んだ愛を優しく抱きしめる純。


 尊い!


 この光景を見るために生まれてきたんだと改めて実感する。


「じゅんちゃんに抱き着くと安心するよ!」

「……おう」


 愛に頬擦りをされた純は擽ったそうに笑う。


「こうちゃん! じゅんちゃん! ソファに座って!」


 愛が両手でバンバンとソファを叩く。


 僕達は愛の両隣に座る。


「今日1日らぶはお姉さんをやめて、犬になるよ! こうちゃん! じゅんちゃん! 強!分かった? ここにいるのはらぶじゃなくて、犬のらぶだよ!」


 僕の太腿の上に頭を純の太腿の上に足を乗せる愛。


 こんな可愛い犬だったら一生大切にする!


「こうちゃん! 犬は頭を撫でられるのと嬉しいから頭を撫でてほしいよ!」

「喜んで撫でるよ。気持ちいい?」

「うん! 気持ちいよ! らぶは犬だから日本語を喋ったらダメだね! 犬みたいに鳴かないと! らぶは犬だよワン!」


 申し分ないぐらい可愛いけど、人間の欲は底をつかない。


 僕に言うのではなくて、純に言ってほしい。


 もっと正直になれば、犬役は純にやってほしい。


 リードつきの首輪を純につけてもらい、愛に強めに引っ張ってほしい。


「次はじゅんちゃんに頭を撫でてほしいワン!」


 すぐに愛の頭を撫でるのをやめる。


 愛は純の太腿に頭をのせる。


「じゅんちゃん! 早くなでなでして!」

「……おう」

「早く早く!」


 照れた純の手を愛が摑んで自分の頭に持っていき撫でる。


 男子が自宅に住んでいるイライラがどうでもよくなるほど、至福な光景が広がる。

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