100話目 幼馴染達と図書館

 パジャマから半袖とスカートに着替えている愛は先頭を切って、図書館に入る。


「漫画がたくさんあるよ! どれ読もうかなって、らぶは勉強するために図書館にきたんだよ!」


 出入口の近くにある漫画コーナーの前に立ち止まり、ノリツッコミをする愛。


 環境を変えれば集中力が上がると思い、昼食を食べてから図書館にきている。


「勉強頑張るよ!」


 長机の所に早足で向かって行く愛を純と一緒に追いかける。


 宿題を始めている愛の両隣に僕達は座る。


 純は呆然と前を見つめていた。


 小さな声で純に話しかける。


「暇つぶしに漫画読む?」

「おう」

「持ってこようか?」

「自分で取ってくる」


 立ち上がった純は少し歩いて僕の方を見る。


 ついてきてほしいんだな。


 2人で漫画コーナーに向かう。


 漫画コーナーには有名な作品ばかりが並んでいる。


「こうちゃんが選んで」

「いいよ」


 海賊がテーマになっているワンチャンピースが目に入る。


 小さい頃にテレビで放送されていた。


 何度か見て面白かった気がする。


 ワンチャンピースを勧めると、純は受け取って席に戻る。


 純が席に座ったことを確認して、百合漫画を探す。


 僕が見たことのない百合漫画があった。


 3人組の女子高校生が平穏な日常を過ごす話。


 2人の女子がボケ過ぎて、ツッコミが追い付かずにあたふたする女子の姿が可愛い。


「こうちゃんは何を読んでるの?」


 本屋に行くことがあったら買おうと思っていると、純が声をかけてきた。


「やや式だよ」


 本の表紙を純に見せながら答える。


「こうちゃんはこの漫画好き?」

「今日初めて読んだけど好きだよ」

「私も読むから貸して」

「いいよ」


 純は僕から漫画を受け取り、目を通してから聞いてくる。


「この本はこうちゃんの好きな百合漫画?」

「そうだよ」

「女子同士で……エッチなことをしてない百合漫画ある?」


 漫画の表紙に視線を向けたまま純が言う。


「あるよ。女子達がいちゃついているだけでそれは百合になるからね」

「いちゃついているって、具体的に何をしたらいい?」

「手を握ったり、抱き着いたり、膝枕をすることかな」

「……今度らぶちゃんにやってみる」


 ぜひお願いします、と口に出しそうになって引っ込める。


「無理しなくていいから。じゅんちゃんの気分が向いたらで」


 純は手に持っている漫画を本棚に戻す。


「……気が向いた」


 呟いた純はゆっくりと愛の後ろに行き、両手を広げて固まる。


 抱き着こうとしているけど、恥ずかしくてできないんだな。


「ごめん」


 項垂れながら純が戻ってきた。


「僕のために頑張ろうとしてくれてありがとう」

「……おう」


 純はワンチャンピースの2巻を手にして席に戻る。


 後を追いかけて席に座る。


 愛の方に視線を向けると、集中してペンを動かしている。


 僕も宿題をしないと。


 途中まで読んでいた小説を最後まで読み感想文を書いてから、古典漢文プリントを終わらせた。


 これで、夏休みの宿題は終わり。


「らぶちゃん、宿題どこまで進んだ?」

「……」


 話しかけると、愛は僕を一瞥してから自分のノートを見て固まる。


 愛のノートを覗く。


 そこには、裸の僕と男姿の純が乳繰り合っているイラストが描かれていた。


「こんなエッチなの描いてる場合じゃないよ! 勉強しないといけないのに! らぶはエッチだよ!」


 愛は立ち上がって叫ぶ。


「らぶちゃんがエッチじゃないって知ってるから、落ち着いて」

「らぶはエッチだよ!」

「らぶちゃん、僕と同じようにゆっくり息を吐いてハー、ゆっくりと息を吸ってスー」

「ハースー、ハースー、ハースー」

「僕は何も見てないから大丈夫だよ」

「エッチなイラストをこうちゃんに見られなくてよかったよ!」


 愛は椅子に座り直して、BLイラストを消し始める。


 純の方に視線を向ける。


 ワンチャンピースの4巻を、目を輝かせながら読んでいる。


 愛のイラストを純が見てなくてよかった。


 僕もワンチャンピースを読みたくなり、1巻を取りに行く。


 席に戻ると、愛がペンを持ったまま唸っている。


「分からない所がある?」

「あるけど、もう少しらぶ1人で頑張るよ! どうしても分からなかったらヒント教えて!」

「うん。いいよ」

「愛が寝てしまったらデコピンして起こして!」

「らぶちゃんを傷つけることは」

「頑張るよ!」


 愛は僕の返事を聞かず、勉強に集中し始める。


 数分後、力尽きたみたいに机の上に頭をのせて目を瞑る。


 愛の頼みだから無視することはできない……デコピンをするしかない?


 いや、デコピンできない理由があったらしたくてもいい。


 例えば爪が伸びていて、デコピンすると愛に怪我をさせてしまう……朝に爪を切ったことを忘れていた。


 絶望しつつ右手をデコピンの形にして、愛の額に持っていき……やっぱりできない。


 僕の額に向かってデコピンをする。


 地味に痛い。


 こんなことを絶対に愛にしたくない。


 平和的な方法で愛を起こす方法はないかと考える。


 前にくすぐって起こしていたな。


「こう、ちゃ、ん、くすぐっ、たい、よ」


 愛の脇腹に手を当てて軽く動かすと、体をビクンと跳ねさせて目を覚ます。


 それから愛が眠る度に擽り続けて、プリント1枚は最後まで書き終わる。

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