4章 幼馴染達に子どもができるなら女子で

98話目 プロローグ 幼馴染達の子ども?

 高1の春。


 僕は百合好きになった。


 百合なら何でもいいわけではない。


 大好きな幼馴染達の百合。


 きっかけは幼馴染の2人のキスを見たから。


 最初は頬に軽く触れる程度。


 それだけで、僕は幼馴染達の百合に夢中になる。


 気を抜けば、幼馴染達でエッチなことをすることを強制しそうになるぐらいに。


 色々と対策を打って、我慢することはできていた。


 幼馴染達が口と口で……キスをするまでは。


 我慢の限界がきて……。


 僕は幼馴染達と距離を置く。


 その所為で、幼馴染達が喧嘩をするなんて思いもしなかった。


 屋上で喧嘩していた幼馴染達は急に、百合好き以外の僕の秘密を叫び始める。


 恥ずかしさのあまり感覚が麻痺する。


 それ以上に幼馴染達が僕のことをよく見てくれていることが伝わり、愛されていることを実感。


 テンションが上がった僕は幼馴染達のキスとエッチなことをする所を見たいと、学校中に響くぐらいの声で叫ぶ。


 その結果、百合好きなことを幼馴染達は認めてくれた。


 物心がつく前から一緒にいた2人をもっと信じるべきだったと反省した。


 それから1年が経って、高校2度目の春。


「……恥じらいながらでも求め合う愛と純のキスを見てぇ」


 思わず呟いてしまうぐらいに、欲求不満になっている。


 何度か幼馴染達は百合的なことをしてくれると言ってくれた。


 好意に甘えようとしたけど、言葉にできない。


 行き過ぎたことを言って、嫌われる可能性があるから。


 それに、愛情のない百合なんて百合じゃない。


 幼馴染が互いを好きになるように行動しているけど、全く上手くいってないんだよな。


「じゅんちゃん! じゅんちゃん! らぶ大きくなったよ!」


 庭で洗濯ものを干していると、リビングの方から元気な女子の声が聞こえてくる。


「胸が少しだけ大きくなったんだよ! 見て! 見て!」

「……おう」

「じゅんちゃん! 目を逸らしたら分からないよ! もっとらぶの胸を見て!」

「……おう」

「らぶはうっかりしてたよ! 服の上からじゃ分からないよね!」

「らぶちゃんの胸が大きくなったことは分かったから、服を脱がなくていい!」

「分かった! じゅんちゃんの胸は大きくなったの?」

「…………少しだけ」

「前からじゅんちゃんの大きかったのに、もっと大きくなったんだね!」

「…………おう」


 今の幼馴染達の状況を、音声だけではなくてこの目で見たい。


 早足で玄関に向かいリビングのドアを開ける。


 白のワンピースを着た身長が低くて幼い顔をしている愛と、ジャージを着た身長が高くて大人びた純が隣同士でソファに座っている。


 イチャイチャタイムが終わっているだと⁉


 アンコール! アンコール! アンコール!


「こうちゃん! 固まってどうしたの?」


 愛は短めぱっつん前髪を揺らしながら僕の前にくる。


「昼食、何か食べたいものある?」


 本音を口にする勇気がないから、話題を逸らす。


「お肉かチゲが食べたい!」

「冷蔵庫の中に鶏肉があったから、チキンステーキを作るね」

「食べる! らぶステーキ大好き!」


 10時前。


 昼食を作るのは少し早いな。


「もう少ししてからでいい?」

「うん! いいよ!」


 愛が純と1人分の間を空けて座わったから、そこに座る。


 呆然とテレビを見る。


 2,3歳ぐらいの女の子が満面の笑みでヨーグルトを食べるCMが流れる。


「可愛いよ! らぶも子どもがほしいよ!」


 愛はテレビを指差す。


「こうちゃんは子どもほしい?」


 今まで考えたことがない。


 もし、僕に子どもができたら……。


 女の子だったら、反抗期になって酷い扱いをされても笑顔で許せる自信がある。


 男の子だったら毎日のように喧嘩しそう。


 そもそも、結婚することが想像できない。


 何年経っても、幼馴染達と一緒に過ごしていそう。


「じゅんちゃんは子どもほしい?」

「ほしくない」


 愛の質問に純は迷うことなく答える。


「どうしてほしくないの? 子どもって可愛いよ!」

「可愛いけど、接し方が分からない」

「お姉さんのらぶがじゅんちゃんに子どもとの関わり方を教えてあげるよ! こうちゃん立って!」


 愛に言われた通りに立ち上がる。


「今からこうちゃんはらぶとじゅんちゃんの子どもだよ! らぶがパパでじゅんちゃんがママだよ! らぶのことをパパって呼んで!」


 幼馴染で妹のように思っている愛をパパと呼ぶのは恥ずかしい。


 でも、愛と純が夫婦役をするなら、そんなことどうでもよくなる。


「分かったよ。パパ」

「こうちゃんじゃなくて、こうは本当に可愛いよ!」


 立ち上がった愛は爪先立ちをして、僕の頭を撫でようとする。


 全く届いていないから、少ししゃがむ。


「よしよし! こうはいい子だね!」

「ありがとう、パパ」

「こんな感じでやればいいんだよ! じゅんちゃんもやってみて!」


 愛は僕を撫で続けたまま、純の方に顔を向ける。


「おう。やってみる」


 純がおずおずと僕の頭に手をのせて、ゆっくりと撫でる。


「……こうちゃんは、いい子……いい子」


 撫でることに慣れていない純の撫で方はぎこちなかったけど、気持ちいい。


「らぶちゃん、こんな感じでいい?」

「じゅんちゃん! らぶは今パパだから、パパって呼んで!」

「おう。……パパこんな感じでいい?」

「うん! いいよ! 完璧だよ! こうちゃん! 子ども役してくれてありがとう! じゅんちゃん! 子どもほしくなった?」


 愛と純の夫婦役はどうやら終わったみたいだな……残念。


「こうちゃんだから私のことを怖がらない。本当の子どもだったら絶対私のことを怖がる」

「大丈夫だよ! 親のことを怖がる子どもはいないよ!」

「おう。でも、私にはこうちゃんとらぶちゃんがいるから、子どもはいらない」

「じゅんちゃんがそう言ってくれるのは嬉しいけど、らぶもじゅんちゃんもいつかお嫁に行くんだよ!」


 ぐはっ!


「こうちゃんどうしたの⁉ 口から血が出てるよ‼ 今すぐ病院行くよ‼」

「らぶちゃん、大丈夫だから落ち着いて。少し……かなり……今すぐ死にたくなっただけだから」

「死にたくなったってどこか痛むの‼ どこが痛むの⁉」


 ソファの上に立った愛は両手で僕の肩を摑んで左右に揺らす。


「らぶちゃん、落ち着いて。こうちゃんは大丈夫だから」


 純に手を握られた愛の動きが止まる。


「本当にこうちゃん大丈夫?」

「じゅんちゃんの言う通り大丈夫だよ。そろそろお昼だからチキンステーキ作るね」

「やったー! チキンステーキ! らぶもお手伝いする!」

「すぐにできるから、らぶちゃんは座ってて」


 立ち上がってキッチンに向かう。


 料理を作り始める。


 ……愛達がいずれお嫁に行くか。


 死にたくなるから、他のことを考えよう。


 愛が親のことを怖がる子どもはいないと言った時、純は迷うことなく肯定した。


 純は純の父を無視しているけど、嫌っていないのかもしれない。


 2人とも不器用な所が多い。


 純の母がなくなって、どう接したらいいか分からないだけなのだろう。


 このまま親子がすれ違うのを見たくない。


 純の母のように、2人の緩和剤のような役割を果たしたい。


 でも、下手なことをして純に嫌われたくない臆病な気持ちがあって動けずにいる。


 純も子どもができたら、親の気持ちを理解して純の父に歩み寄るかも。


 ……純と愛の子ども。


 スマホで調べても、女子同士で子どもを作る現実的な方法は出てこない。

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