97話目 エピローグ 小さな幼馴染はやっぱり可愛い

 音色とのイラスト勝負が終わった次の日の土曜の昼前。


 愛、純、恋には自宅にきてもらっている。


 今回愛のために何もすることができなかったから、頑張った愛、純、恋にせめて手の込んだ料理を食べてもらうため。


 キッチンに立っていると純が手伝いと言ってきたけど、今日は1人で作りたいと言って断る。


「れんちゃん! ソファに一緒に座ろう!」

「いいけど、あたしの上じゃなくて隣に座って」

「らぶはれんちゃんの上に座りたいの! 駄目かな?」

「……いいよ」

「ありがとう! らぶはれんちゃん大好きだよ! れんちゃんはらぶのこと好き?」

「あたしもらぶちゃんのこと好きだよ」


 2人の会話を聞きながら、昨日のことを思い出す。


 音色が帰ってしばらく経っても、愛は恋から離れようとしない。


 純の殺気が恋に向けられていること知って無理矢理引き剥がそうとしたけど、愛は意地でも離れない。


「らぶちゃん、今からあたしと一緒に絵を描こう!」

「らぶが音色に勝ったから、れんちゃんは絵を描かなくてもいいよ!」

「そうだね。らぶちゃんのおかげで絵を描かなくてもよくなったけど、あたしは昔のようにらぶちゃんの隣に座って絵を描きたいんだけど駄目かな?」

「駄目だよ! れんちゃんが絵を描いたら、またらぶから離れていくから、絶対に駄目だよ!」


 困ったような顔で恋が僕を見る。


 恋が絵を描けるようになった方が、愛と恋の蟠りがなくなると思い口を開く。


「らぶちゃん、今から恋さんと絵で勝負をしよう」

「勝負! ……れんちゃんは絵を描かないから駄目だよ」

「らぶちゃんが勝負しないんだったら僕が恋さんと勝負するよ。恋さんいいよね?」


 目配せすると頷く恋。


「じゅんちゃんも一緒にしよう」

「おう。する」


 4人掛けの机の椅子に僕が座ると、純は僕の隣に座って、愛は対面に座る。


 絵を描き始める前に、恋に訊いておこう。


「明日恋さんは暇かな?」

「暇だよ! 暇じゃなくても暇にするから大丈夫!」

「らぶちゃんと音色の勝負が終わって落ち着いたから、少し手の込んだ料理を作ろうと思ったから食べにこない?」

「行く! 絶対行くよ!」


 恋は机に手をついて、前屈みになる。


「らぶちゃんとじゅんちゃんも大丈夫だよね?」

「……」

「おう」


 むくれたのか愛は返事することなく純の声だけが聞こえた。


「この勝負で勝った人が明日の料理のレシピを決めれるってどうかな?」

「おう」

「あたしもそれでいいよ」

「らぶちゃん。今から絵の勝負始めるけど本当に参加しなくていいの? らぶちゃんが勝ったら、前にらぶちゃんが美味しいって言っていたローストビーフを作るよ」

「ごくり」

「それに高いお肉を買う予定だからいつもより柔らかくて少し噛んだだけでも肉汁が口の中に広がるよ」

「グ―――――――――――――――――――――――――」


 愛のお腹から盛大な音が鳴って、おずおずと恋の隣に座る。


「らぶは勝負をしたいだけで、ローフトビーフが食べたいんじゃないから!」


 そう言いながら絵を描き始めた愛を恋は見て微笑む。


「こうちゃん、やっぱり手伝っていい?」


 純に声をかけられ料理の方に視線を向けると、いつの間にか完成していた。


 無意識で作っていたみたい。


 料理を純と一緒に机に運ぶ。


 机に料理を並べ終え、そのことを知らせるとソファに座っていた恋が机に向かって早足。


 人数分の箸を運んでいた純も凄い勢いでこちらに向かってくる。


 僕がいつも座っている隣の椅子に恋が手をかけて座ろうとしたけど、純が恋の腰を摑んで持ち上げる。


「小泉さん、下ろして」

「こうちゃんの隣は私が座る」

「小泉さんはいつも百合中君の隣に座っているから、今日ぐらいあたしに座らせてください」

「こうちゃんの隣は私の指定席だから嫌」


 純は後ろを振り向いて恋を下ろして座ろうとしたけど、恋に足を摑まれ引っ張られて座ることができない。


「じゅんちゃんとれんちゃん喧嘩したら駄目だよ! じゅんちゃんとれんちゃんが仲良くなれるように、らぶがこうちゃんの隣に座るよ! こうすれば解決だね!」


 とことこと歩いてきた愛が僕の隣に座る。


 純と恋は見つめ合って口を開き、何も言わずに溜息をする。


 2人は隣同士に座る。


 食事が始まってから数分経つけど、誰1人喋らない。


 でも、空気が悪いわけではない。


 なぜなら、僕達がローストビーフを無我夢中で食べる愛に親が子どもを見守るような視線を向けているから。


「みんな食べないの? こうちゃんが作ったローフトビーフ美味しいよ! 早くしないとらぶが全部食べるよ!」


 口に食べかすとソースをつけた愛が無邪気な笑顔を浮かべながらそう言ったから、僕達は食べ始める。

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