90話目 イラスト勝負4日目①
ピクシンで初めて昨日投稿した愛のイラストの評価を見る。
閲覧数と素晴らしい数が結構ついている。
これからの頑張り次第では追いつけそう。
愛を今まで以上に応援しないといけないな。
登校して教室に入り恋の姿を探すと、自分の席に座って本を読んでいる。
「おはよう。恋さんちょっと話したいことがあるから、きてもらっていいかな?」
「百合中くん、おはよう。いいよ。恋、いってらっしゃい」
近くにいた茶髪女子が答える。
茶髪女子は戸惑う恋を立ち上がらせ、僕達の背中を押して廊下に出した。
「あたしの友達がごめんね」
「恋さんが謝ることではないし、恋さんと2人きりで話をしたかったから丁度いいよ。人が少ない所に移動していい?」
少し固まってから、「……うん」と言う恋。
屋上に行くと誰もいなかったけど、一応周りを見渡して確認。
誰もいないな。
「恋さん僕」
「百合中くん。ちょっと待ってもらっていい。心の準備をするから」
「いいよ」
恋は眼鏡をのけて、それをポケットにいれて深呼吸をする。
「……もう大丈夫だから、続きを言ってもらっていい?」
「僕にイラストの描き方を教えてほしい」
「うん。あたしも百合中くんのことがす……え?」
「僕のことがどうしたの?」
「…………なんでもない」
落胆しているのが一目で分かって何でもないように見えないけど、恋本人がなんでもないと言っているから触れない。
「百合中君の頼みだったら聞きたいけど、あたし絵を描くことができないよ。本当にごめんね」
「恋さんは悪くないから謝らなくていいよ。教室に戻ろう」
屋上を出て行こうとしたら、引っ張られる感覚がしたから後ろを振り向く。
「何で百合中君は絵を描きたいの?」
「らぶちゃんの力になりたいって言うか、今らぶちゃんは無理をしていて倒れそうだから少しでも休ませてあげたいんだよね」
今日の朝登校している時に、愛はふらふらと歩いて前から来る車に気づかずに轢かれそうになって冷や冷やした。
このままでは大怪我してしまう可能性がある。
無理矢理でも睡眠時間を取らしたいけど嫌がるだろう。
音色の1番評価の低い作品にも1桁の差があるから、愛は気を張っているからしょうがない。
「百合中君はらぶちゃんが倒れたら悲しい?」
「うん。悲しいよ」
当たり前の質問に僕は頷く。
「……もし、あたしが倒れたら悲しい?」
「友達が倒れたら悲しいよ」
「………友達」
暗い表情をして恋は俯きながら呟く。
「嫌だった?」
「ううん。全然嫌じゃないよ。百合中君に友達って言われて嬉しいよ」
顔を上げた恋は引きつった笑顔を浮かべながら言う。
「あたしでよかったら絵の描き方教えようか?」
「すごく助かるよ。ありがとう。次の休み時間にでも教えてもらっていいかな?」
愛は口を開こうとして閉じる。
チャイムが鳴ってからも愛は動こうとしない。
待ち続けようと思っていると、愛は口を開く。
「これから、絵のことを教えていいかな?」
真面目な性格の恋からの意外な提案に少し驚きつつお願いした。
「どこで描こうか? 静にしていたら、屋上に誰もこないと思うけど描く道具がないよ」
「そうだね。授業が始まっているから、教室に戻ることもできないから……やっぱり次の休み時間にしようか? 百合中君に授業を休ませるのはよくないから」
「授業1つぐらい休んでも気にしないよ。漫研部の部室に行くのはどうかな?」
「……密室で百合中君と2人っきり」
「恋さん何て言ったの? 声が小さくて聞こえなかったよ」
「何でもないよ。本当に何でもないから。漫研部の部室ならペンも紙もあるからそれでいいよ。早く行こう」
早足で屋上を出て行く恋について行く。
漫研部の部室は施錠されている。
屋上に戻っても意味がないし、教室にペンと紙を取りに行くこともできない。
空き教室なら、紙とペンが置かれているかも。
ここでいたら先生に見つかるから、早く移動しないと。
ガチャと音がしたドアの方を見ると恋が漫研部の扉を開けていた。
「らぶちゃんと漫研部の人達が自由に使っていいよって鍵を渡してくれたよ」
心の中で愛に感謝しながら、部屋の中に入る。
ペンと紙を借りて恋と隣同士に座る。
「百合中君、女子の顔を描いてもらっていいかな?」
恋の言う通り愛と純の似顔絵を描くと、線がぐにゃぐにゃでバランスも悪い。
「この絵を直してもいいかな?」
「お願いするよ」
愛以上の早いペンさばきで、何か分からない僕の絵が可愛い女子の絵になる。
愛と純には似てないけど上手い。
「あたしの絵と百合中君の絵はどこが違うと思う?」
紙を持ち上げて凝視する。
「僕の絵は目の大きさが左右に揃っていないのと、線が汚い」
「線を綺麗にするのは描き慣れるしかないと思うからたくさん描くとして、顔のパーツの位置と大きさを覚えていこう」
輪郭から描けば全体のバランスが取れやすくなり、顔の真ん中に十字を描くことで目の位置と大きさを調整できる。
恋に助言を受けてある程度時間が経って見違えるほど絵が上達したけど、鼻と口が上手く描けない。
「……実際に触ってみたら描けるようになるかも」
恋が顔を近づけながら言ってきた。
愛と純以外の女子の顔を触るのは気恥ずかしくて躊躇する……愛のためなら。
ゆっくりと恋の鼻を触ってから口を触ろうとしていると、恋は目を瞑る。
僕の手が薄いピンク色をした恋の唇に触れそうになった瞬間。
「休み時間もたくさん描くよ!」
愛が部屋に入ってくる。
恋は椅子から倒れそうになったから支える。
「こうちゃんとれんちゃんはここで何してるの?」
「恋さんに」
「なんでもないから、らぶちゃんは気にしなくていいよ」
恋は思いっきり僕の手を引っ張って話に割り込んでくる。
「百合中君、絵を教えていたことは秘密にしてほしい」
耳元で恋がそう言う。
従わないと教えてもらえないかもしれないから、僕も愛になんでもないと答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます