89話目 イラスト勝負3日目②
睡眠不足で授業中に何度眠りそうになる。
どうにか我慢していると……いつの間にか放課後になっていた。
スマホを取り出してランイで剣に今日部活を休むと打とうとして思い出す。
しばらく休むと伝えているから、知らせなくてもいいかと考えていると剣からランイがくる。
『少しでも時間が空いたら、部活にきてほしいです』
剣からくるのは珍しいな。
『さっきの送ったのも違う人と間違って送ってしまいました。ごめんなさい。気にしないでください』
また、剣からランイがくる。
家庭科部の部員は剣と僕しかいないから、間違って送ったというのは嘘だろう。
剣が嘘を吐いた理由は分からないけど、部活にきてほしいって言われたのはなんとなく嬉しい。
「部活休み過ぎてごめん。用事が終わったら部活に行くよ」
『楽しみにしてます』
数秒もかからずに返信がきた。
教室を出ると、スマホを見ている愛が僕の方に近づいてくる。
「らぶちゃん、歩きスマホは危ないよ」
「あれ? じゅんちゃんの教室に向かっていたのに、何でこうちゃんの教室の前にらぶはいるの?」
イラストのことばかりを考えて集中力が切れた愛はいつも以上に、目を離すことができない。
「じゅんちゃんを迎えに行くよ!」
「らぶちゃん、じゅんちゃんの教室はこっちだよ」
逆方向に歩き始める愛の手を握って、純のクラスに行く。
教室に入ると窓際の方で人だかりができていて、その中心に純がいた。
近づくと男子の表示されたランイQRコードを純はスマホで読み込んでいる。
「じゅんちゃん! 何してるの?」
「王子様がクラスメイト全員にランイを交換してほしいと頼んだので今交換中ですの。わたくしは違うクラスですけど、王子様にランイ交換してもらいましたわ」
愛が話しかけると、純の隣にいた鳳凰院が僕達の所にきて笑顔で答える。
最近まで僕と愛以外と仲良くしようとしていなかった。
純が鳳凰院という友達が出きて考えが変わったのかもしれない。
……交換している相手に男子がいるのが不満はある。
前向きに人付き合いをしようとする純の邪魔をしたくないから、本音は口にしない。
周りにいた生徒と純はランイ交換が終わって、家に帰ることにした。
僕達が靴箱で靴を変えていると、たれ目女子がきて愛を見る。
「神絵師様、今日は部活にきますか?」
「ごめんね! やらないといけないことがあるから少しの間部活にいけないよ!」
「大丈夫ですよ。神絵師様は今困っていますか?」
「困ってない……少しだけほんの少しだけ困っているよ!」
「よかったら、協力させてほしいです」
「らぶと音色の勝負だから、大丈夫だよ!」
「そうですか。行き過ぎたことを言ってすいません」
肩を落として去ろうとするたれ目女子に話しかける。
「らぶちゃんのイラストに助言もらっていいかな?」
「こうちゃん! らぶと音色の勝負だから他の人に協力してもらったら駄目だよ!」
「音色は誰かに協力してもらうのは駄目だとは言ってないよ」
「言ってないけど駄目だよ」
「らぶちゃんは恋さんのためにどうしても音色に勝ちたいんだよね? だったら、頼れる人には頼った方がいいよ」
「こうちゃんの言う通りだよ! らぶは絶対に負けられないから協力してもらうよ!
よろしくね!」
「神絵師様からそんなもったいない言葉を頂けるなんてありがとき幸せ」
愛はたれ目女子の手を摑んで軽く振ると、たれ目女子は微笑みながら涙ぐむ。
「いつでも神絵師様の力になれるように、漫研部全員、漫研部の部室にいるので行きましょう」
たれ目女子が先頭を切って歩き始めたので、僕達は後ろをついていく。
部室に入って、音色に勝つための作戦会議をしようとしたけど。
「これが夢までにも見た幸×純ですか! ここは天国ですか! わたしはいつの間に死んだんですか!」
「しっかりしないさい! 正気を保たないとBLという天国から帰ってこれなくなるわよ……尊い、尊過ぎて涙で前が見えないです! 幸×純が生で見られるなんて幸せ過ぎて死にそうです!」
「死んだら駄目! 天国にも地獄にもこんなに素晴らしい光景なんてないんだから!」
僕と純を見て発狂する5人の漫研部がうるさくて話し合いができない。
というか、たれ目女子はさっきまで普通なのにどうして残りの4人と一緒に発狂しているのか分からない。
「らぶは音色にイラスト勝負で絶対に負けられない!」
愛の一言で、喋っていた漫研部達は黙って、愛の方に視線を向ける。
「みんなに協力してもらっていい?」
「神絵師様が困っているなら、どんなことでも協力しますよ!」
たれ目女子が愛の言葉に答えた後、漫研部達は愛を囲んで土下座する。
「なんなりとなんなりと命令してください」
「こうちゃんとじゅんちゃんが見てるから、土下座はしなくていいよ! 恥ずかしいから早く立ち上がってよ!」
「神絵師様に恥をかかせて申し訳ございません」
さっきより深々と漫研部達は土下座をして、愛は「早く立って!」と何度も大声を上げる。
少しして、愛と漫研部達が落ち着いたから、椅子に座って話し合う。
座る位置は僕と純が隣同士に座って、愛と漫研部達は対面に座る。
漫研部達に促されてこの席順。
ニヤニヤとしながら熱っぽい視線を向けてくる漫研部達の視線は無視することにしよう。
「このイラストをピクシンに上げようと思うけど、どうかな?」
朝見た、僕の顔に女性の体のイラストを愛は全員に見せる。
「「「「「…………」」」」」
神様扱いをしている漫研部達もそのイラストを見て褒めることなく黙る。
「らぶは上手く描けていると思うだけど、直したらいい所とかあるかな?」
「…………ないで…………神様に嘘を吐きたくないので、本当のことを言います。幸さんの顔と女性の体をそのまま合わせるのは…………バランスが、悪いと、思い、ま、す」
最後泣いていたが自分の素直気持ちを言い切ったたれ目女子に思わず拍手をし、漫研部女子達もそれに続く。
「泣かなくて大丈夫だよ。音色に勝つことばかり考えて、らぶは自分の絵に向き合えてなかったよ! ありがとう!」
愛はたれ目女子の頭を撫でる。
「みんなが思う可愛い女子ってどんなの?」
「神絵師様が世界一可愛いと思います」
泣き止んだたれ目女子が愛に答えた。
「らぶは大人の魅力を持っているお姉さんだから可愛くないよ!」
「大人の女性でも可愛い人はたくさんいますよ」
たれ目女子は鞄から女性誌を持ってきて、開いて愛に見せる。
そのページには『大人だからこそ、可愛くならないと』とでかでかと書かれた文字と、20代から30代の女性が淡いピンク色のフリルのたくさんついた服を着ている写真が載っている。
「本当だ! 大人なのに可愛い!」
愛は目を輝かせながら雑誌を見る。
席を立って出入口の方に行き腰を捻じって顔だけをこちらに見せて、右手は頭、左手はお尻辺りに置く愛。
「らぶはセクシーで可愛く見えるかな?」
子どもがお尻を叩いて挑発しているように見える。
こんな子どもばかりいる保育園だったら、保育士になりたい。
「可愛く見えます。神絵師様は自分を描くのが1番いいと思います」
「「「「そう思います」」」」
たれ目女子の言葉に全員が頷く。
「分かった! そうするよ!」
椅子に座った愛はペンを持って描こうとして止まる。
「らぶの顔ってどんなだっけ?」
たれ目女子は鞄から鏡を取ってきて、愛の方に向ける。
「使ってください」
「ありがとう! これでらぶはらぶを描けるよ!」
ペンを走らせて数分後、愛の体に僕の顔がついているイラストが完成。
「こうちゃんの顔しか描けないよ!」
両手を上げてじたばたさせる愛は悔しそうに声を出した。
今までに描いたイラストの全てが僕と純の顔だったことを考えると、愛はそれしか描けない。
いや、そういう思い込みをしている……と思いたい。
「漫研部の誰かがらぶちゃんの手を握って、一緒に描くのはどうかな?」
「やりたいです!」
「神様の手に触れるなんてもう2度とないかもしれないので、わたしにやらせてください!」
「私も! 私も!」
勢いよく立ち上がった漫研部達は僕に詰め寄ってくる。
「らぶちゃんは誰にしてもらいたい?」
愛はたれ目女子に手を差し出す。
「お願いしするよ!」
「有難き幸せ。……神絵師様の手……触りますね?」
「いいよ!」
たれ目女子は後ろから愛の右手をおずおずと握り動かし始める。
「神様の手が小さくて柔らかくて冷たいです。暖房で温まった今の状態で触るとひんやりして気持ちいいです」
「擽ったいよ!」
愛の手を離して後退るたれ目女子。
「申し訳ございません! 本当に申し訳ございません!」
「謝らなくていいよ! らぶは気にしないからいくらでも触っていいよ!」
「ありがとうございます!」
たれ目女子は両手で愛の手を触り出す。
2人の百合に癒されていたけど、純の鋭い視線に気づく。
「どんなイラストができるか楽しみだな。もう少しでできそう?」
純がたれ目女子に嫉妬しているから、描くことを急かす。
動いていたペンは数分後に止まる。
完成した絵は愛に天使のような翼が生えていて、神々しさがありつつ愛の可愛さを残せている。
「この絵は使えないね!」
「……そうですね。……力に慣れなくてすいません」
「いいよ! もう1回、一緒に描いてもらっていいかな?」
「はい。神絵師様が望むなら何度でも描きますよ」
この絵だったら音色に勝てると思うけど。
邪魔はしたくないから、後から理由を聞くことにしよう。
それから、2人は下校時間になるまで描き続けて納得できるイラストが完成。
愛に翼が生えているのは最初の1枚と同じで、それが漫画やアニメよりの絵柄になっている。
ピクシンにリアルよりの絵がほとんどなかったから、最初の1枚が駄目だったんだな。
「凄くいい絵が描けたよ! 本当にありがとう!」
愛はたれ目女子にお礼を言ってから勢いよく部屋を出る。
僕は後を追いかける。
靴箱で愛と合流して校門を出た所で、純がいないことに気づく。
ランイしようとスマホを取り出していると、僕達の方に向かって純は走ってきた。
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