88話目 イラスト勝負3日目①
「幸君今ちょっといいかしら?」
琴絵さんの声が聞こえて目を開ける。
部屋が暗いな。
「どうしたんですか?」
近くに置いていたリモコンで電気をつける。
「最近らぶちゃんが部屋から出てこないの。それに家の手伝いも自分からしていたのに、しなくなっているし。なにより、ママやパパを見るとそわそわしているの。何か隠し事をしているのだと思うけど、こうちゃん知らないかしら?」
イラストをピクシブに1枚も上げられていない愛は焦って、ずっとイラストを描いている。
BLのエッチなイラストを描いているから、親である琴絵さんと利一さんに隠れて描いているんだな。
外を見ると真っ暗で、枕元に置いているスマホを見ると5時前。
琴絵さんはたまに暴走することはあっても常識はある。
平日の朝早くから僕の部屋にきたのは、凄く愛のことを心配しているから。
でも、事情を勝手に話すと愛が嫌がるのが目に見えている。
「分からないです」
「幸君が知らないってことは余程のことよね」
「そんなことないと思いますよ。らぶちゃんも高校生だから隠し事の1つや2つあると思いますよ」
「直接らぶちゃんに聞くしかないわね」
琴絵さんは部屋を出て行く。
心配になったので後を追う。
矢追家に入った琴絵さんは階段を上り、ノックをせずに愛の部屋のドアを開ける。
「らぶちゃん、ママに内緒で何しているの?」
琴絵さんは電気をつける。
部屋中にBLの本が散らばっていて、その上で愛が寝ている。
琴絵さんは愛の顔の上に乗っているBL本を手にして読み始める。
数分してBL本を床にそっと置く。
「親に隠れてエッチな本を見る。これが思春期なのね。らぶちゃんも大人になったわね」
琴絵さんは子どもの成長を見守る母親の顔で愛を見ている。
「幸君もこういう本読むの?」
BL本を指さしながら琴絵さんが聞いてくる。
「男同士のは読まないですね」
「そうよね。幸君は女の子同士がエッチなことをしているのが好きよね」
愛が前に寝言で僕が百合を好きだと口にしたから、琴絵さんは僕が百合を好きだと知っている。
頷きにくいから苦笑いした。
「そろそろ部屋を出ましょうか」
愛が起きたら、琴絵さんにBL本を見られたことにショックを受ける。
琴絵さんを外に出るように促す。
「もうちょっとだけ、娘の性癖を知りたいから読んだら駄目かしら?」
「駄目です」
「なら、幸君の性癖を詳しく聞くことにするわ」
愛のためならしょうがない。
「いいですよ。だから、下にいきましょう」
「分かったわ。1度息子のように思っている幸君と赤裸々な話をしたいと思ってたから嬉しいわ」
部屋を出て行こうとしていると、愛が起きて僕達に視線を向ける。
「な、何でママがらぶの部屋にいるの!」
「最近らぶちゃんの様子がおかしかったから様子を見にきたのよ」
「らぶはおかしくもないし……エッチでもないよ!」
「そうよ、らぶちゃん。高校生になったらみんな読むものだから安心していいわ。でも、男同士でするのを見るのは刺激が強いからまだらぶちゃんには早いとママは思うわ」
顔を真っ赤にしてプルプルと震える愛。
「だから、今度一緒にママと男女でしているエッチな本を買いに行きましょう。今からでもいいわよ」
「出て行ってよ‼」
愛は背中を押して琴絵さんを部屋の外に出す。
何も悪いことしていないのに、愛と2人きりになって気まずさを感じる。
「こうちゃんこれ見て!」
「……」
1枚の紙を見せてくる。
そこには顔は僕だけど体は女性で……気持ち悪い。
「可愛く見えるかな? 今までにないぐらいに上手く描けたとらぶは思ってるだけど!」
「……」
自信満々に小さな胸を突き出す愛に何も言えない。
「じゅんちゃんにも見せてくるね!」
愛は小走りで部屋を出て行く。
純に気持ち悪い僕の姿を見られたくない。
急いで愛を追いかけて玄関の所にいた愛の手を摑む。
「らぶちゃんそのイラストは見せない方がいいよ」
「上手に描けたのに何で見せない方がいいの?」
「……」
説得する言葉が出てこない。
琴絵さんがやってきた。
「玄関で2人は何しているの?」
「ママ! これ見て!」
愛は琴絵さんにイラストを見せる。
「何でこうちゃんにおっぱいが生えているの?」
「違うよ! これは可愛い女の子だよ!」
「こうちゃんにおっぱいが生えているようにしか見えないわよ」
「違うよ! 可愛い女の子だよ! そうだよね、こうちゃん?」
「……うん。……可愛い女の子だと思うよ」
愛から目を逸らす。
「こうちゃんだって、可愛い女の子って言ってるよ! ママは見る目がないだけだよ。じゅんちゃんに見せてくるね!」
愛は大声を出した後、玄関を出て行く。
「らぶちゃん、待って!」
追いかけようとしたけど、琴絵さんに手を摑まれる。
「幸君は今からママと赤裸々トークするんでしょう」
「後からするので、ちょっと待ってください」
「駄目よ。話を聞くのが楽しみ過ぎて熱いお茶をもう入れているの。冷めないうちに始めるわよ」
「少しだけでいいから、少しだけでいいから待ってください!」
願いは叶うことなく、琴絵さんはリビングへと僕を引き摺る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます