86話目 イラスト勝負2日目①

 朝、ベッドの上で昨日ダウンロードしたピクシンのアプリを立ち上げる。


 揺り百合と検索すると、音色のアカウントが出てくる。


 ピクシンに音色のファンが結構いるから、勝負を公平にするために音色は別のアカウントを作った。


 金髪ロングヘアで目つきの悪い女子が黒髪短髪でたれ目の女子に服を脱がされているイラストが昨日に上がっている。


 すぐに素晴らしいボタンを押しそうになる。


 敵に塩を送りそうになったことを反省しつつ、音色のイラストを観察。


 どこが上手いのか具体的に言えないけど、もっと見たいと思わせる何かが音色のイラストにはある。


 閲覧数が80000、素晴らしい数が2120。


 同じ時間に上がった他の作品と見比べて見ると、音色の作品の評価はとびぬけている。


 愛のイラストは昨日も描くことができていない。


 いや、できているけどBLイラストしか描くことしかできないから、ピクシンに上げてない。


 僕もイラストを描けるようになったら、愛にアドバイスできるかもしれない。


 ベッドから下りて、新品のノートとボールペンを取り出して勉強机に座る。


 ノートを開いて、愛と純が手を繋いでいる所を描く。


 上手いとも下手とも言えないイラストが完成。


 誰かに感想を聞いたら困った顔をされるな。


 スマホで上手に描ける方法を検索しても、微妙なイラストしか描けない。


 モデルがいいのに、こんなイラストしか描けないのは僕には絵を描く才能がない。


 諦めて、リビングに向かう。


 部屋に入ると、机の上に頭をのせて眠っている愛がいた。


 周りには数10枚の紙が落ちていて、全ての紙にびっしりとBLイラストが描かれている。


 散らばっている紙を拾っていると、愛が目を覚ます。


「こうちゃん! おはよう!」

「おはよう、らぶちゃん」


 愛はとことこと僕の前にくる。


「こうちゃんって、女の子が出てくる漫画持ってる?」

「僕はアプリでしか漫画を見ないから持ってないよ。ごめんね」

「らぶもこうちゃんが見ているアプリで漫画を見たい!」


 いつも見ている音色の漫画は少しエッチなだから見せたくないけど……愛のお願いを断れるわけがない。


 スマホを部屋に取りに行き、音色の漫画を表示して愛に渡す。


「……エッチ……」


 愛はすぐにスマホを返してきた。


 音色の漫画はディープキスをしたり、胸を鷲掴みにしたり、足を舐めさせたりと結構ぎりぎりな所を攻めているから愛の反応は当然。


 真面目な顔をした愛は椅子に座り、描き始めて数分経つ。


「こうちゃんどうかな?」


 僕の足を涎まみれにしながら舐める男子姿の純のイラストを見せてきた。


「すごく上手いと思うけど、このイラストの僕とじゅんちゃんを女子にすることはできない?」

「やってみるよ!」


 それから僕の足を舐める純のイラストが量産されるけど、女子を1人も描くことができない。


 しばらくして、純が部屋に入ってくる。


 純は愛の方を少し呆然見てから話しかける。


「私に手伝えることはある?」

「じゅんちゃん、ありがとう! らぶはまだまだ頑張れるから大丈夫だよ!」

「おう」


 純はソファに座って、イヤホンで音楽を聴きながら愛に視線を向け続ける。


 愛のイラストを見ていて、思いついたことがある。


「らぶちゃんのイラストに出てくるキャラは僕とじゅんちゃんの顔にそっくりだよね?」

「うん! こうちゃんとじゅんちゃんが大好きだから、こうちゃんとじゅんちゃんの顔を描いてるよ!」

「僕もらぶちゃんのこと大好きだよ。顔だけじゃなくてじゅんちゃんの体をそのまま描けることはできない?」

「こうちゃんすごいよ! それならできる気がしてきたよ!」


 椅子の上に立ち興奮気味に叫ぶ愛。


「じゅんちゃん! 絵のモデルになってほしいよ!」


 純はイヤホンを外しながら、「おう」と答える。


 それから、ソファに座っている純を愛は模写し始めたのだがどうしても男の体になってしまう。


「服の上からだと分からないから描けないのかな」

「それだよ! じゅんちゃん今すぐ服を脱いで!」


 なんとなく呟くと、愛は笑顔で大きく頷いた。


「裸になるのはエッチなだからブラジャーまで脱いでほしいよ!」

「……」


 近づいてくる愛に小さく首を左右に振りながら小刻みに震える純。


「水着になるのはどうかな?」


 提案すると、愛は純の手を摑み引っ張って部屋を出る。


 玄関の扉の開閉する音が聞こえたから、純の家に純の水着を取り行ったんだな。


 しばらくして、淡い水色のビキニ姿の純と……スクール水着姿の愛が部屋に入ってきた。


「じゅんちゃん今から、絵を描くからソファに横になってらぶの方に顔を向けて!」

「……おう」


 今度こそ、素晴らしいイラストを描けそうな気がするからペンを取ろう……こんなことをしている場合ではない。


 愛と純が寒さで震えている。


 暖房の温度を上げながら、引き出しに入れている毛布を取り出して愛と純に渡す。


 愛は毛布を腰に巻きつけ、純は毛布に包った。


 2人とも顔色はいい。


 体調がこれ以上悪くないようにしないと。


「部屋の温度が上がるまで休憩しようか?」

「早く描かないと音色に勝てないよ!」

「それはそうだけど、寒い中水着の姿のままでいると、らぶちゃんもじゅんちゃんも風邪引くよ」

「私は、大丈夫だから、くしゅん」

「じゅんちゃん大丈夫?」

「こうちゃん、大丈夫。くしゅん、くしゅん、くしゅん」


 毛布を包ったまま純は立ち上がる。


 何度もくしゃみをして大丈夫そうには見えない。


「じゅんちゃん僕の方を見て」

「おう」


 純の額に手を当てる。


 体温はそれほど高くないから風邪じゃなさそう。


 上着を脱いで、今も体を震わしている純に着させる。


「じゅんちゃんの体調がよくないから、今日はじゅんちゃんの水着姿を模写するのは中止でいいよね」

「うん! 音色に勝つことのことより、じゅんちゃんの体の方が大切だからそうするよ!」


 椅子に座ってイラストを描き始める愛。


 水着のままだと本当に風邪を引くから、愛と純の家に2人の着替えを取りに行く。

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