83話目 写真の正体

 朝愛を向かいに行くと既に学校に行っていた。


 休み時間になる度に愛のクラスに行くけど、いない。


 ……完全に避けられている。


 原因は昨日のことで、僕が嫌われていないと分かっていても傷つくな。


 何で生きているだろと思ってしまう。


 へこんでいてもしょうがない。


 昼休みになってすぐに愛のクラスに向かおうとしていると愛の方からやってきた。


 愛は恋の手を引っ張りながら言う。


「れんちゃん、話があるからきてほしい!」

「友達と弁当を食べる約束をしてるから、放課後じゃ駄目?」

「急いで話したいことだからきて!」

「時間はかかる?」

「そんなにかからないよ!」

「ついて行くから、引っ張らないで」


 立ち上がった恋は茶髪女子のグループの所に行って話しかけた後、愛と一緒に教室を出て行く。


 愛は頬を赤くして切羽詰まったように見えた。


 もしかして……愛が恋に告白⁉


 久しぶりに会った仲のいい友達のことを友達としては見られなくなったのかも。


 愛は恋に懐き過ぎているから、その可能性は十分にある。


 2人が付き合うようになったら、愛と純が付き合うことができなくなるから阻止しよう。


 いや、愛が本気で恋のことを好きなら、自分の幸せより大好きな幼馴染の幸せを僕は選ぶ。


 今は少し嫉妬している純も、僕と同じ気持ちで最終的には愛と恋のことを祝福するだろう。


 事実を確かめるために2人の後を追っていると純と会う。


「こうちゃん、どうしたの?」

「ついてきてもらっていい?」

「おう」


 愛と恋は2階の漫研部の前に立ち止まり、愛が左右を見渡してから部室に入る。


 壁に耳を当てて中の会話を聞く。


 隣にいる純も僕の真似をする。


「れんちゃんを探している人がいるの!」

「人がいない所で話しているってことはもしかして、あたしの絵に関係している?」

「そうだよ! れんちゃんの絵が好きで、憧れているんだって! 小学生の時にれんちゃんが新聞に載った写真を持っていたよ!」

「あたしのこと言ったの?」

「言ってないよ! 言ったら絶交するってれんちゃんが言ってたから、絶対に言わないよ! その子はれんちゃんに本気で会いたいと思っているから、れんちゃんのこと言っていい?」

「あたしはあたしの絵が嫌いだから、絵を描いていたことを知られたくない。言わないでほしい」

「分かった! 絶対に言わないよ!」


 昨日愛が音色に本当のことを言わなかった理由と、音色が探しているのは誰なのか分かった。


 でも、音色に探している人が恋だと教えるのは難しいな。


「うわぁ! らぶちゃん、これってもしかして本物?」

「こうちゃんと最近一緒にお風呂に入っていないから分からないよ! 子どもの頃に見たのを少し大きくてして描いているよ!」

「百合中君のあれってこんな風になってるんだ……他のも見せてもらっていい?」

「いいよ! 気に入ったのがあったらコピーするけどいる?」

「……ほしい」

「れんちゃんはお〇ん〇ん見たことある?」

「あるわけない! お〇ん〇んを見たことなんて!」


 音色のことをどうすればいいか悩んでいると、2人がお〇ん〇んと言うのが聞こえてきた。


 愛が堂々と下ネタを言うのは新鮮だなと思いつつ、隣を見ると純は耳を真っ赤にしながら俯く。


「絵のためにリアルなお〇ん〇んを描きたいけど、高校生になってこうちゃんと一緒にお風呂に入るのは……エッチだから入れないよ!」

「エッチだとかそんなの関係なく絶対に入らったら駄目だから! それに、今でも十分に上手く描けてるよ。リアルかどうかは……百合中君の見たことないからなんとも言えないけど」

「こうちゃんとじゅんちゃんが……エッチなことしている漫画見る?」

「…………うん」

「らぶのおすすめは、こうちゃんがじゅんちゃんを後ろから襲っているこれかな!」

「…………なんて言ったらいいか分からないけど、とにかく凄いね。BLに全く興味がなかったけど、興味が出てきた。小泉さんについているのはモデルとかある?」

「ネットで適当なお〇ん〇んを見て描いたよ」


 ぽたぽたと水滴が落ちる音がしたから、隣を見ると純が泣いていた。


 イラストだとしても、知らない男の汚いお〇ん〇んをつけられたら誰だって泣く。


 これ以上、純が傷つかないようにこの場を後にした。


 純を落ち着かせるために人気の少ない屋上に向かう。


「……こうちゃん、ついていないから」


 屋上に着きフェンス近くで座ると、隣に立っている純が呟く。


 さっきの愛と恋の会話のことだな。


 頷いて、話題を逸らす。


「らぶちゃんが本当のことを音色に言わなかった理由は分かったけど、これから音色に何ていえばいいと思う?」

「私はらぶちゃんが秘密にしようとしているから、黙っていればいいと思う」

「そうだね」


 僕も純と同じ意見だけど、黙っているだけでは問題は解決しない。


 音色は憧れている恋を見つけるまで探そうとしているから、いつか恋が音色に見つかるかもしれない。


 親に怒られるから1か月ぐらいしかこっちにいることができないと、音色が言っていた。


 全く情報がない状態で1か月ぐらいなら、誤魔化せるかもしれない。


 楽観的に考え過ぎている気がする。


 愛が音色に絵を描いている人を知っていると言っている。


 嘘を吐くのが愛は苦手だから、音色に問い質されたら本当のことを口にしてしまうかも。


 愛の周辺を探せば恋が憧れの人というヒントが出てくるかも。


 思いつく解決策は僕や純が愛の近くにいて恋を近づかせなければいい。


 部活と授業で一緒にいることは難しいけど、それ以外は常に一緒にいようと思えばできる。


 親戚である音色にそこまでするのは、少し罪悪感はあるけど。


 でも、愛のためなら何でもする。


 このことを話すと、純は「おう」と答えた。


 今日から実行しよう。


「お弁当取ってくるからじゅんちゃんはここにいて」


 純は僕の手を摑み、凝視する。


 甘えたいアピール。


 このまま甘やかしていると、弁当を食べている時間がなくなる。


 純のお腹を空かしたまま授業を受けさせたくない。


「すぐに戻ってくるから手を離してほしいな」

「……」

「今日デザートにエッグタルト作ってきたんだけど、上手にできたからじゅんちゃんに食べてほしいな」

「……」


 涎が出てきて急いで口元を拭う純を見て、後一押し。


「らぶちゃんの分も作ってきたから、量が結構あって朝持ってくる時大変だったよ。食べないと帰りも重たいな。困ったなー。どうしようかな」


 愛は甘いものは食べられないから、愛の分を作ってきたというのは嘘。


 純が遠慮するから嘘を吐いたのではなく、僕のために嘘を吐いた。


 甘いものを食べ過ぎると、糖尿病になってしまう。


 でも、純を甘やかすと決めた僕はたくさんお菓子を食べてほしい。


 それっぽい理由を作って自分に言い聞かせる。


 今日は作り過ぎたから、仕方なく純にたくさんお菓子を食べてもらうのだと。


「…………食べる」


 耳を赤くする純の言葉を聞いて、急いで教室に行き弁当が入っている袋を持って屋上に戻る。


 微笑んでいる純の隣でエッグタルトを入れているタッパを開ける。


「じゅんちゃん、あーんして」

「あーん」


 純は口を大きく開けたから食べさせる。


「このエッグタルトは蜂蜜が入っている。すごく美味しい。カスタードと蜂蜜の相性が良くて、口の中に幸せが広がる」


 僕が作った数10個のエッグタルトは数分で純が全て食べた。


 まだ物足りなさそうにタッパを見つめる純に弁当を食べさせようとすると、眉を少し下げて小さな声で言う。


「……お腹いっぱい」


 甘いものだけでは体に悪いから、今日の晩飯は野菜多めにしよう。

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