80話目 無理矢理キスするのは変態!

 昼休みが終わってから純は僕か愛を見かけると逃げる。


 僕達は必死に追いかけても、純の足の速さにはかなわずすぐに見失う。


 純を焚きつけてキスをさせようとしたのは僕なので罪悪感が凄い。


「今お時間よろしいでしょうか?」


 そのことを謝りたいから、放課後になってすぐに1年5組に向かおう。


 教室を出ると、鳳凰院が胸の前で両手を組んで僕のことを睨む。


「百合中さん、今よろしいですの?」

「急いでいるから今度にしてもらっていい?」

「わたくしも急ぎの用事なので、話を聞いてもらえるまでここを通しませんわ」


 鳳凰院と話していたら純が教室からいなくなるかも。


 探すのが難しくなるな。


 純は僕が探していることに気づいている。


 屋上や校舎裏のようないつもの場所にいないだろう。


 軽く鳳凰院を睨んでも、いつものように怯まない。


 いや、少しだけ足が震えているから怖いことを必死に我慢していると分かる。


 そんな相手を睨み続ける気にはなれない。


「僕に話しって何?」

「6時間目の体育の時に、いつも格好よく走り回ってバスケをしている王子様が今日は体育館の隅で体育座りをしていましたわ。何か辛いことでもあったのですの?」


 僕が純に愛とキスをしてほしいと言ったからそうなった。


 馬鹿正直に答えたら状況がややこしくなるな。


「分からない」

「……そうですか。急いでいるのに時間をとらせて申し訳ございません」


 去ろうとする鳳凰院を呼び止めて、「明日にはいつもの格好いいじゅんちゃんに戻ってるから」というと小さく頭を僕に下げた。


 それから、学校中を走りながら探すけど、純は見つからない。


 自宅と純の家にもいない。


 他に純が行きそうな所を考える。


 まだ1つだけある。


「らぶちゃんに無理にキスをさせようとしてごめん」


 公園に着くと、ベンチに座っている純がいたのですぐに謝る。


「こうちゃんは悪くない。こうちゃんの言う通りに私がらぶちゃんにキスをすれば、らぶちゃんは私達から離れないんだよね?」


 純の力強く握りしめた拳は震えていた。


 僕の言葉を信じ恥ずかしさを殺して行動しようとする純を見て、もう1度考え直す。


 本当に純が愛にキスをすれば問題は解決するのかと。


 ……愛と恋が仲良くするのは、純が嫉妬するだけで僕には影響がないと思っていた。


 でも、違った。


 愛と純の百合なスキンシップが見れていないから欲求不満になっている。


 今日、手を繋いでいる愛と純を見られていないし、純の上に乗って起こす愛を見られていない。


 だから、愛にキスしてほしいと純に言った。


「じゅんちゃん、ごめん」


 無意識とはいえ、不安になっている純の気持ちを考えずに自分の我儘を優先した僕はくず野郎。


 謝って許されることではないけど、謝らずにはいられない。


「何でこうちゃんが謝るの?」

「1発僕を殴ってほしい?」

「こうちゃんを殴ることはできない。落ち着いて」


 純の言う通り今は僕が殴られても問題は解決しない。


 どうすればいいか考えて……変に隠し事をして問題を大きくしたことを反省した僕ならではの解決方法が浮かぶ。


「じゅんちゃん、今すぐらぶちゃんに会いに行こう」

「……まだらぶちゃんにキスをする勇気がないから、待ってほしい」

「キスしなくていいよ。僕についてきて」

「……本当にキスしなくていい?」


 上目遣いでそう聞かれたら、首を左右に振って否定したくなるけど……どうにか頷く。


 自宅に帰ると予想通り愛がいた。


「こうちゃんだったら、じゅんちゃんを見つると思ったよ! こうちゃん、じゅんちゃん、おかえり!」

「らぶちゃん、ただいま。じゅんちゃんがらぶちゃんに言いたいことがあるから、聞いてもらっていい?」

「いいよ! じゅんちゃん、らぶに話って何?」


 逃げ出そうとする純の手を摑んで愛の前に連れて行く。


「らぶちゃんはどんなじゅんちゃんでも絶対に受け止めてくれるから、自分の思っていることを言えばいいよ」


 純の耳元で小さな声で呟くと、ゆっくりと頷いた純は口を開く。


「……らぶちゃん、私、私は………………」


 耳を真っ赤にしてその耳を両手で押さえたまま黙る純。


「じゅんちゃんが言いたいこと分かるよ! すごく言い辛いことなんだよね!」


 しばらくして、愛は頬を赤く染めて言った。


 嫉妬していることを話そうとしている純が恥ずかしがるのは分かるけど、愛が何で恥ずかしがっているのか分からない。


「じゅんちゃん、ちょっとしゃがんでもらっていい?」

「……おう」


 でも次の瞬間、分かった。


「チュッ」


 言われた通りにしゃがんだ純に愛は頬でもなく、事故でもなく、唇にキスをした。


 興奮してテンションが上がり過ぎて叫びたい。


 今はそんな雰囲気ではないから、黙って2人の姿を見守る。


「じゅんちゃんはらぶに……キスをしようとしてたよね?」

「……おう」

「当たっててよかったよ! じゅんちゃんに……キスしたいって聞くのが恥ずかしかったから……キスしたけど、間違っていたららぶはじゅんちゃんに無理矢理……キスをした変態になってたよ!」


 愛は大きく跳んで純に抱き着く。


「……私はらぶちゃんと恋が仲良くするのを見てむかついていた。嫌な態度をとってごめん」

「今のじゅんちゃんすごく可愛いよ! ごめんね! 今からたくさんお姉さんが甘やかしてあげるから!」

「……おう」


 愛に強く抱きしめられた純は愛のお腹に頬擦りをする。


 その光景を見ながら、学生鞄に入れたスマホで写真を撮るかどうか悩み続けた。

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