76話目 幼馴染達と一緒に風呂に入りたい変態

 晩飯を作っていると、愛がやってきて僕の隣で両手をガムテープで巻きつけられている音色を指差す。


「この人誰?」

「僕の親戚の音色だよ。襲われるから近づいたら駄目だよ」

「うん! 分かった! 手伝いすることある?」

「机を拭いてもらってもいい?」

「いいよ! 机をぴかぴかにするね!」


 去って行く愛の後ろ姿を見ている音色が口を開く。


「さっきの人が愛さんっすか?」

「そうだよ」

「すごく手玉に取りやすそうじゃなくて、純粋そうで可愛いっすね」

「口にもガムテープした方がいい?」

「愛さんの匂いってどんな匂いがするっすかね。すごく気になるっす」

「口だけじゃなくて、鼻も塞いだ方がよさそうだね」

「そんなことしたら息ができなくて死んでしまうっす」


 自宅戻って母親の部屋に手錠を取りに行ったけどなかった。


 ガムテープで代用して音色の手に巻きつけている。


「スーハ―、スーハー、赤ちゃんからするミルクっぽい匂いが愛さんからして興奮するっす」


 音色は愛が戻って行った方に鼻を向けて深呼吸をし続けていた。


 机の上に晩飯を並べ終えて既に座っている愛の対面に座り、音色を隣に座らせる。


 ソファでこちらを見ている純が一向にこっちにこようとしない。


「じゅんちゃんどうしたの?」

「……なんでもない」


 愛の方を一瞥した純はそう答える。


 僕の所為で愛が豹変したことを知っていても、あのドSな愛を受け入れるのには時間がかかるのかも。


 純が愛の隣に座らないなら……音色の隣に座らせるのは論外だから僕の隣に座ってもらうことになる。


 でも、愛の隣に音色を座らせるのも不安があるというか、確実に襲わられるから絶対嫌。


「何でぼくだけ1人なんっすか?」


 僕の両隣に愛と純が座るようにした。


「それに手にガムテープを巻かれたままだから食べにくいっす。ガムテープ外してほしいっす」


 初めからこうすればよかった。


「お兄ちゃん聞いてるっすか? でも、何もできない状況で自分好みの女子が美味しそうに食事をしているのはなんか興奮するっす。こういうプレイもありっすね」


 純が愛のことを怖がるのは時間が経てばどうにかなると思うけどできれば早く解決したい。


 この間に純が他の女子と仲良くなって恋人になるかもしれないから。


 音色の両手にガムテープが巻かれていることに気づき謝りながら外す。


「お兄ちゃんのハンバーグめちゃくちゃ美味しかったっす。こんなに美味しいハンバーグを食べたのは今までなかったっす」


 僕達より後に食べた音色だったけど、数秒もかからずに完食して満足そうにお腹を叩く。


「じゅんちゃん一緒に風呂に入ろう!」

「いいっすよ! 一緒に入るっす! 今すぐ入るっす!」


 食事が終わり洗い物をしてると、愛の声が聞こえてきてなぜか僕の隣にいる音色が答えた。


 すぐに愛がやってくる。


「ぼくも愛お姉ちゃんと一緒にお風呂に入りたいっす!」

「らぶお姉ちゃん凄くいいよ! もう1回らぶをらぶお姉ちゃんって呼んで!」


 愛は満面の笑みを浮かべながら、人差し指を立てた手を音色の方に向ける。


「いいっすよ! 愛お姉ちゃん!」

「らぶがお姉ちゃんって呼ばれるのは初めてで嬉しいよ!」


 その瞬間、音色の目が怪しく光る。


「音色も愛お姉ちゃん達と一緒にお風呂入りたいっす!」

「いいよ! らぶお姉ちゃんが音色の体洗ってあげるね!」

「背中だけじゃなくて、前も洗ってもらっていいっすか?」

「いいよ! 音色の体の隅々まで洗うよ!」

「ロリがぼくのおっぱい所か下の方まで洗ってくれるなんて……」


 音色の鼻から大量の血が出てきた。


「鼻血が出ている時はお風呂に入らない方がいいから、らぶちゃん達だけで入っておいで」

「残念だけど、分かったよ! また今度入ろうね!」

「ぼくは、全然大丈夫っすから、一緒に入」


 部屋から出て行く愛と純に話しかけようとする音色の口を塞ぐ。


「僕の目の届く所でいるって約束したよね?」

「お兄ちゃんも一緒に入ればいいじゃないっすか」


 近くにあったティッシュを音色に渡し、床に落ちている血を拭いてから洗い物をした。


 音色が「愛お姉ちゃんと純お姉ちゃんと風呂に入りたいっす!」と駄々をこねていたけど無視していると静かになる。


 洗い物が終わってソファでくつろいでいると、まだ少し髪を濡らしている愛と純が部屋に入ってきた。


「風呂上がりの女子の髪って吸いたくなるっすよね?」


 隣に座っている音色がそう聞いてきた。


「ならないよ」

「男子なら誰でもなるっすよ。何でならないんっすか?」


 愛と純に視線を向ける。


 中腰になった純の髪を愛が拭いている。


 純は全く嫌がっている様子はない。


 裸の付き合いで純が愛を怖がっていたのはなくなったみたい。


「ぼくはそろそろホテルに戻るっす」


 立ち上がった音色は僕の方を向きながら言った。


「遅いから送って行くよ!」

「送ってくれるなら、純お姉ちゃんか愛お姉ちゃんがいいっす」

「はいはい。早く外に出るよ」

「純お姉ちゃん、愛お姉ちゃんまたくるっす」


 2人の所に行き両手を前に出す音色。


「……おう」

「またね! 音色」


 純は控えめに、愛は思いっ切りハイタッチ。


 外に出た僕と音色は最寄り駅に着くまで百合話に花を咲かせた。

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