75話目 変態の大好物

 すぐに許してくれたけど、僕の気が済まないから何でもすると純に言う。


「……お菓子をたくさん食べたい」


 そんな可愛らしい願いなら今すぐ叶えようということになって、買い物に出かける。


 愛は気持ちよさそうに昼寝をしているから寝かせておこう。


 純と玄関に向かっていると、家のチャイムが鳴る。


 ドアを開けると、音色が立っていた。


「お兄ちゃん達、久しぶりっす」

「昨日あったばかりだよ。それで何か用事?」

「そうっす。図書館に行ったんっすけど、手がかりが全くなかったので、他にいい方法がないのか聞きにきたっす」

「今からじゅんちゃんと買い物に行くから家で」


 待ってもらっていいと聞きそうになってやめる。


 金曜の晩に音色は純のお腹の中に顔を入れていた。


 そんな音色を寝ている愛と2人きりにするのは危険過ぎる。


「音色も一緒に買い物にくる?」

「行くっす。どこの弁当屋に行くんっすか?」

「弁当屋にはいかない。食材を買って作った方がやすいからスーパーに行くよ」

「……お兄ちゃんが作るんっすか?」

「そうだよ」


 目を見開いた音色は大げさに跳ぶ。


「まじっすか! やばいっす! 高校生が料理作れるとか漫画だけの話だと思ってたす!まじでお兄ちゃんやばいっす!」


 料理を作れることは当たり前だとは思わないけど、ここまで驚くことでもない気がする。


「スーパーって総菜と白ご飯を買う所じゃないんっすね! 勉強になったす! 帰って母にスーパーには食材が売ってると言うっすね。母はそのことを知らないと思うっすから」


 凄くいい笑顔で言う音色が少しだけ可哀想に見えてきた。


「今日、僕の家で夕飯食べていく?」

「いいんっすか?」

「いいよ。アレルギーとかある?」

「ないっす。嫌いなものもないっす。何でも食べれるっす。好物は大きな女子のお尻っす!大好物は大きなおっぱいっす!」


 音色は純の胸を凝視する。


「見るな」


 胸を隠しながら音色のことを睨みつける純。


「ツリ目の女子に睨まれると、ゾクゾクして嬉しくなるっすね!」

「……」

「純お姉ちゃんって呼んでいいっすか?」

「……」

「呼ばしてくれないと、胸とお尻を揉むっす!」

「……おう」


 純は凄く嫌そうに眉間に皺を寄せながら答える。


「その虫を見るような目、最高っすね。純お姉ちゃんを食べられたら駄目っすか?」

「じゅんちゃんに変なことをしたらすぐに家から追い出すからね」

「分かったす。できるだけ気をつけるっすね」


 軽い感じで返事をする音色のことを全然信用できない。


 監視しておかないといけないな。


 近所のスーパーに着き純に言う。


「お菓子好きなだけ買ってきていいよ」

「おう! 2つ買ってくる!」


 目を輝かせながらお菓子売り場に向かおうとする純の手を摑む。


「かご一杯に買っていいよ」

「いいの?」

「いいよ」

「ありがとう。こうちゃん好き」


 テンションの高い純は僕に抱き着く。


 数秒経って我に返ったのか耳を赤くして離れる。


 買いものかごを取って、足早にお菓子売り場に向かう純。


 隣を見ると目を瞑って唇を尖らして両手を前に伸ばしている音色がいた。


「じゅんちゃんならもういないよ」

「……いないっすか! お兄ちゃんに抱き着いた後はぼくに抱き着いてくると思ったので準備してたのに残念っす。それじゃあ、純お姉ちゃんの所に行ってくるっすね」

「音色は僕と買い物に行くよ」

「嫌っす! お菓子に夢中になっている純お姉ちゃんにセクハラするっす!」


 お菓子売り場に向かおうとする音色の手を握り、買い物かごを取ってから1週間分の食材を買い始める。


「音色はいつまでこっちでいるの?」


 ふと、疑問に思ったことを口にする。


「探している人が見つかるまでここにいたいっすけど、そんなに長くいたら鬼母に怒られるっすから1か月ぐらいっすね」

「こっちには両親と一緒に来てるの?」

「1人できてるっすよ」

「泊まる所はどうしてるの?」

「ここから少し離れた所でホテルを借りてるっす。名前は確か、花丸ホテルっすね」


 1か月もホテルを借りるのはどんなに安い所でも中学生には痛い出費。


 僕の家に泊ればいいとは言わない。


 愛と純が襲わられるから。


「お兄ちゃんもしかして、ぼくのお金のこと心配してくれているっすか?」

「まあ、一応」

「優しいっすね。でも、大丈夫っすよ。ぼくの漫画が書籍化するっすから、印税が入ってくるっす。それに、イラストを描く仕事もしてるっすから、貯金は結構たまってるっすよ」


 音色の漫画は見たことがあるけど、イラストは見たことないから今度検索してみよう。


「お兄ちゃんは1暮らしっすよね?」

「そうだよ。小学生の時から」

「寂しくないっすか?」

「らぶちゃんやじゅんちゃんがそばにいてくれるから、寂しいと思ったことはないよ」

「らぶちゃんって誰っすか?」

「もう1人の幼馴染だよ」

「女子っすか?」

「そうだけど、手を出すなよ」


 音色は喉を鳴らしてから上擦った声を出す。


「お兄ちゃんの大切な人に手なんて出さないっすよ。ぼくが信用できないっすか?」

「全くできない。音色を家に入れるのが心配だから帰ってもらっていい?」

「嫌っす! 絶対に手を出さないと約束するっす!」

「顔が幼くて、小学生ぐらいの身長の高校生がいたとしたらどうする?」

「迷わず襲うっす。合法ロリなんて最高じゃないっすか。そのネタだけで何時間でも語れるっすよ」


 鼻息を荒くしながら涎を出す音色。


「何かあったら連絡してきて。またね、音色」


 早足で音色から離れようとすると抱き着かれる。


「冗談っす! 襲わないっすから! 先っちょ触るだけで我慢するっすから! だから、置いてきぼりにしないでほしいっす」

「先っちょ触るのも駄目だからね」

「分かったっす。頭のてっぺんから足先まで舐るように見るだけにするっす」


 不安しかないけど、親戚だから放っておくわけにはいかないよな。


 愛と純がいる時は音色の手綱を握れるようにしておこう。


 食材を揃え終わって、お菓子売り場に向かうと純はたぶんこのスーパーで1番安いお徳用のチョコをかご一杯に入れていた。


「じゅんちゃんはこのチョコが食べたいの?」


 純は頷きながら、近くにあった少し高めの新商品のチョコを一瞥する。


「じゅんちゃんの好きなものを買っていいよ」

「……高いの買ったら、こうちゃんのお金がなくなってしまう」

「純お姉ちゃん、可愛過ぎるっす! ぎゅっとしてぺろぺろしないといけないっす!」


 純に抱き着こうとする音色の首根っこを摑む。


「今日は特別だからじゅんちゃんの好きなものを好きなだけ買っていいよ。そうしてくれる方が僕は嬉しいな」

「……おう」


 かごに入っていたお徳用のチョコを半分減らして、少し高めのチョコを1つ入れた。


「純お姉ちゃん可愛過ぎるっす! 何でも買っていいって言われたのに、まだ遠慮して半分は安いチョコを入れたままにするなんて健気過ぎて食べたいっす!」

「食べるなよ!」

「そんなに凄まなくても食べないっす。だから、ぼくから手を放してほしいっす」

「じゅんちゃんには指先でも触れないと約束したら放すよ」

「約束するっす。女神さま、百合の神様に誓って約束するっす」


 音色のことが信用できないから首根っこから手を放した後、手を繋ぐ。


「お兄ちゃん、純お姉ちゃんの写真を撮るのはいいっすか?」

「変なことに使いそうだから駄目」

「使わないっす! 漫画の資料にして、純お姉ちゃんのキャラをロリキャラに襲わせたり、ぼくのおかずにするぐらいにしか使わないっす」


 そう言いながらスマホを取り出したので、スマホを没収する。


「返すっす!」


 携帯を取り返そうとしてくるから、音色のスマホを掲げる。


「じゅんちゃんとこれから会うことになるらぶちゃんの写真を撮らないというなら返すよ」

「らぶちゃんって、さっきお兄ちゃんが言ってた顔が幼くて小学生ぐらいの身長をした高校生のことっすか?」

「うん。そうだよ」

「…………そんな2人が揃ったらぼく我慢できる自信ないっす」


 真面目にそう呟く音色を見て、このままここに置き去りにした方がいいのではと本気で思う。


「スマホはそのままお兄ちゃんが持ってていいっす。連絡がきた時だけ返してほしいっす。それと、お兄ちゃんの目の届く所にいるっすから、お兄ちゃんの家に行っていいっすか?」


 こんな具体的な案を出されると連れて行くしかないな。


「こうちゃん選べた」


 純が色々な甘いものが一杯に入ったかごを満面の笑みで見せてくる。


 会計を済ませて店内を出ると、音色が前を歩いている純に熱い視線を向けながら。


「本当にいいお尻をしてるっすね! 純お姉ちゃんと子作りをしたいっす」


 下卑た笑顔を浮かべながら言う。


 自宅に帰ったら母親の部屋から手錠を取りに行こう。

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