31話目 幼馴染達の初めての喧嘩
朝いつも通りの時間に目が覚め起き上がろうとしてやめる。
今日から純のために弁当を作らなくていいし、愛と純を起こしに行かなくてもいい。
僕だけのことをすると考えるなら、8時過ぎに準備を始めても余裕はある。
もう1時間ぐらいは寝られるけど、2度寝する気になれない。
虚無感が凄すぎてじっとしていたら泣きそうになってくる。
このままでは駄目だと思い勢いよく立ち上がりリビングに向かう。
いつもの朝食、僕の分の弁当は適当に作るが気を紛らわすために少し手の込んだものを作ろう。
朝食にフレンチトーストとサラダを作り、弁当は卵焼き、ハンバーグ、ポテトサラダを作った。
いつもより美味しく作れているはずなのに味気なく感じて、フレンチトーストを1齧って残す。
家から出ると、愛と鉢合わせする。
「こうちゃん、おは……」
愛は学校の方に向かって走ってからすぐにこける。
助けようとしたら、愛の家から出てきた純が起き上がらせる。
純は僕の方を一瞥することなく、愛の手を引いて登校していく。
2人と登校時間をずらすために家に戻った。
学校まで本気で走って行けば10分ぐらいで着く。
玄関にある段差に座って、呆然とする。
愛と純に隠し事をしていたより、2人のそばに入れないことが辛い。
でも、これは僕が選んだことなどで我慢するしかない。
スマホで愛と純が学校に向かって20分経っていることを確認して、学校に向かって走った。
学校に近づく度に足が重くなっているように感じる。
このまま家に帰りたい。
でも、学校を休んだら愛と純が心配するから休めない。
ただそんなことだけを思って学校を目指した。
★★★
やっと、やっと、やっと昼休みになったよ。
もう、我慢の限界だよ。
純ちゃんのクラスに向かって走る。
教室には純ちゃんがいたから隣に行き、机をバンバン叩く。
「じゅんちゃん! らぶは我慢の限界だよ! こうちゃんと離れるなんて絶対に嫌だよ!こうちゃんと一緒にいたいよ! らぶとじゅんちゃんとこうちゃんの3人でいたいよ!」
「らぶちゃん、落ち着いて」
「無理だよ! らぶとじゅんちゃんとこうちゃんはいつも一緒でしょ! 一緒にいたいでしょ! じゅちゃんは違うの?」
純ちゃんは答えずに愛の手を摑み屋上に連れて行く。
「こうちゃんは何か隠しごとしていて、その隠しごとの所為でらぶ達と一緒にいられないんだよね?」
屋上に入ってすぐに訊く。
土曜日に純ちゃんがそう説明した。
でも、全然納得できていない。
納得できるわけがない。
だって、小さい頃から愛と幸ちゃんと純ちゃんはいつも一緒にいた。
……少しだけ、愛が離れていた時もあったけど、それでも長い時間愛達は一緒に過ごした。
「おう」
「だったら、その隠しごとを受け入れたらいいんだよ! 今からこうちゃんにそう伝えてくるね!」
「無理」
いつもみたいに落ち着いている純ちゃんに腹が立った。
「やってもないのに何で無理って言うの? やってみたら簡単に解決するかもしれないよ!」
「無理」
「だから何で無理なの‼ やってもないのにじゅんちゃんはどうして無理って言えるの‼」
心の底から叫ぶ。
純ちゃんに愛の気持ちを理解してほしいと思ったから。
でも純ちゃんは、
「無理」
そう言い続けた。
「もういいよ! らぶだけでこうちゃんに言いに行くから!」
手を振り払おうとしてもできない。
「じゅんちゃん手を放して!」
「嫌」
「お願いだから放して‼」
「嫌だよ!」
愛が睨むと純ちゃんも睨んできた。
純ちゃんの初めて見せる表情に怖くなる。
でも、引かない。
どんなことがあっても愛、純ちゃん、幸ちゃんの3人でずっと一緒にいたいから。
「がぶっ」
「……っ」
純ちゃんの手を噛むと、じゅんちゃんは手を放した。
入り口に向かって走る。
すぐに追い抜かれて出入口の前で純ちゃんは愛を通せんぼする。
「じゅんちゃんそこをどいて!」
「……」
「どいて‼」
「……」
純ちゃんや幸ちゃんのように頭のよくない愛だからどうしたらいいか分からない。
それでも、何かしないとこのままでは幸ちゃんが愛達から離れていくような気がして何もしないなんてできない。
「コウチャンモ、スコシヤスメバ、マエミタイニ、イッショニイラレルヨウニナルヨ」
「じゅんちゃんは、本当にそう思ってるの?」
「オモッテルヨ」
純ちゃんは嘘を吐くと片言になる。
だから、純ちゃんも幸ちゃんが愛達の所に戻ってこないと思っている。
純ちゃんに思いっきり体当たりをする。
いきなりのことに純ちゃんは尻餅をついたので見下ろす。
「じゅんちゃんだってこうちゃんが戻ってこないって思ってるんだよね?」
「オモッテナイヨ」
「じゃあ何でじゅんちゃんは片言になってるの! じゅんちゃんは嘘をつくといつも片言になっているよ! それに、何でそんなに今にも泣きそうなの‼」
「……泣きそうになってないよ」
「なってるよ!」
「…………私だって」
純ちゃんは立ち上がって、愛に顔を近づけた。
「私だってこうちゃんと一緒にいたいよ!」
「ならそう言えばいいよ! こうちゃんに一緒にいたいからって! どんな隠しごとがあっても大丈夫だからって!」
「言えないよ! 私は今までにたくさん、本当にたくさん、返せないぐらいこうちゃんに助けてもらった。だから、今度は私がこうちゃんを助ける!」
「全然! 全然! 全然! こうちゃんは助かってないよ‼」
「そんなことない‼」
純ちゃんは愛を捕まえたけど、手の力は弱くて振り払おうと思えばできた。
でも、振り払うことはできない。
その手が震えていて、助けを求めているように感じたから。
愛は知っている。
体が大きくて、頭も良くて、運動もできるので完璧に見える純ちゃんが、誰よりも寂しがり屋なことを。
だから、お姉さんの愛がしっかりしないといけない。
力強く抱きしめて心の底から叫ぶ。
「全然助かってない! 助かってないよ! こうちゃんもじゅんちゃんも‼」
「……」
「らぶは2人が笑顔でいれるように頑張るから! たくさん頑張るから! だから、じゅんちゃんはらぶのことを信じてここで待ってて!」
「……らぶちゃんの、馬鹿」
純ちゃんが子どもっぽい声を出した。
「らぶちゃんの馬鹿! 何で分かってくれないの! たくさんたくさん我慢してるのに……らぶちゃんの馬鹿! らぶちゃんのアホ!」
かちんときたから、大きな声で言い返す。
「じゅんちゃんの方が馬鹿でアホだよ!」
「私は馬鹿でアホじゃない! らぶちゃんが馬鹿でアホだよ! こうちゃんと離れたくないなら何で朝こうちゃんが挨拶したのに避けたの!」
「じゅんちゃんがこうちゃんに近づかない方がいいって言うからだよ! らぶ達が今近づいたらこうちゃんを困らすだけだからって!」
「人の所為にしないでよ! らぶちゃんの馬鹿でアホ!」
「馬鹿でアホはじゅんちゃんだよ‼」
「馬鹿でアホはらぶちゃん‼」
互いの上着を同時に摑みあう。
「じゅんちゃん離してよ!」
「らぶちゃんが先に離したら離す!」
熱くなって大声で純ちゃんに向かって大嫌いと叫びそうになる。
そんなこと全然思っていないのに、我慢することができずに、
「じゅんちゃんなんてだ」
『バンッ』
言いそうになった愛の声が扉の開く音で消えた。
扉の方を見るとそこには……。
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