32話目 幼馴染達による暴露大会
昼休み1人で弁当を食べていると、クラスの眼鏡をかけた女子が話しかけてきた。
「……百合中君今いいかな?」
「いいよ」
「……一緒に……お弁当食べたいだけど……いいかな?」
「うん。一緒に食べよう」
正直に言えば、誰かと一緒に食事をしたい気分ではなかったけど、殻にこもって暗くなるのは駄目だと思い頷く。
眼鏡女子は近くの席から椅子を借りてきて、僕の対面に座る。
「百合中君の弁当美味しそうだね」
「今日は、手抜きしなかったからね」
「百合中君の手作りなんだ。すごいね! いつもは手抜きしているの?」
「うん。この前は時間がなかったから、白米の上に青汁乗せただけの弁当だったよ」
「それはすごく個性的な味がしそうだね」
眼鏡女子は微笑みながらそう言った。
「でも、今日のは本当に美味しそうだよ」
「食べてみる」
「……いいの?」
「いいよ」
ポテトサラダを箸で摑んで、眼鏡女子の弁当に置く。
「……これが……百合中君が作ったポテトサラダなんだ。幸せだな」
「食べてからそう言ってよ」
目を輝かせながらポテトサラダを見る眼鏡女子に突っ込む。
休日は部活の先輩と遊んで、平日はクラスメイトと何でもないことを話す。
その内愛と純との関わりが薄れていって……最終的には他人になっていくのかもしれない。
それはそれでしょうがないと全く思わないけど、どうしようもない。
だって、全て僕が悪いから。
愛と純から離れても、2人のキスを見たいと思う自分が本当に大嫌い。
勢いよく扉が開き、そちらに視線を向ける……くるはずのない愛と純がきたと思った。
もちろん、大好きな幼馴染達ではない。
そこにいたのは、髪型が角刈りの男子。
角刈り男子は僕の席に来て半笑いで言ってくる。
「朝から矢追たんと離れているってことは、喧嘩したんだろ! いい気味だな!」
今の精神状態で男子に馬鹿にされ手を出しそうになるけど我慢。
角刈り男子を殴った所で損しかない。
無視して食事を再開する。
「おいおい、お前はへたれか? こんなに言われて言い返してこないなんて」
「……」
「おい、聞いてんのか?」
「……」
「いい加減にしろよ! 俺は無視されるのが1番嫌いなんだよ‼」
「やめて!」
眼鏡女子は睨みながら角刈り男子に向かって叫ぶ。
「百合中君を馬鹿にしないで!」
「うるせぇ! 俺は今こいつと喋っているんだ! 邪魔をするな!」
角刈り男子は大声を出しながら女子に向かって拳を下ろそうとしたので、僕はその拳を摑んで握り潰す。
「ウギャア―――――――――――――――――――――――――――――――!」
角刈り男子が汚い叫び声を上げた。
手を放すと床に勢いよく倒れた。
もう、我慢ができない。
少し角刈り男子を痛みつけても、眼鏡女子を守るために正当防衛でしたと言えばいい。
角刈り男子の親や先生に過剰にやり過ぎだと言われても、眼鏡女子はもちろんここにいる生徒は僕に味方してくれるから大丈夫。
大丈夫じゃなくてもどうでもいい。
愛と純のそばにいれない僕の人生なんて。
仰向けて倒れている角刈り男子に近づくと、角刈り男子は顔を引きつらせて固まっている。
弱いものには調子に乗って、強いものには恐怖する、そんな男子が嫌い。
角刈り男子の頭を蹴り上げようとした時、愛の怒鳴り声が聞こえた。
周りの生徒にも聞こえていたらしく口々に愛の声がどこから聞こえてきたか話し合っている。
この時間だったら愛は純と屋上で弁当を食べていると考えていると、外から純の怒鳴り声がしてくる。
何が起こっているのか分からないけど、急いで屋上に向かわないといけことだけは分かる。
屋上を目指して全速力で走る。
屋上の扉を勢いよく開けると、愛と純が服を摑みあっていた。
2人は僕の方を見て、互いの服から手を放してこっちにくる。
「こうちゃん隠し事を話して!」
「こうちゃん隠し事を話さなくていい!」
愛と純が同時に言った。
「今はらぶがこうちゃんに話しかけているから、じゅんちゃんは黙って!」
「らぶちゃんの方こそ黙って! 私が先にこうちゃんに話す!」
「らぶはじゅんちゃんよりこうちゃんのこと知ってるから、らぶが先にこうちゃんに話すよ! こうちゃん中学で部活に入らなかったのはらぶ達の面倒を見るためだったんだから!」
「それぐらい知ってる! らぶちゃんは知らないと思うけど、こうちゃんは私達の将来のために貯金してくれている!」
「知ってるよ! こうちゃんの家の机の上に『らぶちゃんとじゅんちゃんの将来のための貯金』と書かれた通帳が置かれていたから知ってるよ!」
……陰で努力していたことがバレてすごく恥ずかしい。
「こうちゃんはじゅんちゃんよりらぶのことが好きなんだよ。こうちゃんはらぶの頭をいつも撫でたいけど、らぶが嫌がるから我慢するだよ。眉間に皺を寄せてすごく辛そうに我慢するんだよ! らぶのことを大好きじゃなかったらここまで我慢できないよ!」
「違うよ! 私の方がこうちゃんに好かれている! 私が1人で楽しそうに音楽を聴いていたら、真冬でも寒い廊下でも外でも待ってくれる! 大好きじゃなかったらできることじゃない!」
やめて! 恥ずかしい!
それとなくしていたつもりだから、バレていたことを知ってすごく恥ずかしい!
なんか、恥ずかし過ぎて愛と純の百合な妄想が恥ずかしいものじゃないように感じる。
感覚が麻痺しているのが分かる。
でも、言っちゃおう。
2人が僕のことをよく見ていて、すごく愛されていることが伝わったから今の僕は何も怖くない。
大きく息を吸って空に向かって叫ぶ。
「僕はらぶちゃんとじゅんちゃんのキスを見たい、らぶちゃんとじゅんちゃんがエッチなことをする所を見たいんだよ―――――――――――――――――――――‼」
おずおずと愛と純の方に顔を向けると、呆けた顔で2人が僕のことを見ていた。
正気に戻り怖くなって俯く。
ああ……人生は終わったよ。
うん、今から家に帰ろうかな……それとも学校をやめようかな……いっそのこと人生やめよう。
「「こうちゃん」」
2人に名前を呼ばれて顔を上げると、体に重みを感じながら後ろ向きに倒れる。
「こうちゃんのためだったら少し……ほんの少しだったら……エッチなことしてもいいよ!」
「私はこうちゃんのためだったら何だってする!」
「それだったら、らぶだってこうちゃんのために何でもするよ! こうちゃんはらぶに何をしてほしい?」
「らぶちゃん真似しないで!」
「真似なんかしてないよ! 頭の中で考えたのはらぶが先だったんだよ!」
口喧嘩している愛と純に自信がなくて小声で言う。
「でも、女子同士のキスが見たいなんて気持ち悪いよね?」
「「気持ち悪くなんてない!」」
同時に僕の言葉を否定した。
愛と純は顔を向き合わせて、ゆっくりと……唇を合わせた。
「……」
ほんの一瞬だけど…………永遠の長さに感じた。
目の前で愛と純がキスをした…………。
その光景のあまりにも尊さに、僕は手を合わせて拝むことしかできなかった。
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