25話目 大きな幼馴染のお姫様抱っこ

 頭が少しぼんやりして、体が温かくてポカポカする。


 体を起こしてベッドから下りると、ふわふわして歩くのが少しおぼつかない。


 階段の壁に手を当てながら1階に下りて、キッチンで青汁と少しの量の食パンを食べた。


 食欲もあるから、体調は大丈夫そうだな。


 2人分の弁当を作り始める。


 体を動かしていると、ふわふわしている感じが気にならなくなり、いつも通りのクオリティーの2人分の弁当ができた。


 掃除を終えた後、パジャマから着替えていないことに気づく。


 自室に戻り制服に着替える。




「こうちゃん! おはよう!」


 愛の家に行くと、愛が玄関で抱き着いてくる。


 いつもだったら簡単に受け止めることができるのに、今日はふらついてしまう。


 昨日寝るのが遅かったから、睡眠が足りていないのだろう。


 今後のことをベッドの中で考え続けて、寝付くのが朝方になっていた。


「こうちゃん! ふらふらしてるよ! 大丈夫?」

「大丈夫だよ」


 よじ登ってきた愛は僕の額に手を当てる。


「顔色が悪いよ! それに頭も熱いよ!」

「本当に大丈夫だよ。らぶちゃんより元気があるぐらいだよ」


 愛の体を抱きしめて屈伸する。


「らぶの方がこうちゃんより元気、これすごく楽しいよ! もっとして!」

「いいよ! 落ちないように摑まっててね」

「うわー! 楽しいよ! もっと! もっとして!」


 どうにか倒れずに愛を下ろして、一緒にリビングに向かう。


「幸君少し顔が赤いわ。体調は大丈夫かしら?」


 リビングに入ると、朝食を机に並べている琴絵さんが話しかけてきた。

 少し頭がぼんやりするけど、それは寝不足なので伝えなくていいな。


「大丈夫ですよ」

「それならいいけど、辛かったら言うのよ」

「ありがとうございます」


 愛の食事が終わり、純の家に行く。


「じゅんちゃん起きるよ! 朝だよ!」


 純の部屋に着き、愛が純を起こしている姿を見ても全く興奮することがない。

 その光景をなんとなく見続けたいだけど、キスをしてほしいと気持ちが湧いてこない。

「……唐辛子がこんなにいっぱいあって幸せだよ。もぐもぐ」


 寝た愛を抱えて床にそっと下して純を軽く揺する。


 何度か揺すると純が目を覚ました。


「じゅんちゃんおはよう」

「おはよう。こうちゃん。こうちゃんの顔が赤いけど、大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ」


 愛と琴絵さんと純に心配されたけど、今の僕は体調が悪い所か体調がいいと言っても過言ではない。


 さっきまでしていたふらつく感じもなくなっている。


 百合な妄想をしなくなって悩みがなくなり安心している。


 これで、男子のことを考えなくていい。


 精神的苦痛がなくなると、肉体的にも楽になるんだな。


 純は不安そうに僕のことを見ている。


 安心させるために純の頭を撫でる。


「じゅんちゃん、心配してくれてありがとう」

「……おう」


 純は小さく呟いた。


 学校に行く時間も近づいている。


「下で待っているね」


 寝ている愛を抱えて立ち上がろうとしたけど全身の力が抜けた。


 ほとんど持ち上げることができなかったから、愛が怪我することはなかった。


 純が心配した顔で近づいてきて僕の額に手を当てる。


「熱っ」


 そう言って部屋を出て行き、体温計を持って戻ってきて僕に差し出す。


「こうちゃん測って」


 高熱だったら、純は絶対に僕が学校に行くのを反対する。


 百合な妄想をしなくなったから、愛と純のそばにいたい。


「熱なんてないよ」

「測って」


 純の圧に押されて体温を測ることにした。


 38.0……終わった。


 いや、まだいける。


「僕のいつもの体温が37度を超えているから38度ぐらい大丈夫だよ」

「こうちゃんが風邪だったららぶちゃんに移るかもしれない。こうちゃんは今日は学校休む」

「そうだね。学校休むよ」


 その可能性を考えてなかった僕を殴りたい。


「僕は家に帰って寝るから、じゅんちゃんはらぶちゃんと車に気をつけて学校に行ってね。うおっ」


 急に純は僕をお姫様抱っこして部屋を出る。


「純ちゃん、僕歩けるから下ろして」

「……」


 抱えるのは愛で慣れている。


 される側は記憶にある限り1度もない。


 体が宙に浮いていて少し怖いし、子ども扱いされているようで照れくさくて恥ずかしい。


 純は返事をすることなくお姫様抱っこしたまま外に出た。


 外では琴絵さんが自分の家の前を箒で掃除をしていて、視線が合う。


 その瞬間琴絵さんは、僕達の所にくる。


「幸君のお嫁さんは純ちゃんになったの? そうじゃなくて、幸君がお姫様抱っこされているから、幸君が純ちゃんのお嫁さんになったのかな?」

「琴絵さん。こうちゃんが、こうちゃんが、こうちゃんが高熱を出した。どうすればいい? 今すぐ病院に連れて行けばいい? それとも救急車を呼べばいい?」


 背伸びをした琴絵さんは純の頬を触る。


「幸君は大丈夫だから、純ちゃんはゆっくり深呼吸しようか?」

「……はい。すーはー、すーはー」


 琴絵さんが僕の額に手を当てる。


 愛と一緒で琴絵さんの手も冷たくて気持ちがいい。


「熱はまあまああるわね。幸君どこか痛い所はある?」

「特にないですね。頭がぼーとして体は熱いですけど」

「たぶん風邪ね。少し様子を見て体調が悪化するようだったら病院に行きましょう。純ちゃんは幸君をベッドに寝かせてもらえるかしら?」


 頷いた純は僕の家を目指して歩き始めた。

 心地よい揺れと、爽やかな林檎の匂いがしてきて……僕は…………。

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