23話目 幼馴染達が手押し相撲勝負

 晩飯の後、皿を重ねてキッチンに向かおうとしていると眩暈でその場に倒れた。


 地面に皿が落ちて凄い音がする。


 愛と純が物凄い勢いで椅子から立ち上がり僕の所にくる。


「「大丈夫、こうちゃん⁉」」

「……大丈夫だよ。ってあれ?」


 笑って立ち上がろうとするけど体に力が入らない。


 愛と純は互いに視線を合わせてから小さく頷く。


「こうちゃんはソファに寝転がっていて!」

「平気だよ」

「じゅんちゃんお願い!」

「おう」


 純が僕を抱えてソファに下す。


「少し眩暈がしただけだから大丈夫だよ」

「こうちゃん、らぶちゃんと私を信用して後片付けはまかせてほしい」

「……まかせるよ」


 愛と純の様子を眺める。


 純は僕が割った食器の片付けをして、愛は食器を洗ってくれた。


 朝と違ってスムーズに行動している。


 これなら、安心して見守ることができるな。


 片付けが終わった愛と純はソファの前の机に座って勉強を始める。


「じゅんちゃん! 勉強教えて!」

「おう。どこ?」

「じゅんちゃん、ここが分からないよ!」

「ここの答えはこう」

「何でそうなるの!」

「……ちょっと待て。えっと、ここをこうしたらこうなるから…………」


 数学の途中式を愛に聞かれて、純は教科書を睨み続ける。


 見かねたので、2人に声を掛ける。


「僕も一緒に勉強していいかな?」

「駄目だよ! こうちゃんは休んでないと元気にならないよ!」

「ここで休みながら勉強するのも駄目?」

「それなら、いいよ!」

「じゅんちゃんもそれでいい?」

「おう」


 テレビの前にある机をソファ近くまで純に運んでもらう。


 寝たまま愛に勉強を教えて、純はその様子を隣で見ている。


 いつもより早い時間に勉強をしたから、愛は勉強中ほとんど寝ずに1時間が過ぎた。


 そのことを褒めると「お姉さんだから当たり前だよ!」とドヤ顔をする愛。


 可愛くて頭を撫でる。


「こうちゃんに元気ないから特別に撫でていいよ! 今日だけ特別なんだからね!」


 愛のその言葉を聞いて、少し体調を崩して得な気分になった。


 まだ19時過ぎだけど勉強も終わったから解散だろう。


「こうちゃんズボンが汚れているよ!」


 愛に言われて僕のズボンを見るとシミができていた。


 少ししか汚れてないし、下着の方までに染みてもないからズボンを履き替えるだけでいい。


 立ち上がってリビングを出て行こうとすると愛に手を握られる。


「どこに行くの?」

「ズボンを変えに行こうと思って」

「変えるだけじゃ駄目だよ! お風呂入らないと!」

「今日は少し体調が悪いから明日の朝に入るよ」

「それならいい方法があるよ! らぶとこうちゃんが一緒にお風呂に入ればいいんだよ!」


 とっておきの方法を見つけたみたいなドヤ顔をする愛。


 高校生になって、幼馴染と一緒にお風呂に入るのはどうなのだろうか?


 抵抗はないけど、世間的には駄目な気がする。


 でも、愛は引き下がらないと思う。


 1人で入るのも途中で倒れそうで不安。


「それじゃあ、水着で一緒に入るのでいいかな?」

「当たり前だよ! 裸で入るなんて……エッチだよ‼」


 顔を真っ赤にして慌てふためく愛は部屋から出て行く。


 純も立ち上がり、リビングを出て行こうとしたので声を掛ける。


「じゅんちゃん、帰るの?」


 首を横に振って部屋を出て行く。


 いつも僕の家で風呂に入っているから、着替えでも取りに行ったのだろう。


 3人が集まったら、先に僕と愛が入るか、純が入るか順番を決めよう。


 自室に行き服を全部脱いで海パンを履いた。


 下着とパジャマを手にリビングに行くと、水着姿の愛と……………………純がいた。


 固まっていると愛が言う。


「じゅんちゃんも一緒に入るって! やったー! ひさしぶりに3人でのお風呂だよ!」


 なん、だと……。


 同性同士で一緒に入るのは世間的にも大丈夫……僕が大丈夫ではないな。


 確実に妄想を口にしてしまう。


 風呂という狭い空間で水着を着た愛と純の体は確実に密着する。


 そして、互いに見つめ合った愛と純は………2人は…………男子の水着姿を想像する。


 3人で入ることをどうにか阻止しないとやばい。


「3人で入るにはお風呂が小さいから、一緒に入るのをやめない?」

「こうちゃんの言う通りだね!」


 納得してくれたことに安心する。


「勝負をして勝った方がこうちゃんと一緒にお風呂に入るのってどうかな?」

「おう。いい」


 急に愛と純の勝負が始まる。


 勝負内容は手押し相撲で、手だけ使って押したり引いたりして相手の体勢を崩したほうが勝ち。


 愛と純は対面に立って手を前に伸ばして構えた。


「うおりゃ、どりゃ、そりゃ、うおおりゃ」

「……」


 スタートと言うと、愛は声を上げながら純の手を必死に押すけどびくともしない。


 純は押し返すことなく棒立ちしているから勝敗がつかない。


「じゅん、ちゃ、んは、こう、ちゃんと、お風呂に、入り、たいの?」

「………………」


 しばらくして、肩で息をしながら愛は純にそう言った。


 純は耳を赤くして答えない。


 愛は純から手を放して、優しい声音で言う。


「じゅんちゃんもこうちゃんのお世話がしたいんだね! こうちゃんのお世話はじゅんちゃんに任せるよ!」

「いいの?」

「うん! いいよ! らぶはお姉さんだから妹のしたいことをさせてあげるよ!」

「ありがとう」

「勝負は負けたくないから、最後までしよう!」


 愛の一言で手押し相撲は続くことになった。


 愛が純の手を押し、純がびくともしない。


 疲れて少し休憩してから、また純の手を押すを何度か繰り返す愛。


 このまま勝負はつかないと思っていると。


「らぶの本気を見せるよ! とりゃー!」


 力一杯純の手を叩こうとした愛は勢い余って、純の胸元に飛び込む。


「もごもごもごもごもごもご」

「あんっ。らぶちゃぁん、あんっ。しゃべ、らない、で、くすぐっ、たい、よ」


 エロい、エロいよ。


 愛が純の胸に顔を埋めたまま喋るから、くすぐったくて純が喘いでいる。


「もごもごもご。ぷはっ。こうちゃん! どっちが勝ったの?」


 顔を上げた愛が勝敗を聞いてきた。


 妄想が口から漏れないようにするのに必死でそれ所ではない。


 汗だくな男子が1人、汗だくな男子が2人、汗だくな男子が3人、汗だくな男子が………。


 もう……駄目……きもち……わる……い……吐き……そう……。


 急いでトイレに向かって走り、少し食べた晩御飯を全て吐いた。


「こうちゃん大丈夫?」


 ドア越しに愛の声が聞こえてくる。


 大丈夫と答えたいけど、吐き続けていて答えることができない。


 しばらくして、楽になってから自室に向かいベッドに倒れ込む。


 家に帰っている愛と純にスマホで、「お腹が壊して体調が悪いので寝ることにするね。色々してくれてありがとう」と送って目を閉じた。

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