21話目 幼馴染達の気遣い

 吐き気を催して目が覚める。


 電気をつける余裕もなくて、真っ暗な中を早足でトイレに向かう。


 最近まともに食事ができてないから出てくるのは胃液ばかりで、吐いても、吐いても、すっきりしない。


 水曜に初めて吐いてから次の日、その次の日も、そして土曜の今日も吐いている。


 流石に吐き過ぎだと思い、昨日の朝に病院に行ったけどどこにも異常はない。


 どうして吐いているのか……理由は分かっている。


 愛と純といる時は暴走しないように、常に男子のことを考えている。


 だから、気持ち悪くて吐いた。


 ある程度すっきりした。


 2度寝する気にはならなかったから、自室で私服に着替えてリビングに行く。


 電気を点けてキッチンで口の中を水でゆすぐ。


 何も食べないのは体に悪いな。


 青汁だけでも飲もうとしていると、ジャージ姿の純がリビングに入ってくる。


「おはよう。こうちゃんは今日何か用事ある?」

「おはよう。何もないけど、どうしてそう思ったの?」

「こうちゃんが朝早くにパジャマじゃない」

「喉が渇いて目が覚めて、眠気がなくなったからそのまま起きているだけだよ」


 嘘を吐いてしまう。


 吐き気がして目が覚めたなんて、心配をかけるから言えない。


 青汁を作りながら純に訊く。


「ココア作ろうか?」

「いらない。こうちゃん、こっちきて」


 呼ばれたので行くと、純はソファの下に座っていた。


 ソファを軽く叩きながら言う。


「こうちゃん、ここで寝て」

「急にどうしたの?」

「こうちゃんの顔色悪いから寝て」


 断る理由もないのでソファに仰向けで寝転がる。


「私にできることある?」

「キッチンに作った青汁があるから持って来てもらっていい?」

「おう」


 取りに行ってくれた青汁を座って飲もうとしていると純が聞いてきた。


「それ美味しい?」

「美味しいものではないよ。健康のために飲んでいるよ。いつまでも元気で、じゅんちゃんとらぶちゃんのそばにいたいからね」

「……おう」


 青汁を凝視しているので、興味を持ったのかもしれない。


「すごく苦いよ」


 そう言うと眉間に皺を寄せながら純は口を開く。


「私にも青汁を作ってほしい」

「すごく苦いけどいいの?」

「……おう」

「本当にすごく苦いけどいいの?」

「おう!」


 純がそこまで言うならしょうがない。


 新しく青汁を作って純に渡すと、おずおずとコップの飲み口に唇をつけて煽った。


「まずっ‼」


 1口で飲むのをやめて低い声で唸った。


「残りは僕が飲むから、ココアでも作ろうか?」

「最後まで飲む」


 顔を顰めている純は首を振る。


 苦しそうに飲んでいる姿を見たくないから提案する。


「青汁に蜂蜜を入れてみる?」

「蜂蜜入れても健康になれるの?」

「なれるよ。この青汁には入っていないけど、最初から蜂蜜が入っている青汁があるぐらいだかね」

「……お願いする」

「うん、いいよ」

「こうちゃん、……できれば、たくさん入れてほしい」

「分かった。たくさん入れるね」


 蜂蜜を入れた青汁を純に渡すと、頬を緩ませながら美味しそうに飲んでいる。


 純の笑顔を見ることができて元気になったから、リビングに掃除機をかけることにした。


 掃除機をかけていると白のワンピースを着た愛が入ってきた。


「おはよう! こうちゃん! じゅんちゃん!」


 僕と純が挨拶を返すと、愛は僕の所に来て掃除機を取り上げた。


「こうちゃんは働いたら駄目だよ! こうちゃんのお世話は、今日1日全部らぶとじゅんちゃんがするんだから!」


 愛はドヤ顔をしながら胸を叩く。


「じゅんちゃんと昨日こうちゃんの家を出てから話し合って決めたんだよ!」

「おう」


 愛も僕の体調が悪いことが分かっているから、気を遣ってくれているんだな。


 すごくありがたくて嬉しいけど、じっとしていたら余計な妄想をしてしまいそうなので断りたい。


「絶対今日1日、こうちゃんはゆっくりすること!」

「うん。分かった」


 でも、1度言い出したら折れないので、僕が折れるしかない。


 埃アレルギーの愛はマスクをして、ゴム手袋を装備する。


「よし、やるぞ! らぶは床を綺麗にするから、じゅんちゃんは窓を綺麗にして」

「おう」


 再びソファに横になって、2人が掃除をしている姿を呆然と見る。


「掃除機が暴れるよ! うわー、机に置いてたコップが割れたよ! 雑巾はどこにあるのか分からないよ!」

「らぶちゃん落ち着いて。私も一緒に雑巾探す」

「ありがとう! 雑巾ってどこにあるの?」

「分からないから探そう」


 2人は押入れの中を探し始める。


 雑巾は浴室の所に置いている。


 その場所を教えようと口を開こうとしたけど、「大丈夫だよ! らぶ達に任せて!」と愛に言われ止められる。


 数分後、僕の家で雑巾を見つけられなかった愛と純は愛の家に雑巾を取りに行く。


 愛の家には琴絵さんがいるから大丈夫だろ。


 数分して、手ぶらで戻ってくる。


「らぶの家になかったから、こうちゃんの家で雑巾を探すよ!」

「おう。まだ探してない所見てくる」


 琴絵さんがいなかったみたいだな。


「らぶちゃんとじゅんちゃんが休ましてくれたから元気になったよ!」


 わざとらしく大きな声を出した。


「だから、僕も一緒に掃除していいかな?」

「こうちゃんは本当に元気になった?」

「少しだけ吐き気はあるよ。でも、らぶちゃんとじゅんちゃんと何かしている方が元気になれるから僕も手伝っていいかな?」

「いいよ!」

「おう」


 愛と純の了承も得られたので、3人で掃除を始めた。

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