20話目 幼馴染達とキス?

 僕達が中学生の時に愛は、「らぶがこうちゃんに勝つまで、2度とこうちゃんの料理を食べないよ!」と発言した。


 それ以来、僕の料理を愛は食べてくれない。


 でも、昨日の火曜に弁当勝負で僕が愛に負けたから、水曜の今日は僕が作った料理を食べてくれる。


 3人で晩飯を食べるのが楽しみで仕方がない。


 喜んでばかりではなくて、考えないといけないことがある。


 それは、愛が辛党で純が甘党ということ。


 愛と純は自分の嫌いなものが、相手の大好物だと知っているから気を遣って嫌いなことを隠している。


 だから、別々の料理を作ると勘ぐるかもしれないので全員一緒のものを作ろう。


 普段作っているように甘めに調理すれば愛が食べられないし、少しでも辛くしたら純が食べられない。


 キッチンに立っている僕は、冷蔵を開いて頭の中で献立を組む。


 味付けだけを変えればいいな。


 作り始めて30分後に3人分の料理は完成した。


「じゅんちゃん、料理できたかららぶちゃんを起こして」

「おう」


 料理を机に並べながら、床に座りソファにもたれながら音楽を聴いている純に話しかける。


「らぶちゃん、こうちゃんの料理できた」


 イヤホンを外した純はソファで寝ている愛を優しく揺する。


「……もう食べられないよ」

「今からご飯だよ」

「……ご飯。らぶお腹空いたからご飯食べるよ!」


 勢いよく起き上がった愛は僕の隣の席に座り、純は僕の対面に座る。


「こうちゃん、このお好み焼きすごくおいしいよ!」

「おう。こうちゃん、美味しいよ」


 愛と純は満面の笑みで食べている。


 純と食事をするようになって、辛い食材や辛くする調味料が買わなくなった。


 家にあるのは、七味唐辛子ぐらい。


 普段使わないから何の料理に合うか分からない。


 なら作り慣れた料理に、愛の分だけ七味唐辛子を入れて味の調整をすればいい。


 味の調整がやりやすいので、お好み焼きを作ることにした。


 愛の食べるお好み焼きの生地とソースには七味を多めに入れ、純の食べる生地とソースには蜂蜜を少しに入れた。


 入れ過ぎると蜂蜜甘い匂いで愛が気持ち悪くなる。


 愛の分は少し自信がなかったから、美味しいと言われて安心する。


「どうやったら、もぐ、じゅんちゃんみたいに、もぐもぐ、速く走れるの?」

「らぶちゃん、喋るのは食べ終わってからだよ」


 そう言うと、頷いた愛は急いで咀嚼して飲み込んで純に訊く。


「どうやったらじゅんちゃんみたいに速く走れるの?」

「……」


 純は困った顔をして、僕を一瞥したので代わりに答える。


「じゅんちゃんは走ることが好きだから、走るのが速いんだよ」

「そうなんだね! らぶも走ることが好きになれば速くなれるかな?」

「らぶちゃんはどんなことでも楽しんでできているから速くなれるよ」

「やったー! らぶはもっと走るのを好きになるよ!」


 満足したように大きく頷いて愛は食事に戻る。


 愛と純が美味しそうに食べてくれるから、それだけ満足で食欲が湧いてこない。


 昔から食事を1日抜いても平気な体質だから、深く考えなくてもいいけど何日も続くなら病院に1度行ってみよう。


 余った僕のお好み焼きは大量に七味を掛けて、愛に食べてもらった。




 食事を終え、愛が運んできてくれた食器を洗う。


「こうちゃん、手伝うことある?」


 食器を運び終わった愛が聞いてきた。


「それじゃあ、スポンジで洗った食器を水で流してもらっていい?」

「うん!」


 机を拭き終わったのか、純がこっちに歩いてきた。


 急いで使った包丁を洗ってキッチンの引き出しに入れる。


「こうちゃん、何か手伝うことある?」

「らぶちゃんが洗い終わった食器を拭いてもらっていい?」

「おう」


 コップの汚れをスポンジで洗って、それを愛に渡そうとした時に眩暈がしてコップが僕の手から離れる。


 急いで摑もうとするけどできない。


 運よくコップはシンクに落ちて割れることはなかった。


 愛と純が心配そうに、僕のことを見ている。


「こうちゃん、顔が真っ青だよ! だいじょうぶ?」

「……大丈夫だよ」


 眩暈で体がふらつく。


「全然大丈夫そうじゃないから休むよ!」


 泡のついている手を洗った愛は僕の手を摑んで、ソファまで引っ張っていく。


「早く横になって! こうちゃんはいい子いい子! おやすみ!」


 愛の言う通りにソファに横になると、愛は僕の頭を1度撫でてからキッチンに戻って行く。


 鬼ごっこして走ったこともあって疲れているから、眩暈や吐き気があるのかもしれない。


 ……眠たくなってきて……瞼も重たくなってきた……。


「こうちゃん何かしてほしいことある?」

「私も何かすることある?」


 眠た過ぎて……今ここが夢なのか現実なのか曖昧になっている。


 僕がしてほしいこと、そんなこと決まっている。


 愛と純にしてほしいことは。


 愛が純に、


「キスをしてほしい」

「……キス⁉」

「……」


 甲高い震える声が聞こえて目を開けると、愛は顔が真っ赤になっていて、純は俯いて真っ赤な耳を押さえていた。


「らぶちゃんとじゅんちゃん、どうしたの?」

「……こうちゃんのエッチ!」

「……こうちゃんは私達にキスをしてほしい?」


 愛と純の反応を見て、僕の願望がもれていることに気づいて焦る。


「ほっぺにチュウならいいよ」

「頬にチュウならいいよ」


 しなくていいと伝えようとしたが先に愛と純が同時に言う。


 真剣な表情で2人が見てきたので断りにくいし、大好きな幼馴染達に頬チュウされるのは嬉しい。


「してもらっていい?」

「……うん」

「……おう」


 愛と純はゆっくりと僕の顔に近づいてくる。


 そこで気が付く。


 僕と愛達の顔も近づいているけど、同時に愛と純の顔も近づいている。


 避けたら2人がキスをしてしまう可能性があるかもしれない。


 駄目……そんなことを考えては駄目。


 汗まみれの男子の想像をして欲求を抑える。


 吐き気が酷くなり我慢するのが辛くなってきた。


「らぶちゃん、じゅんちゃん、ごめん。トイレに行かせて」


 頬チュウを中断してもらい、トイレに早足で向かう。


 今日の昼、晩は食べてなかったのでそんなに食べものを吐くことはなかったけど胃液が出た。


 長い時間トイレにいたら心配されるから、リビングに戻る。


「朝食に食べたパンが腐っていたのかな。全部だしたらすっきりしたよ」


 空元気を出しながら愛と純に言った。


「賞味期限はちゃんと見たいといけないよ!」

「らぶちゃんの言う通りだね! 今度から気を付けるよ」


 倒れそうになるのを我慢して愛と勉強をした。


 愛と純が帰ったのを見届けてからソファに倒れ込む。

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