19話目 幼馴染達と子ども達と下校鬼ごっこ

 休み時間に愛と純が手を繋いでいる所を見ても、汗臭そうな男子を想像するだけ2人の百合を見たい気持ちを抑えれるようになった。


 放課後、席を立ち上がろうとしていると、愛が教室に入ってきた。


「こうちゃん一緒に帰るよ!」

「部活は行かなくていいの?」

「エッチな漫画は描いてないよ‼」


 顔を真っ赤にして叫び、その言葉に全クラスメイトが愛のことを見る。


 女子はいいけど、男子がねっとりとした目で見ているから愛の手を握って教室を出た。


 歩きながら愛と話をする。


「今日の放課後用事はないの?」

「今日は暇だから一緒に帰るよ!」


 暇ってことは部活動がないってことかな。


 愛と一緒にいれる時間が増えるのは嬉しいから、深く考えない。


 純を迎えに校舎裏に向かう。


 待ち合わせをしているわけではないけど、大抵の場合純は校舎裏でイヤホンを使って音楽を聴いている。


 今日も校舎裏に純がいたので一緒に帰る。




 帰宅途中公園の近くを通っていると、愛は立ち止まる。


「こうちゃん! じゅんちゃん! 公園で遊ぼうよ!」


 僕と純は頷いて公園の敷地内に入ると、小学生ぐらいの子どもが走り回っている。


「みんな元気に楽しそうに遊んでるよ!」


 愛は興味津々といった顔でそれを眺めていると、坊主頭の小学生ぐらいの男子が愛の前にやってくる。


「お前もおれ達と鬼ごっこしたいのか?」

「お前じゃないよ! らぶだよ!」

「らぶも鬼ごっこしたいのか?」

「うん! やりたい!」

「特別におれ達の仲間にいてれやるよ。おーいみんな! この子も鬼ごっこしたいんだって!」


 そう叫ぶと走り回っていた子どもが坊主頭男子の周りに集まってくる。


「らぶって言うんだって」


 愛のことを坊主男子は指を差しながら言うと、ここにいる全て子どもの男子に愛が囲まれる。


「らぶはらぶって言うんだよ! よろしくね!」


 自己紹介をして微笑んだ愛を見て、男子達はうっとりしていた。


 見た目だけだと同い年と付き合うより、今ここにいる男子と付き合っている方がしっくりくる。


 しっくりくるから、尚更腹が立ってくる。


 僕の妹のような可愛い愛は誰にも渡さないと叫びたくなる。


 シスコンを振りかざして愛に嫌われたくないから黙っていると、坊主男子が声をかけてくる。


「お前はらぶのなんなの?」

「は?」


 思わず低い声が出る。


「おっさんだから耳が遠いんだな。もう1回言うぞ。お前はらぶのなんなの?」

「幼馴染だけど」

「それだけなのか?」


 苛立ちを我慢しながら答えると、坊主男子は嘲笑した。


 うん、目の前にいるのは子どもではなくガキだ。


 生意気なガキは社会の厳しさを教えないといけない。


「おい」


 冷静さをなくしていると、後ろから純の声がしたので振り返る。


 純に睨みつけられた坊主男子は1歩後退る。


「睨んでも、怖くないぞ」


 純は足を震わしている坊主男子に近づき、冷たい視線で見下ろす。


「こうちゃんを馬鹿にしたら、しばく」

「……」

「何か言え」

「……ごめん、なさい……」

「私じゃなくて、こうちゃんの方を見て言え」

「…………ごめ、ん、な、さい」

「許すから泣くな」

「……ごめ、ん、な、さい」

「もう泣くな」

「……ごめんな、さい……うわー!」


 坊主男子は大声を上げて泣き出し、純はどうすれいいか分からずあたふたとしていた。


 そこに愛がやってきて、泣いている坊主男子の手を取る。


「ごめんなさいがちゃんと言えてえらいね! じゅんちゃんも許してくれているから泣かなくていいよ!」

「……うん」


 坊主男子は愛の言葉に頷きながらも、自分の上着の袖で涙を拭った。


「こうちゃん、らぶちゃん、私先に帰る」


 子ども達の中のリーダーであるだろう坊主男子を泣かせたことで、子ども達は純を怖がっている。


 たぶん、純はそれを察して帰ると言っている。


 それに、僕と愛以外に興味がないから子ども達と遊びたくない気持ちもあると思う。


 純のその気持ちは僕も理解できる。


 どうでもいい人といるぐらいなら、1人でいた方が気楽。


 このまま先に帰ってもいいと思うけど。


「じゅんちゃんも一緒に遊ぶの!」


 愛が当然納得しない。


 大勢で遊んだ方が楽しくなると考えているから、こんな楽しいことに純を仲間外れにしたくないのだろう。


「私がいなくても鬼ごっこはできる」

「できるけど、じゅんちゃんがいた方がもっと鬼ごっこが楽しくなるよ! だから、じゅんちゃんもしよう!」


 世の中には小さい頃から一緒にいても、ものの見方が違うことで不仲になることがあるらしい。


 愛と純にはそうなってほしくない。


 こんな時こそ僕の出番。


 幼馴染だからこそ2人の長所から短所まで知り尽くしていて、どう生かせばいいか分かっている。


 空気をたくさん吸う。


「今から下校鬼するよ! 捕まった人は家に帰るんだよ! 鬼は僕がするから! はい、スタート!」


 お腹に溜まった空気を吐き出すように叫ぶ。


 急な提案に理解できない子ども達。


 愛が「逃げるよ!」と言うと、一斉に逃げ始めた。


 走るのは得意ではないけど、子どもを捕まえるぐらいは簡単。


 最初に坊主男子を追いかけると距離が縮まって拳1個分ぐらいで手が届きそう。


「まだ、帰りたくない! もっと、遊びたい!」


 坊主男子が必死に走り息を切らしながらそう言った瞬間、颯爽と純が現れて坊主男子を抱えて逃げ去る。


「すごい、すごいよ! お姉ちゃん!」


 抱えられた坊主男子の声が遠くから聞こえてきた。


 それから、子どもを追うけど捕まりそうになったら純が助ける。


 子どもの親が迎えにくるまで誰1人も捕まらなかった。


「じゅんちゃんは子ども達に大人気だったね! 今度鬼ごっこしたら、らぶが子ども達を助けるよ!」


 愛の言う通り下校鬼ごっこが続くにつれ、子ども達が純のことを尊敬のまなざしで見るようになった。


 子どもの頃から純は見た目や人付き合いが苦手で怖がられることが多い。


 でも、実際に関われば無意味に他人を傷つけないことや、頼りになることが伝わる。


「こうちゃん、鬼ごっこ楽しかった」


 帰宅途中で純が微笑みながら言う。


 純が楽しめたのなら、むかつく坊主男子がいてもまた子ども達と僕達で遊んでもいいかな。

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