16話目 幼馴染達との大切な思い出
目を開けると、母がいた。
「こうちゃんは、お母さんに家にいてほしい? それともこの家をこうちゃんに任せてもいいかしら?」
会うのは久しぶりだな。
目の前にいる母がやけに若いことに気づいて、夢を見ていることが分かった。
なんて答えたのか覚えていないけど、口が勝手に喋り出す。
「僕は1人で大丈夫だから、母さんは仕事しなよ」
「分かった。こうちゃんはわたしよりしっかりしているから安心し任せられるわ」
それから、家事の内容と1人暮らしにするにあたって注意することの説明を聞く。
リビング、自室などの良く使う部屋は小まめに掃除して、母と父の部屋は使わなくても埃が溜まるので週1で掃除すること。
食事は毎日三食食べること。
カップラーメンのように栄養に偏るものばかり食べるのではなく、自炊をして野菜をきちんと取ること。
ゴミはきちんと分別して、月水金が燃えるゴミで、火木土が燃えないゴミの日だから間違いがないように出すこと。
それから、細々と言われたこと全部をメモ帳に書いていく。
「分からないことはある?」
「大丈夫だよ」
そう答えると母から茶封筒を渡されて、中には1万円札が5枚入っていた。
「こんなにもらっていいの?」
「生活するのにはたくさんお金がかかるから考えて使ってね」
「分かったよ」
僕の返事を聞いた母は安心したように微笑み、スーツケースを持ってリビングから出て行く。
見送った僕の体は勝手に動き出す。
封筒を手にして2階の自室に向かい、机に置いていた財布に1万円入れ、残りが入った封筒は勉強机の引き出しに入れた。
リビングに戻って引き出しにしまっている掃除機を取り出して、この部屋に掃除機をかける。
母に家を任されたのは確か小学1年の時。
だから、夢の中の僕は体が小さくてリビングを掃除するだけでも一苦労。
掃除が終わり掃除機のコンセントを抜いて、掃除機を持ったままリビングを出る。
次は2階の自室を掃除したんだったな。
うろ覚えの記憶通りに、階段を上がっていく。
掃除機が重くて油断すると後ろに倒れそうになる。
慎重にゆっくりと階段を上り切り、自室に向かう。
ものがあまりなくて狭い自室は、すぐに掃除が終わった。
掃除機を持って階段を上るよりも下ることの倍ぐらい時間がかかる。
この経験があったから節約して最初に買った物は掃除機だったんだよな。
掃除を終えて自室に向かい、机に置いてある財布と、小学校の入学祝に買ってもらったスマホをポケットに入れる。
玄関に行き、靴を履き替えて買い物に出かけた。
初めての買い物だったから、母と普段行くスーパーに向かった。
この時少し不安になったことを思い出す。
大人と一緒に買い物に行くのと、1人で行くのでは周りの見える景色が変わったように見えたから。
まるで違う世界に迷い込んだようで怖かった。
スーパーに着いたのはいいけど、この頃の僕は何を作ればいいか分からかった。
スマホで『野菜、料理』と検索して美味しそうだと思ったものを作ることにして、そのレシピ通りに買い物をした。
「百合中さんの所の幸君だね。ママと一緒にきたのかい?」
「1人できました」
「小さいのに偉いね」
「そんなことないですよ」
見覚えのある中年の女性と話すのに緊張しながらお金を払う。
「はい。お釣りね。なくさないように気をつけるんだよ」
「ありがとうございます」
初めてお釣りとレシートを貰って嬉しくて買い物袋を揺らしながら自宅に向かって走る。
★★★
買い物を無事に終えて、スマホを見ながらレシピ通りに、ロールキャベツとツナサラダを作った。
ご飯を炊くのを忘れていたから、おかずだけを食べる。
ロールキャベツのキャベツが破けていたり、ツナサラダの野菜が歪な形をしていた。
味は初めてにしては美味しかったことをなんとなく覚えている。
晩御飯を食べ終わっても外はまだ明るい。
いつもだったら、19時ぐらいに食べるのに、まだ17時もきてなかった。
後片付けが終わり、風呂に入ってから、ソファに座りテレビを見る。
ゲームをしたり、漫画を読んだりすることはなく、小さい頃は呆然とテレビを見ることが多かった。
日が落ちて部屋の中が暗くなる。
面倒なので電気はつけない。
アニメに興味がない僕でも分かる国民的アニメが流れる。
駄目な小学生男子がロボットに助けてもらう話。
懐かしいので真剣に観たい。
……瞼が無意識に下がって……僕は……夢の中で意識を……手放した。
目を開けると、テレビが消えて部屋の中が真っ暗。
体を起こそうとしても自由に体を動かすことができないから、まだ夢の中だな。
「お母さん……お父さん……」
弱々しい声が口から漏れる。
不安が心の底から湧き上り、瞳が熱くなり、涙をこぼしてしまう。
立ち上がることをせずに丸まったままソファで泣き続けた。
この頃の僕は周りの子どもよりも大人びていたし、周りの大人に頼られることが多かった。
でも、小学生はまだ子ども。
1人で家のことを全部することなんて無理で、1人で家にいることさえ難しい。
この後、どうなったのか記憶が曖昧。
泣きつかれて寝たのかもしれないし、勇気を出して自室に戻って寝たのかもしれない。
まあ、その内目が覚めてこの辛い気持ちも忘れる。
だから、何も考えなくていいかと思っていると、急に部屋の明かりが点く。
出入口にいたのは、幼い愛と純だった……愛の見た目は今とそんなに変わっていない。
「こうちゃん、おはよう。お腹空いてる?」
愛はカレーの匂いがする鍋を持ちながらそう聞いてきた。
泣き疲れているからなのか声は出なかったので首を縦に振る。
「らぶが、カレーを作るから椅子に座って待ってて」
そう言って、レンジでカレーを温めるためにキッチンに向かった。
椅子に座ると、純は僕の隣に座り手を握ってくる。
手だけではなくて、心までポカポカしてくる。
「らぶちゃん、カレー美味しいよ!」
しばらくして、温めてくれたカレーを食べていると。
「「グ~~~~~~~~~~」」
愛と純のお腹が鳴る。
2人は恥ずかしそうに僕から視線を逸らす。
椅子から下りて、キッチンからスプーンを2つ持ってきて愛と純に渡す。
「こうちゃんの分だから、らぶは食べないよ」
「私も食べない」
「みんなで食べた方が美味しいから、一緒に食べよう」
愛と純は顔を見つめ合ってから頷く。
2人は僕にお礼を言ってからいただきますをして食べ始める。
3人でカレーを完食した。
お腹一杯になった僕達は横に並んでソファに座り眠る。
あれだけ寂しいと思っていた気持ちが嘘のようにとけてなくなり、心がぽかぽかと温かくなった。
……目を覚ますとベッドの上にいた。
自由に体を動かせられるので、今は夢ではない。
そういや、愛と純のために行動し始めたのは、3人でカレーを食べた後だったことを思い出す。
初めての1暮らしで寂しくて泣いていた僕を救ってくれた愛と純のために恩返しがしたかった。
2人と一緒にいる時間が増えると、妹のように可愛くなってそばにずっといたいという気持ちに変わる。
暗い部屋の中を歩いて机の前に行き、鞄からスマホを取り出しベッドに戻る。
少しエッチな百合画像を見ても、妄想することを我慢できた。
愛と純がどれだけ僕を幸せにしてくれたか再確認できた。
2人の幸せのためだったらどんなことだってできる。
そっと目を瞑った。
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