15話目 幼馴染達に百合対策

 昼休みの純が愛にした頬チュウを見てから、僕の体に変化があった。


 2人が一緒にいる所見ると、妄想したことを口に出しそうになっている。


 例えば5時間目後の休み時間にきた恋と純に、今繋いでいる手を絡ませて恋人繋ぎをしてほしいとか、愛に純の手を強く引っ張って自分の方に引き寄せてから抱きしめてほしいとか。


 してほしいことが次々と頭に浮かんで、それが出てくるたびに口に出しそうになる。


 妄想が口から漏れてしまう前に対処法を探さないといけない。


 純と2人で下校しながら考える。


 愛が部活で本当に助かった。


 どちらか1人なら妄想が暴走することはない。


「こうちゃん」


 名前を呼ばれたので僕の後ろを歩く純に視線を向ける。


「こうちゃんは……私に頬チュウされたい?」


 チュウと聞いて今日の昼のことを思い出しそうになる。


「じゅんちゃんのように格好よくて可愛い女子に誰だって頬チュウをされたいよ」

「……こうちゃんもされたい?」

「うん、もちろんだよ」

「……おう」


 少し俯いていたけど、微笑んでいるのが分かった。


 この笑顔を守る為に、百合好きだと言うことは絶対に隠さないといけない。


「……する?」

「じゅんちゃん、何か言った?」

「……何でもない」


 純は早足で歩き出したのでついていく。




 自宅に着いて純はソファに座って、イヤホンで音楽を聴き始める。


 料理をしながら、欲求を抑える方法を考えることにした。


 色々とスマホで検索してみたけど、根本的な解決方法は見つからない。


 でも、できることがないわけではない。


 愛と純、2人が一緒にいると妄想が暴走する。


 だから、1対1で関わるようにすればいい。


 ……それはそれで難しい。


 基本的に僕達は3人でいることが多い。


 愛と2人になるのは、朝迎えに行って、純の家に迎えに行くまで。


 純と2人になるのは放課後から愛の勉強時間が始まるまで。


 休日はほとんど一緒にいる。


 1対1で関わるのも限界があるな……我慢するしか選択肢がない。


 今の状態を言ってしまえば、高校生になって思春期を迎えた男子が女子を意識しているみたいなもの。


 恋人のいない男子は欲求を満たせなくても暴走することはほとんどない。


 その辺の男子ができているのなら、僕にだってできる。


 なんて、今欲するものが目の前にないから言えたのだとすぐに後悔する。



★★★



 21時前に勉強をしにきた愛はピンクの淡いシースルーロングワンピースを着ていた。


 純はパジャマ姿なので、愛と純が並ぶと、お洒落と日常でアンバランスな感じがして、それがなぜかツボにはまる。



『おしゃれじゃないじゅんちゃんに服なんていらないよ! らぶがじゅんちゃんの服を脱がせるよ!』

『……らぶちゃん、やめて』

『やめないよ! ほら、じゅんちゃんは何も着てない方が可愛いよ! 裸になったじゅんちゃんはらぶに何をしてほしい?』

『……』

『質問に答えないじゅんちゃんにはお仕置きするよ!」



 愛は全身真っ赤な純のありとあらゆる所を焦らしながら触っていく。


 妄想が口から出そうになって飲み込む。


 僕の前にやってくる愛。


「お母さんが新しい服買ってくれたんだよ! こうちゃん、見て見て! 似合う? らぶおしゃれ? 大人のお姉さんに見える?」

「……可愛いよ」

「らぶは可愛くないよ! お姉さんだから大人っぽいから可愛いじゃなくて綺麗だよ!」

「……そうだね。……いつものらぶちゃんより、大人っぽく見えて綺麗だよ」

「やったー! こうちゃんが褒めてくれたよ!」


 興奮を抑えながらどうにか言葉を返す。


 微笑んだ愛は純の所に行く。


「純ちゃんも、見て見て!」

「おう。綺麗に見える」


 愛も純も可愛くて綺麗だから、キスしようか? 


 今すぐしようか?


 駄目。


 駄目!


 唇を噛んで口を押える。


 少しでも油断していたら、妄想が口から出る。


「じゅんちゃんも一緒におしゃれしようよ!」

「私には似合わない」

「そんなことないよ! じゅんちゃんはかわいいよ!」

「そう?」

「そうだよ! じゅんちゃんはとっても可愛いよ! らぶのお嫁さんにしたいぐらい可愛いよ!」


 お嫁さんというワードを聞いて、2人が花嫁姿で誓いのキスをしている所が映像として流れる。


 早く愛と純の結婚式をあげよう。


 お金なら僕の全財産を使えばいいから……自分の頬を叩いて痛みで欲求を抑える。


 この空間にいたら、絶対に妄想を口にしてしまうから避難することにした。


 トイレに籠り時間がどれだけ経っても妄想が落ち着くことがないから、リビングに戻ることができない。


 トイレがノックされる。


「お腹の調子大丈夫?」

「大丈夫だよ。もう少ししたらお腹の調子もよくなると思う」

「おう。らぶちゃんには私が勉強教えたから安心して。それから、らぶちゃんは寝ているから送って行く」

「ありがとう、じゅんちゃん」

「おう。おやすみ、こうちゃん」


 純の足音が遠のいて、玄関が閉まる音がした。


 自室に行きベッドに転がり呆然としていると、百合画像を検索したくなった。


 妄想をするなら参考画像があった方が、妄想の幅が広がる。


 だから、駄目だって。


 今しないといけないのは幼馴染で百合な妄想をすることではなく、妄想をしなくなる方法を考えること。


 近くにスマホがあると無意識に触ってしまいそう。


 机の上に置いている学校の鞄の中にスマホをいれることにした。


 このままでは余計なことばかりが頭に浮かぶので寝よう。


 ベッドに戻り横になって、電気を消して毛布を被って目を瞑る。


「……」


 眠れない……そう言えば、今日の朝目覚めることができなかった。


 部屋の電気をつけて、立ち上がり鞄からスマホを取り出して目覚ましを6時にセットして眠る。


 これで、遅刻することはない……そういえばスマホをマナーモードにしたまま。


 スマホはマナーモードにすると、アラームでも音が鳴らなくなる。


 電気をつけ立ち上がり、マナーモードを解除してベッドに戻り眠る。


「……」


 普段は寝つきがいい方なのに、今日の夜は布団に入ってから寝るのに1時間以上かかった気がする。

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