14話目 小さな幼馴染と弁当勝負
1時間目の英語の授業を聞きながら、睡魔と戦う。
昨日遅くまで起きていたことと、走って学校までの急な上り坂を全力疾走した所為で気を抜いたらすぐに寝てしまう。
ノートを書く時間がほしいと言った生徒がいて、しばらく板書する時間になる。
書き終わっているから呆然としていると……寝そうになった。
脳を働かせれば寝ないだろうと考え、昨日のことを思い出す。
愛と純が帰った後、自室のベッドの上で悶えていた。
幼馴染2人が手を繋いでいるのを見ているだけで、生まれて初めてぐらいの高揚感があって、今にも心臓が破裂しそう。
『百合 キス 画像』
いつの間にかスマホで検索していた。
女子同士でキスをする画像がたくさん表示される。
その画像の女子を愛と純に脳内で入れ替えてみる。
妄想が加速する。
身長が高くて鋭い目つきをしている純の方が攻めに向いているけど、その純が自分よりかなり身長の低い小動物のように可愛い愛に顎を掴まれて顔を真っ赤にしている。
ゆっくりと愛の唇が純の唇に近づいてくる。純は恥ずかしくて顔を逸らしたいけど、愛の大きな瞳に見入って動くことができない。
もう少しで2人の唇が重なり合おうとして愛が動きを止めてこう言う。
「らぶが欲しかったら、じゅんちゃんかららぶの唇を奪いにきて!」
愛の攻めで純の受けの、愛×純は最高だぜ――!
それから、少しエッチな百合画像を検索しながら幼馴染で妄想を続ける。
気が付くと今日が終わっていた。
そろそろ寝ないと明日と言うか今日起きるのが厳しくなる。
電気を消して、毛布を被る。
興奮が収まらず寝ることができない。
じっとしていても眠れそうにない。
明日の弁当の準備をしよう。
純の好物の肉団子や甘めの卵焼きなどを作っていると、心が落ち着いてきたような気がした。
冷静になったから気付きたくない事実に気づく。
それは、幼馴染を百合として見ている自分が受け入れられない可能性があること。
有名な百合漫画、アニメはこの世にたくさんあるし、ネットで百合好きの人達が語り合う掲示板もあった。
百合はマイナー過ぎる分野ではなく、一定の数は存在することが証明されている。
しかし、二次元な百合を好きになったわけでもなく、僕と関係ないアダルトな三次元の百合を好きになったわけでもない。
家族のように妹のように思っている2人の幼馴染を百合としていやらしい妄想をしている。
妄想だけで済めばいい。
でも、2人を百合展開になるように行動し始めるかもしれない。
純は自分の体を触ってほしいと思ったことを変態だと嘆いていたけど、本当の変態は幼馴染2人で百合妄想をしてはぁはぁしている僕。
愛と純にだけは嫌われたくない。
百合好きなことはばれないようにしないといけないな。
チャイムの音で授業がもう終わっていることに気づく。
前に書かれている英文が変わっていたので急いで板書した。
★★★
昼休み僕達は屋上に向かって、廊下を歩いていると生徒の噂話を耳にする。
「屋上って不良の溜まり場なんだよね?」
「そうらしいよ。3年の男子が数人で占領して、入ってきた生徒からお金を巻き上げているんだって」
「でも、その3年の男子、1年の女子に負けたらしよ。まあ、あくまでも噂だと思うけど」
「そうだよね」
昼休みの屋上で僕達以外誰も生徒を見かけなったのはそれが理由なんだな。
少し前に純に絡んできた男子が坂上高校最強の津下を純が倒したと言っていた。
純がいるから不良達は屋上にこれないのだろう。
僕達だけでのんびりできる場所がある方がいいので、このままにしておこう。
屋上に着き、フェンス近くまで行き座ると、両隣に2人が座る。
弁当を取り出そうとしていると目を輝かせながら愛が言う。
「昨日テレビで料理勝負に勝った人がほっぺにチュウをしてもらって、嬉しそうだったよ! らぶもされてみたい!」
ん? 頬にチュウだと……。
妄想しそうになったので目を閉じて心を無にする。
「じゅんちゃん! らぶが勝ったら、らぶの頬にチュウしてね!」
「…………」
「だめ?」
「……いいけど、らぶちゃんはエッチなのが苦手じゃないの?」
「らぶはエッチじゃないよ!」
「キスはエッチじゃない?」
「……口と……口の……キスは……エッチだけど、頬にチュウはエッチじゃないよ!」
「……いいけど」
渋々と頷く純。
愛と純の会話が初々しくていいな。
って。
「いいの⁉」
驚いて叫んでしまう。
「……おう、いいよ」
少しはにかんで純は言う。
もう1度頬チュウが見られる。
今回は前回とは逆で純が愛にする。
愛が攻めで純が受けの、愛×純推しの僕でも拝みたくなるほど嬉しい。
いや、駄目!
もし、ここで純が愛に頬チュウをすれば、僕が僕でなくなる自信がある。
頬チュウを阻止しないといけない。
これまでに1度も愛との弁当勝負で負けたことはないから焦る必要もない。
そうだよ。
いつも通り、純のために作った弁当を渡して、僕が純に頬チュウをしてもらえばいい。
布の手提げ袋から弁当箱を2つ取り出し、僕用の弁当を純に渡す。
……………………あれ?
なんで純に、健康重視で味を全く気にしていない弁当を渡している?
弁当を渡し間違えたことを言おうとしたけど、既に純は弁当の蓋を開けて固まっていた。
白米の上にこれでもかと緑色の粉が振りかけられていて、それ以外のおかずは全くない。
作った僕でも、これは弁当ではないと言える。
純は喉を鳴らし後、口に掻き込んで盛大にむせた。
謝ると純は残っていた青汁ご飯を口に全部入れて、水で流して飲み込む。
「……コウチャン、オイシ、カッタヨ」
顔を青白くした純が苦笑いをする。
純の優しい嘘で心が痛い。
……まだ諦めるには早い。
愛の激辛料理だったらもしかしたら勝てるかもしれない。
愛の弁当を見るといつも真っ赤な色合いなのに今日は違う。
生姜焼き、ほうれん草のお浸し、ミニオムレツ、ミニトマトが本来の色をして、ハバネロソースがかかっている痕跡がない。
中にハバネロソースが入っているかもと警戒したのか、純がおずおずとミニオムレツを口に入れようとしていると。
「じゅんちゃんちょっと待って!」
「……」
純はそのままの姿勢で止まる。
「昨日夜にハバネロソースを全部使ってしまって、今日の弁当にはハバネロソースが入っていないよ! だから、美味しくないかもしれないけどじゅんちゃんは食べてくれる?」
「らぶちゃんが作ってくれたものだったら喜んで食べる」
純は勢いよくミニオムレツを全て口の中に入れて咀嚼する。
「美味しい。らぶちゃん凄く美味しい」
嘘偽りのない満面の笑みを純は愛に向ける。
「物足りたい気がするよ!」
愛は純と同じものが入った自分用の弁当を食べて、不満そうにしている。
「らぶちゃんの……勝ち」
愛の弁当を完食した純は僕の方を見ながら申し訳なさそうに言った。
初めての敗北に、悔しい気持ちは全くなく、罪悪感だけが重くのしかかる。
頬チュウを見たくて、純に不味い弁当を食べさせてしまったことを本当に後悔している。
「じゅんちゃんここにちょうだい!」
愛は自分の右頬を人差し指で突きながら、純のことを上目遣いで見る。
「……おう」
愛の前で屈んで、ゆっくりと頬に純の唇は近づけていく。
最後まで見たら駄目だと分かっているのに、目を逸らすことができない。
「するよ」
「うん! どんとこいだよ!」
純の薄い唇が愛のマシュマロのように柔らかそうな頬に当たる。
ぐはっ⁉ 尊い~~~~~~!
叫びたい! 今度は唇同士でキスをしてほしいと! 純の薄い唇を愛の小さな口で塞いでほしいと叫びたい‼
妄想が止まらない‼
「初めてこうちゃんに料理勝負に勝てたよ! 今度の勝負も負けないよ!」
「……」
「こうちゃん! らぶの声聞こえてる?」
「……」
「こうちゃん! こうちゃん‼」
「……聞こえてるよ。反応しなくてごめんね」
やばい現実世界にもう少しで帰って来られなくなりそうだった。
「今度はらぶちゃんとじゅんちゃんの」
自分の口を急いで塞ぐ。
心で思っていたことを口に出してしまったから。
口同士でしてほしいとは最後まで言わなかったのは救いだな。
でも、不思議そうな顔をして2人が僕を見ている。
「今度は僕が勝って、じゅんに頬にチュウしてもらうために頑張るよ!」
笑いながら誤魔化すと、愛は「次もこうちゃんに負けないよ!」と言い、純は俯いて耳を赤くして小さく頷いた。
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