13話目 幼馴染達とゴール
目を覚まして、枕元に置いているスマホを手探りで見つける。
タップして画面を見ると6時。
いつも起きている時間だけど、昨日夜遅くまで起きていたからまだ眠たい。
愛の家には7時までに行けば、余裕をもって登校できる。
純用の弁当のおかずは昨日の内に準備できているから2,3分あれば大丈夫。
スマホでアラームを30分後にセットして2度寝することにした。
「おはよう! こうちゃん朝だよ! おはよう! 起きて! こうちゃん起きて!」
体を揺すられて意識が覚醒していく。
目を開けると愛がいた。
「こうちゃんやっと起きた! おはよう! 早くしないと遅刻するよ!」
枕元あたりに置いていたスマホで時間を確認すると8時を過ぎている。
学校が始まるのが8時40分で、ここから学校まで徒歩20分ぐらい。
……準備する時間が20分もない。
純を起こす時間を入れるなら、今から10後には自宅から出て行きたい。
僕が起こしに行くよりいい方法が頭に浮かぶ。
「らぶちゃん先にじゅんちゃんを起こしに行ってもらっていいかな?」
「いいよ! お姉さんにまかせてよ!」
自信満々に胸を叩いて部屋を出て行く。
急いで制服に着替えてキッチンに行き弁当の準備をする。
ご飯と冷蔵庫に入れているおかずを純の弁当箱に詰める。
僕の弁当はご飯を弁当箱全部に詰めて、上から青汁の粉をふりかけた。
よし、純を起こして登校しても少しは時間に余裕がある。
鞄と弁当箱を持って純の家に向かった。
純の部屋のドアを開けるとそこには天国みたいな光景が広がっていた。
愛が……ベッドで寝ている純の上に乗って抱きしめていた……いつもの光景なのに見惚れる。
まずはじっくり裸眼で今の状態を見て楽しんでから、スマホを取り出していつでも見られるように撮影。
上から取ると愛の顔が見ないので、横から撮る。
時間を忘れて、何度何度も撮って満足したって、こんなことしている場合ではない。
2人に百合好きだとばれないように行動をすると誓ったのに、無意識で行動していたことを反省する。
スマホを見ると、今すぐここから出ないと遅刻する時間。
愛を抱えて、純を強めに揺する。
「じゅんちゃん遅刻しそうだから早く起きて」
目を開けた純に今の状況を伝える。
立ち上がり着替えようとしたから、愛を抱えたまま廊下に出た。
「おはよ……う! 何でらぶはこうちゃんに抱えられているの! らぶがお姉さんだから、らぶがこうちゃんを抱えるの!」
階段を下りていると目を覚ました愛が暴れ出す。
「らぶちゃんここで暴れると危ないからもうちょっと待って」
「危なくないから今すぐ下ろして! お姉さん命令だよ!」
急いで1階に行き中腰になって愛から手を放していると、制服姿の純が現れた。
僕達は外に出て、早足で学校に向かう。
「らぶちゃん、こうちゃん、今日は寝坊してごめんね」
足を止めないまま、前にいる2人に謝ると純が僕の横にくる。
「私はいつも遅くまで寝ているから人のこと言えない。こうちゃんは謝らなくいい」
「じゅんちゃんは朝弱いから仕方ないよ」
「それは違う。朝が弱いのはただの甘え。直さないといけない」
「僕はじゅんちゃんを起こすのは好きだよ。だから、直さなくていいよ」
「……おう。こうちゃん、いつもありがとう」
純は僕を一瞥して感謝を行ってから少し俯く。
「まだ、まだ、がんばる、ぞ」
亀より遅く歩き始めた愛が覇気のない声を出した。
僕達は愛のペースに合わせている。
「抱っこしようか?」
「……しなぐて……いい」
体力に余裕があるからそう言ったけど断られる。
でも、愛の体力は限界に近い。
虚ろな瞳をして、1歩1歩を必死に前に出している。
愛の体は小学生並みで、僕達と歩幅が違う。
僕と純の早足が愛にとっては走ることと大差ない。
それに、体力があまりない。
普段だったら僕達の早足に合わせて1,2分走っただけでも倒れてしまう。
もう5分以上走っているのでいつ倒れてもおかしくない。
頑張っているのに、その努力が実らずに学校に遅刻するのだけは避けたい。
少し考えて、遅刻しない方法が思いついたので立ち止まる。
愛と純も立ち止まったので、思いついたことを口にする。
「らぶちゃん、今から勝負をしようよ」
「……しょ……ぶ?」
「そう。勝負だよ」
「やったー! 勝負する!」
ぜぇぜぇ言っていた愛だけど、勝負と聞いて元気を取り戻した。
「勝負内容は、学校まで競争するんだよ」
「かけっこだね! がんばるよ! らぶが数字を数えるね! 0になったらスタートだよ! 3! 2! 1!」
「らぶちゃん、少し待って」
走り出そうとする愛にストップをかける。
「昨日眠れなくて、らぶちゃんに勝てる自信がないから先に走らしてもらっていいかな?」
「いいよ!」
「ありがとう。でも、僕ばっかりが有利になるのはいけないから、らぶちゃんはじゅんちゃんとチームを組んでもらっていい?」
「1人で大丈夫だよ! じゅんちゃんはこうちゃんとチームを組めばいいよ!」
こう言えば、僕に勝ちたい愛が純に抱っこかおんぶをしてもらうだろうと思ったが違った。
「それだと、僕が有利すぎて、らぶちゃんに悪いよ」
「大丈夫だよ! それでもらぶが勝つから!」
やる気に満ちた愛を説得するのは難しい。
「ワタシ、ネオキダカラ、ヒトリデハシッタラ、アブナイナ。ドウシタライイカナ、コマッタナ」
純が片言で愛に向かって話す。
「デモ、ショウブ、ニハ、カチタイ。コマッタナ。ドコカニ、タヨリニナル、オネエサン、イナイカナ?」
「……いるよ!」
愛は純に意味ありげな視線を送ってから、大きく手を挙げる。
「ここにいるよ! 頼りになるお姉さんがここにいるよ! じゅんちゃん! らぶとチームになってこうちゃんに勝つよ!」
「らぶちゃん、ありがとう」
純は嘘を吐くことが苦手で、その時に片言になる。
優しい嘘を前にして急いでいるのに心が穏やかになる。
でも、それは一瞬だけだった。
「じゅんちゃん! 早くらぶの背中にのって!」
愛は純に背中を見せてしゃがむ。
困惑した顔で愛のことを見る純。
純は愛を抱えるために一芝居を打ったのだろう。
考えてくれた純の作戦を無駄にしたくない。
「らぶちゃん、じゅんちゃん先に行ってるね! このままだったら僕が先に学校に着くよ!」
学校に向かって走り出す。
意地を張ることが多い愛だけど、それ以上に勝負で幼馴染に負けたくない気持ちが強い。
だから、先に行き、気持ちを焦らせればいい。
「じゅんちゃん! 早い! 早い! こうちゃん! 追いついたよ!」
坂を上って校門が見えてきた所で、純達は僕の隣に並ぶ。
純の背中に乗っている愛が笑顔でそう言った。
「2人とも早いね」
愛はドヤ顔をする。
「らぶとじゅんちゃんが力を合わせたから当然だよ!」
「おう」
「じゅんちゃん! もう少しでゴールだよ! こうちゃんに勝てるよ!」
「おう」
愛の叫ぶ声に、純は冷静に言葉を返した。
「僕も負けないよ!」
3人で走ることが楽しくて、足がつりそうになるけど気にならない。
学校に向かっていると言うより、遊んでいる感覚に近い。
長い長い坂道を上り終えて。
「「「ゴール!」」」
僕達は学校に到着して一緒に大声を出すと、チャイムが鳴った。
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