12話目 幼馴染達の百合に恋する
放課後校舎裏に行くと、純は壁に凭れて座りってイヤホンで音楽を聴いていた。
歌っていないから話しかける。
「じゅんちゃん帰ろう」
「おう」
愛と純が一緒にいると、どっちに恋をしている分かりにくいので個別で確かめる。
方法については、6時間目にスマホで調べて3つ候補を出している。
視線を合わせ続けること、好きだと言うこと、触れること。
前から順に試していく。
異性と意識している相手には目を合わせるだけで緊張して目を逸らしてしまうらしい。
立ち上がった、純の顔を見つめる。
「……」
「…………何?」
見続けていると、純は俯いて耳を少し赤くしてから呟く。
全くと言っていいほど、心臓が高鳴らなく、いつ通りの安心感しかない。
「じゅんちゃんの照れている顔可愛くて好きだよ」
異性と意識している相手には好きと中々言えないらしいが、簡単に言えた。
「…………」
純の耳が真っ赤になり、自分の両手で耳を隠す。
最後の手を試す。
異性と意識している相手には中々触れることができないらしいけど、そんなことはなかった。
普通に頭を撫でることができた。
そもそもドキドキするようになってから、普通に頭を撫でていたことを思い出した。
頭ではいけないのかと思い、頬に触ってみるけど全くドキドキしない。
純は何も言わずに体を震わせながら、僕にされるがまま。
どうやら僕が恋をしているのは純ではなく、愛の方だったらしい。
確かに、純には触ったけど、愛には嫌がられて触っていない。
でも、愛に恋をしているのかって思ってもあまりピンと来ない。
「…………こうちゃん」
純の震えた声を聞き、正気に戻り手を離す。
僕がした行動を冷静に考察する。
理由もなく僕に頬を撫でられた純は震えている。
高校生になった僕達には行き過ぎたスキンシップに純は嫌がっている。
誤魔化したいけど純に対して嘘を吐きたくない。
でも、素直に純に恋しているからどうか確かめるために触ったとは言えるわけがない。
悩んでいると、純が顔を上げる。
「組手しよう」
「……うん」
純の有無を言わせない力強い言葉に思わず頷く。
僕と純は対面に向き合う。
構えて、軽くステップを踏みながら純の隙を探す。
純は構えることなく両手を広げて僕に近づいてくる。
普段の純なら小刻みに攻撃してくるのでどう対処していいか分からない。
そもそも戦おうとしていることがおかしい。
嫌な思いをさせたのだから、純の気が済むままぼこぼこにされよう。
髪で隠れていない右目の目力が強くなり、立ち止まっている僕を優しく抱きしめた。
爽やかな林檎のいい匂いがしてくる。
「……甘えるの我慢してるのに、こうちゃんにたくさん触られると我慢できなくなる」
「じゅんちゃん何て言ったの?」
「……何でもない」
純は抱き着く力を強めたので、黙って純の温もりを感じる。
どれぐらい時間が経ったのか分からない。
明るかった空が暮れてきているので大分時間が経った。
純はそっと僕を離して、自宅の方に向かって歩き始める。
急に組手をしようと言ったり、抱きしめたりしてきたのか分からない。
嫌われてはいないみたいで安心した。
★★★
晩飯を食べ終わり食器を洗ってから、リビングに行く。
ソファに座っている純の隣に座る。
していたイヤホンを外しながら、人1個分間を開けて僕がいない方による。
「…………」
あれ?
抱きしめらたことで純に嫌われていないと思ったけど、そうじゃなかったのかな。
嫌いになったのか聞きたいけど、肯定されるのが怖くて言えない。
でも、このままにしていたら、「こうちゃんと一緒に食事なんてしたくない」とか「もうじゅんちゃんって呼ばないで。気持ち悪いから」とか言われるかもしれない。
それは、絶対に阻止しないといけない。
勇気を振り絞って口に出す。
「じゅんちゃんは僕のこと嫌いになった?」
「……」
純は呆然と僕を見ている。
これ、どっちだよ。
どっちなんだよ!
早く答えてほしい。
いや、やっぱり真実を聞くのが怖いから、返事は明日にしてもらおうかな。
そうすれば心の準備もできる。
心の中で叫んでいると、純は真顔で言う。
「何で、私がじゅんちゃんを嫌いになるの?」
「…………」
頬を触ってセクハラをしたからとは言えずに黙る。
「私がじゅんちゃんを嫌いになるわけない。私は…………こうちゃんのこと…………こうちゃんのこと…………好き」
そう言いながらも、純は後退る。
言動と行動が一致していない。
「これは、こうちゃんが嫌いだからじゃない」
立ち上がりキッチンの方に行き、顔だけ僕の方に少し出して喋る。
「こうちゃんのことは大好きだから…………だから、気にしないで」
信頼できる純の言葉でも、ここまで拒絶されたら信じようがない。
死にてぇ……そうだ、死のう。
家族のように大好きだと思っている純にここまで嫌われている僕なんて、生きている価値も意味もない。
最後に愛に遺書を書かないと。
愛は僕のことを嫌わないでねって。
「じゅんちゃん」
泣かないように目に力を入れて、純に話しかける。
「……何?」
「僕は自分の部屋でいるから何か用事があったら、スマホで連絡してね」
嫌っている僕と同じ空間に純はいたくないと思ったから自室に行くことにした。
愛がもう少ししたら勉強をしにくるから、どうしようかと考えながらリビングを出ようとすると手を掴まれる。
おずおずと振り返ると、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「……こうちゃん、ごめん」
「……」
純の重々しい言葉と、涙目に頭の中は真っ白になる。
「……」
「……」
リビングには部屋に壁掛けた時計の針の音だけが響く。
時間が経って少し冷静になってきたけど、純が何に対して謝っているのか全く分からない。
いくら考えても的確答えが出てこないから、正直に答えることにした。
「じゅんちゃんはどうして謝ってるの?」
純は一歩下がり、消え入りそうな声で言う。
「こうちゃんに頬触られて嬉しくて、もっと色んな所を触ってほしいって思った……私は変態」
僕の耳には身悶えるほど可愛い幼馴染の声が、一言一句聞こえていた。
地獄から天国とは、このこと。
喜びのあまり、純を抱きしめる。
「純ちゃんは変態なんかじゃないよ。僕達は子どもの頃から仲良しなんだから、スキンシップをして当然だよ」
「……本当?」
「本当だよ!」
純の自信がなさそうな声に、力強く答えた。
それから僕と純はソファに座り手を繋ぐ。
「こうちゃんも音楽聴く?」
「うん。聴きたい」
「何がいい?」
「選曲はじゅんちゃんに任せていい?」
「おう」
1つのイヤホンを片耳ずつさす。
どこかで聴いたメロディーで歌詞はなかった。
曲のリズムが途中で早くなった所で、純が歌だす。
その澄んで癒される声に次第に瞼が重たく……なっていった…………。
★★★
「こうちゃん! おはよう! おはよう! 今日も元気よく勉強するよ!」
耳元で声がしたので目を開けると犬の着ぐるみパジャマを着た愛がいた。
隣を見ると、純が寝ていた。
愛は純を起こさないように僕の耳元で呟いたんだな。
時計を見ると21時を数分過ぎている。
「愛ちゃんごめんね。すぐに勉強始めよう」
「いいよ! 勉強頑張るよ!」
既に愛はソファの前の机の上に数学の教科書とノートを開いて、勉強をする準備をしていた。
その前に愛が座る。
純に毛布をかけてから愛の隣に座った。
10分ぐらいが経ち、黙々とノートに数式を書いていた愛が手を止めて口を開く。
「こうちゃん……すごく不思議だよ……」
「何が不思議なの?」
「……数学なのに……何でA、B……英語が出てくるの……?」
「それはね」
「…………まだまだ、勉強、がんばる……よ……こうちゃんと……じゅんちゃんに……勝つよ……」
説明しようとしたけど、愛はゆっくりと机に頭を倒して寝言を口にした。
いつもだったら数分で眠り始めるのに今日は頑張ったな。
毛布を愛に掛ける。
愛に恋しているのか確かめることにした。
今度は慎重にやらないと純の時のように気持ちがすれ違うかもしれない。
視線を合わせるのはさっきして大丈夫だった。
「いつも元気ならぶちゃんが好きだよ」
これもドキドキすることがない。
後は、体を触れることだけなので愛の頭を撫でる。
1日の疲れがとれるほど癒される。
癒されるけど全くドキドキしない。
……僕は本当に愛に恋をしているのだろうか。
確かに、愛と純の頬チュウを見て、心臓が今までにないぐらい高鳴りだした。
でも、純を前にしても、愛を前にしても、全くその時のようにはならない。
どこか思い違いをしているのではないのか?
僕はドキドキし始めたのはいつなのか具体的に考える。
愛の唇が純の頬に触れた。
それを見て、心臓が痛いくらい高鳴って、立っているのが困難になった。
…………。
……………………ん?
ああ、そっか。そう言うことか。
愛に恋したわけでもなく、純に恋したわけでもない…………僕が恋したのは…………。
「こうちゃん、おはよう! 今何時?」
体を起こした愛は元気よく聞いてきた。
「21時30過ぎだよ。勉強の続きをしようか?」
「するよ! らぶはたくさん勉強するよ!」
22時になって、頭が上下に揺れているけど愛は寝ずにゆっくりと問題を解いている。
合計勉強時間が40分だと!
最高記録!
「らぶちゃん、今日はたくさん勉強できたね! 凄いよ! もう遅いから勉強やめる?」
「らぶはまだまだ勉強、ファ~」
「らぶちゃんの体が眠たいって言っているから寝た方がいいよ」
「まだまだ頑張れ……そう言えば、ドラマで『格好いいお姉さんは早く寝て早く起きるのよ』って言ったよ! らぶも格好いいお姉さんだから帰って寝るよ!」
「家まで一緒に行こうか?」
「らぶはお姉さんだから1人で帰れるよ!」
家がすぐ近くだし、窓から愛の家が見えるから大丈夫だろと思い頷く。
「らぶちゃん、帰る?」
目を覚ました純が体を起こしながら、愛に訊く。
「起こしてごめんね!」
「大丈夫。私も起きようと思った所」
「じゅんちゃんも一緒に帰ろう!」
「おう」
純が出入口まで行くと、そこにいた愛は純の手を握る。
「それじゃあ、帰るよ!」
愛は純の手を引いていく。
「おやすみ」
リビングを出て行く前に純がそう言った。
その後、愛の「おやすみ!」と言う声が廊下に響いた。
見送るために玄関に向かおうとするけど、足が震えて動くことができなかった。
手を繋いだ2人を見て僕は確信した。
愛と純のどちらかに恋しているのではなくて……。
大好きな幼馴染達の百合に初恋していると。
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