11話目 幼馴染達に恋をする?

 僕達は弁当を食べてのんびりしてから屋上から出る。


 前髪で顔が隠れている女子? が目の前に立っていた。


「おばけだ! おばけがいるよ‼」


 純の後ろに隠れた愛が体と声を震わせながら大声を出す。


「……あの」

「おばけが喋ったよ!」

「……あの」

「呪われるよ! でもらぶは怖くないから逃げないよ! お姉さんだからね!」

「……あの」

「逃げないけど、授業が始まるから早く行こうよ!」


 前髪で顔が隠れている女子は僕の目の前まで近づいてきて制服を摑む。


 純が前髪で顔が隠れている女子の頭を掴む。


「じゅんちゃん、僕は大丈夫だから手を離そうね」

「……おう」


 純は手を下ろす。


「よ、けれ、ば、か、て、い、か、ぶに、はいっ、て、ほしい、です。おね、がい、します」


 前髪で顔が隠れている女子は何かを伝えようとしているけど、声が小さ過ぎて何を言っているのか分からない。


「はっきり言って」

「カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ」


 純が語気を強くして言うと、前髪で顔が隠れている女子は不気味な声を上げる。


「呪われるよ‼ 今すぐ逃げるよ‼」


 僕と純は絶叫した愛に手を引っ張られて階段を下りていく。


「家庭科部に入ってほしいです、家庭科部に入ってほしいです、家庭科部に入ってほしいです、家庭科部に入ってほしいです、家庭科部に入ってほしいです、家庭科部に入ってほしいです、家庭科部に入ってほしいです。家庭科部に入ってほしいです」


 前髪で顔が隠れている女子が何か呪文みたいなものを呟いて追ってくる。


 追いつかれて僕の肩に手を置く。


「じゅんちゃん、らぶちゃんを連れて先に行って!」

「嫌だよ! こうちゃんを置いてなんていけないよ!」


 純は愛を抱える。


「じゅんちゃん放して! このままだとこうちゃんがおばけに食べられるよ! じゅんちゃん! 早く放して!」

「らぶちゃん暴れないで」

「早く! 早く! 放して!」


 バタバタと動かしていた愛の手が純の顔に直撃して、バランスを崩して階段から踏み外す。


 2人に向かって必死に走って手を伸ばす……届かない。


 純は空中で体を捻って、愛を抱きしめたから背中から地面に落ちた。


「らぶちゃん‼ じゅんちゃん‼ 大丈夫⁉」


 急いで階段を下りて、純の怪我を見ようとして体が動かない……。


「………………」


 愛が……純の頬に……キスをしている……。


 そこから目を逸らすことができない。


 心臓が痛いくらい高鳴って、立っていることする難しい。


「じゅんちゃん大丈夫? どこか痛い所はない?」

「おう。大丈夫」

「助けてくれてありがとう! いっぱいいい子いい子してあげるね!」


 愛は純の上に乗ったまま頭を撫で出した。


 そのままキスをしないかな。


 って、そんなことを考えている場合ではない。


 なんでそんなことを考えている場合ではなかったんだっけ?


 頭の中で愛が純にした頬チュウの画像が流れていて、ドキドキが止まらず考えがまとまらない。


「こうちゃん、元気なさそうだけど大丈夫?」


 その声で正気に戻った僕の目の前に、愛の顔があった。


 この柔らかそうな唇が純の頬に当たったんだな。


 いやいや、そうじゃなくて、今は心配されているだから安心させないと。


「僕は大丈夫だよ。らぶちゃん大丈夫?」

「じゅんちゃんが守ってくれたから大丈夫だよ!」

「よかった。じゅんちゃん大丈夫?」


 座っている純に視線を向ける。


 目を見て話そうとしたけど、純の頬をどうしても見てしまう。


「大丈夫」


 純の所に行き中腰になって頭を触り怪我がないか確認すると、小さなたんこぶができていた。


 血は出てないけど、素人では分からない怪我をしているかもしれない。


「じゅんちゃん、保健室に行こう?」

「大した怪我じゃないから大丈夫」

「後から酷くなるかもしれないから念のために行こう。それに、じゅんちゃんが保健室に行ってくれたら僕もらぶちゃんも安心できる」

「そうだよ! 行った方がいいよ!」

「……おう」


 純と一緒に保健室に向かおうとしていうと愛が手を摑んでくる。


「らぶも保健室に行くよ!」


 立ち止り、愛の方に向き直る。


「らぶちゃんは授業に出ようね」

「らぶもじゅんちゃんと一緒に保健室行く!」

「付き添いは1人で大丈夫だから」

「いやだ! らぶもじゅんちゃんが心配だよ! だから、一緒に行くよ!」


 愛が叫ぶと教室から出てきた生徒数人が僕達の方を見た。


「僕1人に任せることが心配なんだね。そっか。お姉さんのらぶちゃんに信頼されないのは辛いなー。凄く辛いなー」

「らぶはお姉さんだから、弟のこうちゃんを信頼するよ!」


 微笑みながら拳で胸を叩きながら言う愛。


「じゅんちゃんはいい子にして保健室の先生に診てもらうんだよ!」


 愛は階段を下りていく。


 授業が始まるチャイムを聞きながら、僕と純は保健室に向かう。


 歩きながら考える。


 いつもの僕だったら、愛が保健室に付いていることを断らなかった。


 なのに、どうしてさっきは断った?


 答えが出ないうちに保健室に着いた。



★★★



「キスしようぜ?」

「だめだよ~。次に授業中キスしているのを見つけたら親を呼ぶって言ってたから、だめだよ~」

「じゃあ、ほっぺに軽くチュッってするだけでいいから」

「それなら、キスじゃないからいいよね~。チュッ」


 保健の先生に純の体を診てもらい、特に異常がなかったから教室に戻って授業を受けている。


 後ろから聞こえてくる男女の会話を聞いて、忘れかけていた愛が純にした頬チュウのことを思い出す。


 このドキドキの理由が気になる。


 スマホを鞄の中からそっと取り出す。


 先生にばれないように、教科書でスマホを隠しながら触る。



『動悸、理由』



 今の状況を検索してみると、病気のことばかりが出てくる。


 病気ではないと言い切れる。


 愛と純の頬チュウを見るまではドキドキすることはなかったし、ドキドキするのはそれを思い出した時だけだから。


 そうだ、愛と純を見た時に動悸した。



『特定の相手、動悸』



 検索をしてみるとストレスのことばかりが出てくる。


 2人といて、ストレスを感じたことが1度もないのでこれも違う。


 そもそも、動悸という言葉がマイナスのイメージが強いのかもしれない。



『ドキドキ、理由』



 検索してみると、恋愛のことが出てくる。


 妹のように思っている2人に恋心を抱いているとは思えない。


 でも、今まで検索してきたことより納得できる。


 愛と純をどれだけ家族として大好きでも、大切にしても血の繋がった家族ではない。


 だから、いつの間にか家族を愛する気持ちが、異性を愛する気持ちに変わっていてもおかしくはないのかも。


 漫画やドラマでもよくあるパターン。


 検索すると同じ気持ちの人も何人かいた。


 今まで1度も恋愛をしたいと思ったことがないけど、今日感じた胸の高まりは恋をしたと言える気がした。


 休み時間に入り、教室の出入口を凝視する。


 愛と愛に手を引かれた純が入ってきて、僕の所にくる。


「らぶちゃん、じっとしていて」


 純は自分の制服の裾で愛の口から出ていた涎を制服の裾で拭う。


 心臓が痛いぐらいに高鳴る。


 間違いない‼


 僕は……2人のどちらかに恋をしている。


「じゅんちゃん、何したの?」

「らぶちゃんの涎を拭いた」

「ありがとう! 涎を拭いてあげるのってお姉さんっぽいね! らぶもじゅんちゃんの涎を拭きたいよ!」


 愛は背伸びをして純に顔を近づける。


 2人の顔をまともに見れずに目を逸らす。


「涎でてないよ! じゅんちゃん、涎が出たら教えてね!」

「……おう」

「こうちゃん、外をじっと見て何かあるの?」


 愛が聞いてくる。


「空を見てただけだよ。今日もいい天気だなって」

「本当だね! こんないい天気の日は外で遊びたいよ!」

「そうだね。休みの日だったら今すぐにでも遊びたいね」

「うん! こうちゃんは何して遊びたい? こうちゃん、人と話す時はこっちを見ないと駄目だよ!」

「らぶちゃんの言う通りだね。ごめん」


 愛の方を向くと、大きな瞳に心が見透かされそうで怖い。


 誤魔化すために頭を撫でようとするけど弾かれた。


「らぶはお姉さんだから、撫でられないよ!」


 ドキドキしていて、そのことを忘れていた。


 弾かれた手が手持無沙汰なので、椅子から立ち上がって純の頭を撫でる。


 純は抵抗することなく、目を細めながら気持ちよさそうに撫でられている。


 この可愛いと思う気持ちが恋愛的な意味での好きなのかもしれない。


「らぶもじゅんちゃんを撫でるよ!」


 一生懸命背伸びした愛は純の頭に手を伸ばすけど届かないので、純が中腰になる。


「じゅんちゃん! いい子、いい子だよ!」


 この光景も、悶える程の心臓が高鳴っている。


 僕は愛と純のどちらかに恋をしている。

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