10話目 幼馴染達とバトミントントン
コンビニに着いて、分かれて買い物をする。
特に食べたいものがないから適当におにぎりとお茶を買って、愛と純を探す。
パンコーナーの前で立っている純を見つけた。
「チーズ蒸しパンなら100円。これなら、らぶちゃんの財布にも優しい。でも……」
サンドイッチコーナーに視線を向けて喉を鳴らす。
「これうまそうだな」
残り1つのフルーツサンドを男子が手にしようとした。
「イチゴ、ミカン、バナナ、たっぷりの生クリーム」
「ごめんなさい」
純は男子に向けて凄みながら呪文のようにそう呟くと、男子は逃げていく。
早足でフルーツサンドの所に行く。
「っ⁉」
手にすると目を見開いて、ゆっくりと元の位置に戻す。
「買わないの?」
「……450円は高い」
「僕が買」
「こうちゃんは買わなくていい。週1のお菓子と手作りお菓子で十分。いつもありがとう」
純はそう言って、パンコーナーに戻る。
純に奢りたいな。
先手を打たれたのでこの気持ちを我慢しよう。
愛は既に買い物が終わっていたようで、コンビニにあるポットでカップラーメンにお湯を注いでいる。
愛に近づくと、鼻を突く臭いがする。
臭いがしてきた方を見ると、カップラーメンから。
カップラーメンの容器には、死人が出るほど辛くて痛いと書かれている。
死人が出るなら商品にするなよと突っ込みたい。
「美味しそうだよ! これ、絶対に美味しいよ!」
でも、涎を垂らしながら食べることを楽しみにしている愛がいるから、野暮なことは言わない。
視線が合い、愛が口にする。
「新発売で美味しそうなのがあったから買ったよ! こうちゃんも食べるなら買ってくるよ!」
カップラーメンを近づけてくる愛。
目が! 目が! 目が! 痛い!
「おにぎりがあるから大丈夫だよ。おすすめしてくれてありがとう!」
涙目になりながら答えた。
「じゅんちゃん探してくるね!」
「じゅんちゃんはパンコーナーでいたよ!」
「ありがとう! カップラーメン見てて!」
愛はとことことパンコーナーに向かって歩いて行く。
数分して愛と生クリームが挟んでいるパンを両手に大事そうに持った純が戻ってくる。
純が苦虫を噛んだような顔をして、僕の目の前にあるカープラーメンを見た。
愛が甘いものが苦手なことを気遣って純に黙っているように、純も愛に辛い物が苦手なことを気遣って黙っている。
純はパンで自分の顔を隠した。
「じゅんちゃんは何してるの?」
「……」
「じゅんちゃんもらぶが買ったカップラーメン食べていいよ!」
「……」
「じゅんちゃんが動かなくなったよ! お腹が空いたんだね! お店の中では食べられないから匂いだけで我慢してね!」
愛は純の方を見ながらカップラーメンを手にする。
「らぶちゃんのラーメンが伸びるから公園に急ごう」
「そうだよ! カップラーメンがのびちゃうよ! 早く公園に行かないと!」
そう言うと、頷いた愛が慌ただしく外に出る。
純は顔から下した菓子パンをクンクンと鼻を動かして笑みを浮かべた。
★★★
公園は、コンビニから見える位置にあるのでゆっくり歩いても1分もかからない。
ベンチに座って買ったものを食べてから、バドミントンをしている。
ラケットは2つしかないから交替ですることにした。
今は愛と純がしているのをベンチに座って眺めている。
「いくぞ! ていっ! もう1回! ていっ! まだまだ‼ ていっ! ていっ!」
「……」
少し離れた純に向かって愛はサーブをしようとするけど当たることがない。
その光景を何も言わずに純は見守っている。
不器用な妹と遊んであげている口下手な姉のようで微笑ましい。
しばらくして、ラケットにシャトルが当たる。
空高く飛び、純の位置からかなり前の方で落ちていく。
純は愛が打ってすぐに動き、シャトルが落ちる位置にきていた。
「じゅんちゃん! すごい! すごいよ!」
純がシャトルを打ち返すと、愛は小さくジャンプをしながら喜ぶ。
「らぶちゃん、ラケットを前に出して」
愛がラケットを突き出すと、そこにシャトルが当たり純の所に戻っていく。
「バトミントントン楽しいよ! どんどん羽を打ち返すよ!」
打つたびに飛び跳ねる愛。
それを何度か繰り返していると。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
今にも倒れそうなほど愛が息切れをしていた。
「らぶちゃん、やめる?」
「まだ、はぁ、やる、はぁ、よ」
ふらふらで今にも倒れそうなのに愛は打ち続けている。
勝てるまでやめない愛の性格を知っている純は助けを求めるような視線を僕に向ける。
「らぶちゃん、僕もそろそろしたいんだけど、交替してほしいな」
「いいよ、はぁ、はぁ、じゅん、ちゃんと、はぁ、こうちゃん、交替、ね」
遠回しに休むように声をかけると、愛は羽を打ち続けながらそう答えた。
愛は全く休む気がない。
「らぶちゃん、喉渇いてない? 僕のでよかったらお茶飲む?」
「全然、はぁはぁはぁはぁ、平気、はぁはぁはぁはぁ。らぶははぁはぁはぁはぁ、まだ、遊ぶの。はぁはぁはぁはぁ」
頑張ってる愛を無理矢理休ませることはできないな。
「じゅんちゃん、僕と交替してもらっていい?」
「おう」
愛と純は打ち合いをやめる。
純の所に行きラケットをもらう。
「らぶちゃんが倒れていいように、らぶちゃんの少し後ろにいてもらっていいかな?」
「おう」
頷いた純は、愛の2,3歩後ろに待機した。
「いくよ、らぶちゃん」
「いいよ、こうちゃ……」
羽を打とうとしている時に体力の限界がきた愛は後ろに倒れ、純が抱きしめる。
持ってきた鞄に入れていたレジャーシートを取り出し、公園の端に敷く。
純はその上にそっと愛を置く。
「天気もいいし、風も気持ちいからみんなでお昼寝しようか?」
愛を起こさないように小声で純に話しかける。
「おう」
「じゅんちゃんも昼寝する?」
「こうちゃんは寝る?」
純がラケットを一瞥したのに気づく。
「僕は全然眠たくないから、バドミントンするのに付き合ってもらっていいかな?」
「おう。いいよ」
愛から少し離れた場所に行き、バドミントンを始める。
純がサーブを打ってきたので打ち返す。
「じゅんちゃんとバドミントンするのは久しぶりだね」
「おう。久しぶり」
「スマッシュ打てる?」
「打てる」
「じゅんちゃんのスマッシュを見たいから打ってもらっていいかな?」
「おう。いい」
高くロブを上げると、純は地面を思いっ切り蹴り上げて高くジャンプして、後ろに引いた右手をシャトルに向かって振りぬいた。
打った瞬間、パン‼ と破裂音させたシャトルは顔の真横を過ぎさって、地面に突き刺さる。
一瞬死を覚悟するほど怖かった。
放心していると純がシャトルを拾って元の位置に戻ってサーブを打ってくる。
純は言葉にしない。
でも、スマッシュ打っていい? と甘える子猫のように目で訴えかけてくる。
これは打ってもらうしかない。
「じゅんちゃんのスマッシュ格好よかったからもう1回してもらっていい?」
「おう!」
よっしゃー! うおっしゃー!
精神が崩壊するまで純のスマッシュを受け続けるぞ。
覚悟を決めて、それから何度も純のスマッシュを打ってもらう。
シャトルを前のめりで取ろうとして足や手に当たって、今までに体験したことのないぐらい痛い。
痛いけど、打ち終わった純の満面の笑みを見ると痛みなんてどうでもよくなる。
動き疲れた純も愛の横に寝転がるとすぐに気持ち良さそうな寝息を立て始めた。
体力的にも精神的にも疲れているはずなのに、立ったまま2人並んでいる姿を見るとなぜか目が覚めた。
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