8話目 小さな幼馴染と勉強会
「こうちゃん! じゅんちゃんきたよ! …………」
僕と純がパジャマ姿でソファに座って寛いでいると、犬の着ぐるみパジャマを着た愛は元気良くリビングに入ってきた。
21時のこの時間に僕の家で愛と毎日勉強している。
急に黙って廊下の方に後退ってドアを閉める愛。
隣に座ってイヤホンで音楽を聴いている純が不思議そうに、その光景を見ている。
僕には愛が部屋を出て行ったことに心当たりがある。
半開きにしていた窓を全開にして、部屋中に消臭剤をスプレーする。
これでさっき焼いて食べたホットケーキの匂いは消えた。
リビングを出ると、少し青ざめた愛が目の前にいて片手を前に伸ばしていた。
ドアを開くか、開かないかで悩んでいたのだろう。
愛に近づき耳元で言う。
「もう大丈夫だよ」
「こうちゃん! ありがとう!」
お礼を言った愛は元気溌剌になり、部屋の中に入って行ったので後に続く。
いつもだったら甘いものを作った後は、愛が来る前に換気と消臭剤をスプレーしている。
今日は色々なことがあって疲れて忘れていた。
もっとしっかりしないといけないな。
ソファの前の机に座っている愛の隣に座る。
「今日も勉強頑張るよ!」
愛は天井に向かって拳を上げる。
「今日はらぶが1番苦手な英語をするよ!」
「苦手なものを自分から克服しようとするのはいい心がけだね」
「そうだよ! いい心金だよ!」
愛は持ってきた英語の教科書とノートを机に広げて勉強を始める。
「今ならどんな英単語も覚えれる気がするよ!」
1分後。
「……bとdって……何が違うだっけ…………そうか、向きが……違う……よ……なんだろう……同じに……見えてきたよ……」
半分目が閉じている愛がそう呟く。
5分後。
「この……もん……だいの……とき……かたは……なんだっけ………………………」
6分後。
「…………むにゃむにゃ、英語なんて簡単だよ…………」
睡魔に負けた愛は顔を机に乗せて、気持ちよさそうに寝言を口にしている。
元気な姿も可愛いけど、気持ちよさそうに眠っている姿も可愛いな。
視線を感じた方を見ると、純が僕を見ていた。
起こさなくていいのかと目で言っている。
立ち上がりキッチンに向かう。
優しく揺すっても起きないから、ホットコーヒーを淹れる。
純にはホットココア。
ソファに近づくとココアの匂いに気付いたのか、僕の方に純は両手を伸ばす。
「温めにしたよ」
「おう。ありがとう。あちっ!」
細長い舌を出す純。
「熱かった? ごめん。冷たい牛乳を入れようか?」
「大丈夫。フーフー」
何度もココアに息を吹きかけてココアをそっと飲み、頬を緩ます純。
「美味しい。ありがとう、こうちゃん」
純は猫舌で熱いものが苦手。
次に純にココアを入れる時はもう少し温めに入れないといけないな。
飲むたびにフーフーする純の可愛い姿を見ていると愛の声が聞こえる。
「……気持ち悪い……」
ゆっくりと目を開けた愛がそう言った。
ココアの匂いを少しでも紛らわすために愛の前にコーヒーを置くと、眉間に皺を寄せていた顔が少し和らぐ。
「こうちゃんのコーヒー大好きだよ! ごくごくごくごく、プハァ~! これでもっと頑張れるよ! 高校初めてのテストは100点とるよ‼」
愛は熱々のコーヒーを一気に飲んでやる気を出した。
コーヒーにはカフェインが入っていて寝る前に飲むと、眠れないことや、いい睡眠が取れなくなることがあるらしい。
「……がんばるよ…………」
やる気を出した数秒後に爆睡している愛を見て、カフェインの効果は人によると感じた。
軽く揺すっていると、前に愛が言ってことを思い出す。
『らぶがどうしても起きなかったら、強く叩いて起こしてほしいよ!』
でも、可愛い愛を叩ける人なんてこの世にいない。
いたとしたら僕がそいつを叩く。
ぼこぼこにする。
愛をどうすれば起こせるか考えて……頭に浮かぶ。
寝息が当たる距離まで近づき、両手をゆっくりと愛の脇腹に伸ばし……優しく擽る。
「あはははははは、はははははははははは」
目を見開いて、笑い始める愛。
「おはよう、らぶちゃん」
「あははは、おはよ、あは、う、あははははははは」
愛を擽るのをやめる。
「起きて勉強するよ」
「なんか、笑うと、目が覚めるよ、もう少し、擽って、あはははははははははははははは」
涙目になるまで笑っている愛が可哀想だけど、愛のためなら心を鬼にして擽る。
しばらくして離れると、愛が言う。
「くすぐったかったけど、目も覚めたし楽しかったよ! らぶがまた寝たらしてね!」
それから、愛は30分どうにか勉強に集中することができた。
終わってすぐに座ったまま眠る愛。
抱っこして家まで送って行き、ソファに座っている純の隣に座る。
このまま寝てしまいそうだと思いながら、なんとなく純に視線を向ける。
視線が合い、純は両手を上げるすぐに下ろした。
急に両手を上げた理由を考え、その理由が分かり悶えてしまう。
愛が僕にくすぐられるのが羨ましくて、自分にもしてほしいと意思表示している。
甘えてくる純可愛すぎだろ!
「じゅんちゃんもう1回両手を上げてもらっていい?」
「……おう」
目を逸らしながら頷いた純はゆっくりと両手を上げたから、指先で純の脇にそっと触れる。
「あんっ!」
普段純が出さない、色っぽい声を出した。
普通の男女だったら気まずい雰囲気になるかもしれない。
僕と純は家族のような兄妹のようなものだから大丈夫。
それからも擽ると純は色っぽい声を出し続け、恍惚とした顔で僕を見ていた。
気が付けば、23時になっていた。
愛を送って行ったのが22時ぐらいだったので、1時間ぐらい擽っていた。
疲れて肩で息をしている純が口を開く。
「……また……してほしい」
絶対にまた今度純を擽ろう。
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