第23話 課題と期限
「あ・のね。ふ・たり、が、結婚する、のは、いい・こ・と・だよ! まち・がい・ない!」
プロスペールが笑顔で言って、この場の微妙だった空気が、吹き飛んだ。
プロスペールが言うと、そうなのかもしれない、という気になる。それはシュゼットだけでなく、騎士たちも同じらしかった。
「うん」「うむ」「いいんじゃねェか?」「なんやすてっきなことに思えてきたわあ」
「善は急げだ、これから結婚式を挙行する」
またもゼアヒルドは素早かった。
「なっ!?」
とまたギャレットが目を剥き、
「ええっ?!」「デイム!?」「そいつぁ」
エセルバートたちも度肝を抜かれている。
ゼアヒルドはきびきびと、
「伝達せよ。城下の民は明日まで仕事を全て休んでよし、各村民あげて宴と休日を楽しむがよい! 皆のプロスペールの養い子、ギャレットの結婚式なのだからな」
「急すぎんだろ、デイムよお」
金髪を高くくくった少年騎士が笑い転げる。
「黙れ。妾は本気じゃ。衣装も双方ちょうどよいものを着ているではないか。シュゼットの一目千両のドレス、ギャレットの謁見の盛装。式も宴も簡略でよいのだ、して見せるのが大事なのだから。さあ動け!」
へえへえ、やりますか、仕方ありませんね、うっしゃー、などなどと口々に言い、騎士たちは準備に散ろうとした。
「いや、しばし待て」
と、ゼアヒルドが呼び止めた。
「皆も聞け。シュゼットは妾が騎士とする。者どもが王子とて、騎士叙任権を持つ故と、勝手にシュゼットを騎士とすること、まかりならん。なお、叙任する妾からの条件として、シュゼットは、これから一年で一〇〇両の弓騎を倒したら、騎士に叙任してやることとする」
「ひゃあっ!?」
シュゼットは悲鳴をあげてしまったし、騎士たちも驚愕に目を剥いた。
「一年で、一〇〇両ォ?」
「一両すら、倒す姿の想像できない現状で!?」
「あらー、無理ちゃうんかなあ」
「デイム!! シュゼットはまだ加護の力がガラスに通せるかどうかすら、未知数なのですよ!?」
「むろん、敵国の弓騎に限る。一年で一〇〇両倒せねば、諦めよ」
「ちょっと! デイム、聞いていらっしゃいますか!?」
「一年一〇〇両でも、一〇〇〇両倒すのに一〇年かかる。ここの騎士たちなら、三年かそこらあれば達成するぞ?」
「まるで聞いてらっしゃらない!?」
「ぼ・くらと、較べられたら、難儀だと、お・もうよ!?」
「そうです」
「無理だ」
「酷だろうよォ」
一斉に声をあげている騎士たち。
その中で、シュゼットは息を吸い込んだ。
「やります!」
「え?」
「はい!?」
プロスペールとギャレットが聞き返し、騎士たちも振り向く。
「私、どうやったら騎士になれるのか、全くあてがありませんでした。そこへ見えた光です。こんなにありがたいことはないです。やります! 嬉しい。挑戦させてください!!」
「ほう?」
ゼアヒルドが目をすがめた。満足そうにニヤリと笑った。
「なかなか見所のある娘ではないか。褒めてつかわす。よいぞ、実に、よい!」
「ああ……」
と、ギャレットが、目も当てられないというように顔をそむけて、額に手をやり、瞑目する。
「シュゼット……なんてことを言ってしまうのです」
「あはは……ぼく・たちも・腹をくく・ろうか、ギャレ・トちゃ」
こうして速やかに、シュゼットの結婚式の準備が始まった。
城中と城下の民におふれが出され、人々が晴れ着でいそいそと神殿の前へ集まってきた。
中郭に設けられている、境界石と柵に囲まれた神域で、ゼアヒルドと騎士団の騎士達、領民たちの列席のもと、シュゼットはギャレットと結婚した。
神域には数々の祠があって神々の石像が大小いくつも祀られており、中には一目千両の祠もあった。シュゼットは、一目千両は「神」になっているのですね!と、驚いた。
そんな中、神官が祭儀を執り行ううち、誓約のキスが必要になった。
ギャレットとキス。
神々の御前で、誓いの証のキス。それは衆目の面前でという意味でもあって、心臓がどうにかなりそうだった。
神殿の方向以外は三方、人が立ち並んでいる。左右は騎士たちの列と神官たちの列。後ろはすし詰めの城の住人たち。群れなして、注視している。
――この中で、き、キスを……くちづけを!?
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