「血が繋がっているから兄ちゃんと恋人になれなくて残念だなー!あー残念だなーっ!」とか言ってた妹が義妹だった

蹴神ミコト

おめでたおめでた



 俺は高校3年生の家守孝一≪やもりこういち≫


 父親は俺が小学校の頃に亡くなったため、母と俺と妹の3人で暮らしている。

 母は40歳、俺は高3、妹は高2。


 俺はいたって平凡な高校生で、しいていえば運動が少しできるくらい。といっても誕生日が4月頭なので生まれが早いからそりゃそうだって感じなんだけど。

 でも妹の家守火花≪やもりひばな≫は学校でも突出している有名人。元気な美少女で短めの髪が似合う活発娘。


 元気な美少女はそれはもう目を引く。体育があれば俺のクラスでも窓際の席からグラウンドを見ている男が何人もいるくらいだ。

 だけど火花は告白をされることはほとんどない。なぜかというと──



「兄ちゃん愛してる!お弁当食べよ!」

「愛してるよ火花。お弁当食べようか」



 3年生に上がって最初の通常授業。最初のお昼がある日。昼休みになってすぐ、俺の教室に駆け込んでくる火花。

 俺が廊下に出ると俺の腕を掴み、抱きしめて体を預けるように火花は寄り添ってくる。



「はい兄ちゃん。今日のお弁当だよ」



 学食で席に着くと火花がいつも用意してくれるお弁当を受け取る。

 隣に座った火花は俺の弁当を箸でつつき、掴んで俺の口へ運ぶ。



「兄ちゃん、あーん…ふふっ、兄ちゃんが私の作ってくれたご飯を美味しそうに食べてくれるの、見てるだけで幸せだなぁ…もう一度あーん」



 そう、火花は超がつくほどのブラコン。

 ついでに俺はそれを全て受け入れる軽度のシスコン。


 教室であの光景、学食でこの光景。廊下で遭遇した時や通学路や休日も全部こんな感じ。

 なので火花は告白をされることがほとんど無い。あっても死ぬほど冷たくあしらって俺への愛を語って返り討ちにするし。


 『遠くから見る分には目の保養。兄といるところは目に毒。いつも一緒だから兄がいるときに告白で呼び出すって?死にたいのかお前?』が学校の共通認識なのは火花の愛の重さを感じるね。

 愛されていることをしみじみと実感しながらお弁当を食べる。うん、美味しい。



「今日も美味しいよ、いつもありがとう。火花は良いお嫁さんになれるよ。」

「血が繋がって無ければ兄ちゃんのお嫁さんになれたんだけどなー!残念だなー!」



 そう言ってワハハと笑う。何割冗談なのやら。









「寝よう兄ちゃん」



 夜、部屋に火花が来た。火花はベッドに潜り込んで俺に背を預けるようにくっつく。



「ほら後ろから抱きしめてー」

「この態勢で抱きしめると腕枕になって痛いから嫌なんだけど」

「ちぇーけちー」



 火花は反転して正面からくっついてくる。体を丸めて俺の内側にすぽっと収まるように。



「料理とかしっかりできて偉いのに甘えかたが子供だよなぁ」

「いいじゃん。子供らしくくっついちゃうぞー うりうり」

「俺、明日誕生日で18歳だからもうお前と結婚できるくらいお互い大人なんだけど?」



 俺は明日で18歳。火花は今16歳。血が繋がっていなかったら結婚できるくらい大人だ。

 だからこうやって子供みたいに甘えてくるのはそろそろどうかと思うんだけど…いや嬉しいけどさ。



「なに兄ちゃん?私の事を女だって意識しちゃうの?やーいすけべ」

「そりゃこんな美少女に愛されてお世話されて布団も一緒とかドキドキしちゃうだろ」

「でも残念だねー!血が繋がっているからなー!実の兄妹じゃなかったら兄ちゃんの子供産んであげても良かったんだけどなー!あー残念!」



 おどけるようにお互いに冗談を並べてクスクスと笑いあう。


 将来どっちかに恋人が出来たら変わるのかもしれないけど今は居心地のいい仲の良すぎる兄妹のままでいたい。…まあ、火花に恋人ができたら死ぬほど泣くのでそういうのは考えないでおこう。










 翌日誕生日…の朝6時。母さんから大切な話があると、家族全員で食卓に着く。

 ちなみに母さんは40歳美魔女のモデル。見た目20代のどんな服も似合う美人。

 妹はセーラー服が似合う元気美少女。俺はゲームのコントローラーが似合う受験生かな…



「もう孝一も18歳だし結婚できる年齢になったから…本当の事を話すわ」



 よほど大切な事なのか母さんはそこで区切り、ふぅと一息入れる。






「孝一は私の死んだ親友の子よ。お父さんもお母さんも火花も血の繋がりは無いの。でも私は孝一を本当の家族だと思っているから気づかなかったでしょ?」


「え……マジで…?マジかぁ……言われるまで全く心当たりすら無かったよ?」

「マジよマジ。あれ、孝一より火花の方が驚いてるわね。火花?起きてる?」



 隣を見ると火花が目を見開き。口をポカーンと開けて固まっていた。



「おい、火花?大丈夫か?俺より驚いてどうするんだよ」



 そう言って火花の肩に手を当て揺すろうとした。でも手が肩に触れた瞬間──



「ひゃい!!」



 なんか火花からすごい声が出た。顔は真っ赤になった。



「火花…?」

「ちちち違うの!違うの兄ちゃん!!」

「落ち着けって。どうした?混乱しているならぐちゃぐちゃでもいいから頭の中を1つずつ口にしてみろ」


「えっと、き、嫌いにならない?」

「絶対にならないから安心して言葉にしてみろ」

「あ、あああのね…兄ちゃん……」





「私いつも『血が繋がって無かったら』何するって、どこまで、言ったっけ?」


「恋人になって、嫁になって、俺の子を産んで、一緒の墓に入るまでは聞いた」


「あああああああああああああああ!!!!」



「え、火花そんな事まで言ってたのあんた…」



 頭を抱えて錯乱して叫びながら食卓の下へ飛び込む妹。

 そのフレーズは知っていたけど、知っている範囲より過激な発言があった事にドン引く母。

 まあ冗談で言ってたんだしそんな気にすることでもないだろうにと思う俺。

 


「冗談で言ってたのは知ってるからそんなに気にすることでもないだろうに」

「いや孝一、女の子が冗談で『子を産む』は言わないわよ。たぶん口を滑らせたガチなやつよこれ」

「え゛」

「解説やめてママぁぁぁぁあああ!!」



 うん?俺もしかして冗談のふりした…いや、実現しないからこそ冗談風味にした駄々洩れの本音を聞かされていた?



 食卓の下から飛び出して母さんの後ろに立ち。顔こそ余裕が無いけれどじゃれるように手で口をふさぐポーズを取る火花、ガチでやらないあたり一応理性があるようで何より。

 でもそんな火花の理性を吹き飛ばしたのは母さん。



「ちなみに孝一と火花が結婚する気あるなら私賛成だからね?なんなら今日入籍しちゃえばいいと思って婚姻届用意してあるわよ」

「待って待ってママ待って!?」

「俺と火花が結婚するのは…俺はいいけど、早くない?高校生だよ」

「んにゃ!?に、兄ちゃん!?え、あの、えええええ!?」



 ハハハ。お前の本音を叶えてやりたいと思う程度にはお前の事が好きな軽度のシスコンだぞ。

 妹だ女だはちょっと悩むラインだけど世界で一番好きな女の子は間違いなく火花だ。

 子供を産んでほしいくらいには好きだよ。



 すぐに結婚を推す母さんはどこか遠くを見るような目で理由を教えてくれた。



「私の親友、孝一の本当の母親はね…20歳で亡くなっているのよ…私より年下で、私より早く子を授かって…あっという間に死んじゃったの。でもこうやって孝一を残してくれた。だから人間何があるかわからないんだから幸せになるなら早いほうがいいと私は思うのよね。」



 すごくまともな理由だった。



「それにまだ稼ぐ当てが無くても私の稼ぎなら2人を養うくらいできるし。稼ぎたいなら2人共モデルをやれば今すぐそれなりのお金が手に入るわよ」

「火花は美少女だけど俺は無理でしょ」

「待って、兄ちゃん美少女とか今言わないで、すごくはずかしい…あと兄ちゃんは白いキャンバスみたいな化粧や服で化けるタイプだから本気出せば私よりキャーキャー言われるよ…」

「初耳なんだけど」


「だって…兄ちゃんを取られたくなかったし……あぅ…」

「私もそれで口止めされてたから言えなかったのよね。はやく結婚すればいいのに」



 真っ赤な顔で俯いたり、こっちをちらりと見たりを繰り返す火花があんまりにも可愛すぎたので。



「母さん婚姻届けどこ?今書けば学校行く前に提出できるよね?」

「ににに兄ちゃん!?!?」



 火花の顔を、左右から両手でほっぺたを包み込むようにして上に向かせ目を合わせる。



「火花、俺はお前の本音に全部応えたいと思うくらいには火花のことが大好きだ。兄だ妹だ、男だ女だはまだちょっと自信が無いけど、世界で一番好きな女の子と一緒になりたい。兄ちゃんじゃなくて旦那でもいいか?」

「────ずっと、好きだったよぉ……兄ちゃ…孝一、さん…結婚してください!」



 家族3人でわんわん泣いて、滲んだ婚姻届けを役所に出してから学校に向かった。









★火花side



「ねー火花ちゃん。今朝、お兄さんと腕組みも恋人繋ぎもしないで袖を掴むだけってどうしたの?ケンカでもしたの?」

「袖掴んでてケンカ疑惑ってあたり普段がアレすぎるよね…」



 教室に入ってすぐ、友達に囲まれた。そんなにおかしかったかな。



「あ、あのね…実は色々とありまして…言いたくないなぁ…」

「それが本当に気まずくて言いたくないなら聞かないけどさー」

「顔を赤くして目をそらされたらめっちゃ聞きたいんだけど?おら吐け」



 …悪いことは何一つしていないし、ただ死ぬほど恥ずかしいだけで。ついでに言えば隠したまま卒業まであと丸2年…きつそう。言っちゃう?言っちゃうかふへへ…



「あの、ね……私いつも『血が繋がってないからなー』って笑い飛ばしながら…その、いちゃついてたよね?」

「うん、目に毒なほどイチャコラしてラブラブしてたね」

「血が繋がって無かったらどんな過激な要求にも応えられるんだけど残念だなーって言ってたね」


「…嘘でしょ?言ったっけそんなの?」

「去年の体育祭で『兄ちゃんカッコよかった!』って全校生徒に聞こえんじゃないかってくらい大声で興奮しながら言ってたよ?」



 まわりのクラスメイトもうんうんと頷く。どうしよう、死ぬほど続きを話したくない。でも言わなくても察されるよねこれもう!?言っちゃえ!!




「あの……兄ちゃんと私、血が繋がって無かったの…」



 教室から音が消えた、びっくりするくらいの静寂



「「「ええええええええええええ!!!」」」



 黄色い声が爆発する。声はきゃーきゃーと甲高い叫び声に変わり耳が痛い!



「え、じゃあ付き合うの!?」

「ブラコンから恋人!?」

「どんな過激な要求にも答えちゃうの!?」

「なにか関係変わったりあった?キスとか普段からしてそうだけど!」


「まあ、その…朝にその関係でちょっと書類を書いたりしたかなーははは」



 いやーさすがに籍入れました、結婚しましたとか言えないねこの空気。ごまかしとこ。



「まさか婚姻届け書いちゃったとか?」



 ピシッ あ、やば、顔に出た。



「えっ」

「待って、今反応ガチだったっしょ」

「火花さん??」



「……結婚したけど苗字は変わりません!これからもよろしくね!!」



 とりあえず今度は耳を塞いで構えていたから耳は痛くなかったので良かったです。




 お昼になったので孝一さんの教室へ向かう。もうバレているのかな?

 孝一さんのクラスのドアをそーっと開け、旦那様の元へそーっと向かう。気持ち目立たないように。



「あの、孝一さん。お昼食べよ」



「孝一!お前火花ちゃんが下の名前で呼んでるじゃねぇか勿体ない!」

「怒らせたのかお前!?元気っ娘な美少女の『兄ちゃん』ボイスはもう聞けないのか!?」

「活発美少女の『兄ちゃん』は一人称『ボク』と並んで世界遺産なんだぞ!!」


「うるせぇ!アレだから呼び名変えてもらったの!!」

「「「俺なら変えない!!」」」



 孝一さんのオタク友達とのやり取りは時々よく分からない。



「あの、孝一さん…兄ちゃんって呼んだ方が嬉しい?」

「時と場合によるけど、基本は下の名前が嬉しいかな」

「うん、分かった」



 時と場合による。兄ちゃんって言ってほしい時もあるのか。いつだろ?

 それにしても兄ちゃん…孝一さんの教室は静かだなぁ。まだバレてないみたいだね。ウチのクラスがあれだし時間の問題だろうけど。



「まだ義兄妹や結婚のことバレてないの?」

「こいつらにだけ伝えたんだけど『秘密の関係を知っているポジションとかめっちゃ美味しいから言わん』って言われた。俺の方からバレることは無いと思う」


 オタクの口の堅さ凄い。



「あの、それじゃこの人。借りていってもいいですか?」

「持ってけ持ってけ!返さなくていいよ!」

「ぎこちなさいいぞ!そういうのもっとちょうだい!」

「え、えっと、あの?」

「相手しなくていいからいくぞ火花」



 学食であーんもできなかった。昨日の今日どころか、今朝の今だ。距離感が分からない。ただ、今までよりも隣にいるとこそばゆい幸せを感じる。



「孝一さん。私どんなふうに接すればいいか分からなくて…だから嫌いになったわけじゃないよ。恥ずかしくて幸せで距離感が今おかしいの」



 誤解だけはしてほしくないので朝からぎこちない接し方な理由をちゃんと伝えた。こういうの大事だと思う。私の駄々洩れの本音に全て応えたいって言ってくれた旦那様なので伝えさえすれば悪い事にはならないはずだ。



「このままじっくり距離感を模索するのと、明日には距離が急接近できる荒療治があるけどどっちがいい?」

「荒療治の方かな。今ね、幸せだけど…恥ずかしくてできないけど、もっとくっつきたいんだ」

「ぐっ…荒療治選んだよな?選んだな?火花が可愛いのがいけないんだからな?」

「え、なんでそんな念を押すの?」




 夜にひたすら兄ちゃん兄ちゃん兄ちゃんって連呼させられて、すごーく距離が縮まったけど荒療治が5日連続になったらママからストップ入った。心配させたくなかったのでモデルのバイトを始めて高校卒業までは体型を維持する約束をちゃんとしました。




 兄ちゃ…孝一さんもモデルを始めたらバンバン売れちゃって高卒モデルどころか高校中退してモデルしてもいいんじゃないかってくらい大人気モデルになった。ちゃんと卒業したけどね。女の子から人気がありすぎて身の危険を感じたので色々準備が出来た21歳で結婚を公表した。でも全然炎上もしないし人気はむしろ増したね。


 ママ。孝一さん。私…と娘で撮影した写真が


『お腹の膨らんだ嫁と見守る旦那』

『赤ん坊の世話で慌てる旦那と、笑ってみている嫁とおばあちゃん』

『娘(孫)にデレデレになる人気モデル3人』


 そんな家族風景のモデル写真を色々用意して一気に放出したからね。売れていたモデル3人が実は家族でしたー。その3人がこれ以上なくデレデレ緩んだ顔なのは娘がいるからですーって写真で乗り越えました。あの後、マタニティコーデと若者に交じれるおばあちゃんコーデがとても売れたらしい。


 仕事も順調で娘もいて、最ッ高に幸せ。あと2人くらい欲しいな。ねえ兄ちゃん?



 そんなわけでどうせ叶わないから冗談風味で本音を駄々洩れにしていたら、実は義兄妹で即プロポーズしてもらえて結婚して。今は3人で有名モデル家族として時々テレビにも出ちゃっています。おめでたおめでた。 じゃなかった、めでたしめでたし!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

「血が繋がっているから兄ちゃんと恋人になれなくて残念だなー!あー残念だなーっ!」とか言ってた妹が義妹だった 蹴神ミコト @kkkmikoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ